第15話 感じる異変。
本日、二話目の投稿になります。
――――――――――――――――――
『ルーセントと呼ばれるこの森はかつてわたくしが作った小さな庭でした。親を亡くし身寄りのない子たちを匿って、ひっそりと暮らしたのがその始まりで――』
白うさぎは延々語り続けた。魔獣たちが目を瞑ってうたた寝を始める。
痺れを切らしたレイメルは言った。
「相変わらず話長いなぁ! もう帰るよ?」
『……そうでしたね。わたくしは外庭を解放して魔物たちで囲うことにしました。愚か者どもの侵入を防ぐためです。ですが気付けば庭はわたくしの目の届かない程の大きさになっていました。そのせいで、善からぬ者の侵入を許してしまったようなのです』
「善からぬ者とは?」
リグが問うと、白うさぎは首を横に振る。
『分かりません。ここまでの道中、瘴気にはお気づきかと思います。ですがわたくしはあんなものを許した覚えはないのです。その瘴気はぐるりとわたくしの楽園を囲ってしまいました。わすがここ数年の話です』
数年って随分と放置したなぁとリグは思うも、数百年は生きた相手にそれを言っても仕方がない。
『では、その原因を探って欲しいと?』
「……ええ、この庭以外の者たちは勝手に住み着いたただけ。彼らは最近、我々に敵意も向け始めました。これは由々しき事態です」
「なるほど、ではその魔物や森の処遇は?」
『外庭は新たに作り直すつもりですのでご勝手にどうぞ』
「分かりました。では僕たちが代わりに調べてみます。それで許していただけますか?」
『いいでしょう。子供たちを危険な目に遭わせるわけにはいきませんので』
「過保護か、キミはっ!」と叫び出しそうなレイメルの嘴をリグはつまんで踵を返す。
クラリスは緊張を保ったまま、リグの後ろについて箱庭をあとにした。
◇◇◇
にしても幻影魔獣ゲルニカかぁ……とリグはひとり納得していた。
まさかこんな場所で、あんな強敵にお目にかかるとは思ってもみなかった。ストーリー終盤のサブクエストで登場する魔獣で間違いなく強敵である。
ランクで言えばSSS級。ただし先ほどの個体はまだ若いために強さ自体はS+程度であろう。
一角の白馬のような姿をしたゲルニカは相手に幻覚を見せて記憶を奪い去る。冒険者の報告事例がないのも当たり前であった。
「ブラッド様、このまま去るのが得策かと」
クラリスの提案は最もだ。このまま逃げてもフロミスは引き篭もりらしいから何ら問題ないだろう。けれど――
「約束は果たすよ。反故にすれば、いつかツケが回ってくる気がするんだ」
「畏まりました。貴方様のお心のままに」
リグたちは早速行動に移った。
瘴気を放つエリアに入ると、縄張りに侵入してみた。
けたたましい奇声が響き渡る。
まもなく頭上から大量の石が降ってきた。
リグはそれらすべてを風障壁で角度を変えると、地面に次々とめり込んでいく。
直撃すれば簡単に頭が吹き飛ぶくらいの威力だ。
目の当たりにしたクラリスの眼が狂気の赤に染まった。
「――我が主に仇なす者は滅す」
つぶやき放たれた薙ぎの一閃――木の幹が両断され、大木がミシミシと傾き始める。間髪入れず、クラリスはその大木を全力でぶん殴った。
――――ズゥンッ!!
殴られた部分は木っ端微塵、その衝撃で大木の天地が一瞬で入れ替わり、木の葉と一緒にデッドエイプ達が降ってきた。
猿たちは訳も分からないままクラリスの剣に串刺しとなって断末魔をあげた。
「「「ギィャアアァァア!?」」」
「もっともっと叫びなさいぃ! 我が主への狼藉は万死に値しますっ!」
クラリスは口角をあげながら怒声を散らして猿を屠っていく。
レイメルはリグの肩でふるふると身を縮こませて「クラリスこっわぁ……」と呟く。
リグは屈んでデッドエイプの亡骸を確認した。クラリスに心臓を的確に貫かれたこと以外、目立った外傷や変化は見当たらない。
「あのねクリス、次からは生きた個体もお願いできるかな。あと声は控えてね……」
「も、申し訳ありませんでした。以後気を付けます」
新たな縄張りに入ってデッドエイプの群れと交戦する。
群れのボスと思われる個体の首をクラリスが真っ先に刎ねた。連携の乱れたエイプ達を次々に屠っていくクラリス。
リグは観察に徹した。
異変という異変なのか分からないが、魔物が好戦的すぎるのが気になった。
瘴気が悪影響を及ぼしているのだろうか、動きもいささか単調である。Aランクに位置づけるほどの脅威には思えない。せいぜいB+といったとこか。
そもそも瘴気は魔物が放つ魔力でありマーキングみたいなもの。自ら発した瘴気で興奮し、弱体化するなど本末転倒であった。
……何かがおかしい。
確認を終えると別の魔物の生息域に向かい検証を重ねた。
レッドベア、ハイゴブリン、ポイズンゴードン、ナイトボア……この森で既に確認されているAランクの魔物達はいずれも瘴気に酔っているというのがリグの現在の見立てだ。
縄張り意識が非常に高く、侵入すれば好戦的になるという共通点がある。
それにしても違う種が一様に同じ行動を取るものだろうか。
何より問題となるのはその数であろう。
ここルーセントはすでに大森林にまで成長している。Aランクの魔物たけでも推計5万は超えると言われている。
そのAランクの魔物ばかりがことごとく瘴気にあてられているこの状況は正直言ってかなりやばい。予測もつかない。
上位冒険者やギルドはこの事実を当然ながら把握しているはず。
だが、この現状は冒険者にとって旨味しかなかった。
Aランクの魔物が縄張りから出ず、単調な動きしかしないのである。
上位冒険者にとっては稼ぎ時と言って差し支えなく、問題視もされてないのだろう。
光魔法による浄化が行われた跡もなく、リグは今日すでに3組の冒険者パーティーを索敵に捉えていた。
結局、瘴気の発生原因については不明のままであった。
リグとて広大な森林すべてをくまなく調査するなど不可能だし、そこまで期待されてもいない。
一日とはいえしっかりと調査を終えて報告しに行くと、白うさぎは溜息をついた。
『……分かりました。もう結構です』
そのまま元気なく去って行く。
「お礼ひとつも言えないのか、キミは!」と憤るメルをリグがなだめて大森林をあとにした。
◇◇◇
「ブラッドさん!? どこか具合でも!?」
最低限のクエストだけこなしてギルドに戻ると、担当のレィティにひどく心配されてしまった。リグは何とか理由をつけて納得して貰った。
リグは思った。
――近く何か大変なことが起こるかもしれない。
――――――――――――――――――――
あとがき
次回、リグが独自調査しつつ剣を握ります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます