第二章

氷の世界。

第32話 今後の方針と立場。

 10才となったリグは変わらず町マルシアを拠点に活動をしている。


 二年の経過で、大森林消失に関連したクエストはほぼなくなり、その原因をつくったリグの肩の荷もひとまず下りた。


 リグは今までグラディネイトに割り当てられた高難度のクエストを斡旋してもらい調査、討伐をしていたが、これからは新たな旅先を模索する必要が出てきた。


 それはそれとしてもリグは今日、真っ先にやるべきことがあった。


「おやっさん! 今日で遂に完済ですよね!」


「……ふん、利息を付けてりゃあと半年は掛かったろうがな。まぁ完済でいいだろう。それはもうお前のモンだ」


「ありがとうございます! と言うわけで早速何か新しいのありませんか?」


 感傷に浸る様子もなく新たな武器をねだるリグにガストンは呆れた。


「相変わらずのイカれようだな。その魔剣に並ぶもんなんか早々あって堪るか。どうしても欲しいなら最低でもSS以上の魔石もってこい。そしたら最高の業物に加工してやる」


「うーん、それは残念です。SS級以上の魔物なんて早々出逢えませんから。これからも定期的にメンテ来るんで宜しくお願いします」


「チッ、刃こぼれしないだろが。金にならん仕事なんぞやってられるか」


「またまたー。はいこれお土産です。また帰ってきたら顔だしますんで」


「……フンッ、好きしろ」


 そう言いながらもその顔は嬉しそうであった。


 グラディネイトから無償貸与されている家に帰るとクラリスが不満を吐き出す。


「やはり彼はリグ様の成長に悪影響ですね。これからは店を変えましょう」


「ダメだよクラリス。あの技量がありながらわざわざこの街に残ってくれた。すごくいい人じゃないか。それにクラリスだって大剣のメンテでお世話になってるよね?」


 反論のしようがないクラリスはぷくぅーと頬を膨らませる。


 クラリスは二年を経て17となった。クラリスの種族は人族よりも二~三倍ほど寿命が長く、十代半ばを過ぎるとその成長が遅くなる種族である。


 彼女は可憐さを残しつつも美しさに更に磨きがかかっていた。最近は化粧やおしゃれも覚えた。


 今日は髪留めを新しいのにして前髪を少し横に流してみたのだが、リグが気づく様子はない。ちょっとご機嫌ナナメなクラリスは話題を変える。


「それにしてもこれからどうしましょうか。グラディネイトとの斡旋契約も終了しましたし。一等級となった今、すでに行動制約はありませんが、もし聖等級を目指すとなると国から依頼されたクエストを受ける必要も出てきます。遠方のクエストやクラン加入が必須など条件が厳しいとレィティが言ってました」


 クラリスとレィティ、ブラッドを愛してやまない二人は当たり前のように打ち解け親友と呼べる間柄にまでなっていた。クラリスの化粧もおしゃれもすべてレィティに教えてもらっていた。


 リグは「う~ん」と腕を組んで悩む。


 すでに10才である。


 努力を続けそれなりに力は付けた。クラリスとの剣の打ち合いも互角近くまでになったし、魔力総量も可能なだけ引き上げた。


 だが、リグは最近は伸び悩んでいる。魔力総量=保有魔力量となってしまい、それに関していえば完全に頭打ちとなっていた。リグが強くなった分、死線を潜れるような敵がどんどんと減っていったのである。


 ちなみにその保有魔力が化け物染みているのだがリグはまったく満足していない。


 それゆえリグは魔剣をはじめとした魔道具についても興味を示し始めている。十億した黒い細剣同様、高額過ぎるのと全然市場に出回らないことが難点であったが。


 そしてゲームストーリーが始まるまであと二年しかない。


 端を発する事件――フィアに降りかかりる災厄をどう回避するかをリグは真剣に考え始めていた。


 フィアを事前に助けに行くという選択肢は今のところ不可能である。


 原作ではフィアがどこに暮らしているかまでは語られていなかった。


 それに魔族である彼女がいるのは当然ながら魔族領であろう。グラダナ大陸の西側にあるその土地は広大なうえに濃い瘴気によって人族の侵入を阻んでいる。


 風使いであるリグは強力な自浄能力、回復能力をもたないため魔族領にはいけない。


 もし行くとすれば光魔法を扱える新たなメンバーを探す必要があるも、リグやクラリスに匹敵する実力がないとパーティー全員の瘴気を払うことはできない。


 リグが暴風を起こして瘴気を散らすことも一応は出来るが、目立ち過ぎてそれを引き金に人族と魔族との戦争の火種にもなりかねない。


 よってリグは新たなメンバー探しもしていたが未だ見つからずにいた。


 ――マルシア以外の新たな拠点を設けて人脈を広げる必要性もあるのか。


 リグがぐるぐると頭を回して悩んでいると隣のレイメルが軽い口調で言う。


「リグー? 早く食べないとクラリス泣いちゃうよー?」


 出来たてほかほか、丹精をこめて作った料理の数々を早く食べて欲しそうなクラリスがそわそわしている。


「あ、はい! いただきます」


 リグは一回り大きくなった身体で行儀よく食事を摂っていたのだが、


「あっ!? メルってば僕のチキンフライ一個取ったでしょ!」


「さてねー。よそ見してる方が悪いんじゃないのー」


「そうかそうか。メルがそう来るなら……これでも食らえ!」


 そう言ってリグはメルのチキンフライにケチャップをぶっかけた。


「あぁっー! ボクがケチャップ苦手なの知っててやるなんて酷いよ! リグのバカ!」


「バカって言った方がバカですー。お得意の味消し魔法でも使えばー?」


「バカバカバカー、リグのバカー!」


 相も変わらぬそのやり取りにクラリスは口に両手をあててニヤニヤが止まらない。何度見てもリグとメルのじゃれ合いは眼福であり至福であった。


 お腹を満たしたリグであったが、何かを思い出したのか急にオロオロと視線がさまよい始める。


「……リグ様、なにか私に言うことは?」


 クラリスはこの二年間、穴が空くほどリグを見続けてきたためにすぐに察した。


「えっ!? べ、別にとくには……」 


「リグ様っ!」


「はい、ごめんなさい!」


 

◇◇◇



 クラリスはリグを抱えてフロウレス家へと全速力で向かっていた。


 駄々をこねて嫌がるリグを羽交い締めにしてまで先を急いだ。


「もう! リグ様ってば毎回毎回!」


「だって……」


「だっても何もありません! 貴族としての務めでしょう!」


「……はぃ」


 二人の関係にもうよそよそしさや遠慮はない。


 そんなクラリスがなぜ怒っているのか。


 貴族パーティーが催されるからである。


 リグはブラッドという冒険者を名乗りながらもその立場が辺境伯家の次期当主であることに変わりなかった。


 本当にギリギリになるまでリグはクラリスに黙っていたのだ。


 家に戻ればフロウレス辺境伯家の次期当主として延々荷馬車に揺られて王都レイスラートに行かなくてはならない。



 リグは貴族パーティーという無駄な時間が牢屋と同じぐらいに大嫌いである。





――――――――――――――――――――

あとがき


今回は閑話に近いお話でした。次話から新たなステージに移ります。


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