転生した悪役貴族、最狂の冒険者となって推しを救う。
わらびこもち
第一章
旅立ちと出逢い
第1話 鮮血のプロローグ。
少女フィアはやさしい笑みを浮かべる。
蒼い目をとじると一雫の涙がこぼれた。
きぬ糸のように美しい銀髪が空に舞い、光の粒子となって消えていく。
儚げな笑顔とともにフィアは言った。
『…………ありがと』
ラスボスは倒され、物語はエンディングを迎えた。
「……違う、だろ……」
少年は絶句し、手に持ったスマホを力なくベッドに投げた。
時刻はすでに深夜をまわっていた。
寝静まった家族を起こさないよう、少年は慎重に階段をおりて玄関ドアを開ける。
頭を冷やすため近所のコンビニへと向かった。
纏わりついて息ぐるしい夜風にあたり、すこしの後悔を抱きながら歩を進める。
カップアイス一つだけを買ってコンビニを出ると小さな公園のベンチに腰かけた。
少年の思考を満たすのは推しのキャラ――フィア=アリステラである。
『推し? そんなものないよ』
いつも斜に構えていた少年が初めて推しという言葉を理解し惚れ込んだのが、スマホゲームのアクションRPG『
なぜフィアというキャラに惹かれたのか――――
もちろん見た目が可愛いとか性格が好みだとか色々あっただろうが、少年自身ハッキリとした理由は分かっていない。
ただ一つ言えるのは推しのフィアがまさかラスボスで、絶対に死ぬことを運命づけられていて、しかも壮絶な半生まで明かされて……
(なんだよこの鬱展開。貴重な休み潰されて感情は無茶苦茶だしとにかくフィアを生き返らせてくれよ……いや違う、たかがゲームキャラ、何を考えてるんだ僕は。もう訳わかんないよ……)
頭の中がグチャグチャになって、うつむき項垂れていると、
「あぁ、ようやく見つけた」
――――!?
不意に声をかけられた少年は飛び上がるようにして顔を上げた。
目の前には真っ白なローブを頭から被った不審者がいた。気配を一切感じなかった。
「……ど、どちら様で?」
少年はなけなしの勇気を振り絞って声をだす。目深に被ったフードのせいで不審者の表情はうかがい知れない。
「ごめん、もう時間がない」
中性的な声を発する不審者は質問に答えずローブの中から手元を覗かせた。
手には長剣が握られており月明かりを鈍色に反射させる。とてもレプリカに思えない精巧な作りが少年の恐怖をあおった。
「何か言い残すことは?」
「…………」
淡々とした口調で語りかける不審者に、己が死を悟った少年は諦めたように無言を貫く。
音なき一閃――――鮮血が夜空を舞った。
少年の意識が闇へと呑まれていく。
――――――――――――――――――――
あとがき
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