第40話 観測者。

 クラリスは絶叫しながらリグの元へと駆け寄る。


 リグは肩口に手を当てて傷を癒しながらも、風壁をすかさず展開。


 次の瞬間、またも高密度の閃光がリグを襲う。


 リグですら圧倒する破壊力、それでも天賦の才もつリグは二度と同じ轍は踏まない。


 風壁の特性を変えると顕現した壁を十枚重ねにして斜めに設置、閃光はそのまま鏡に反射したかのように逸れて彼方へと消え行く。


「クラリス、僕はもう大丈夫。警戒のほうを」


「は、はい!」


 リグの索敵にひとつの生命反応が示された。それは瞬き一つで三人の眼前に立つ。


 白髪の長髪で顔には深い皺が刻み込まれた老齢長身の男。鋭く睨む金色の眼の瞳孔が縦に絞られた。



 ――――竜人だ。



「まさか生きているとはな。汝、何者だ? 何故ここにいる?」


「それはこちらの台詞です。なぜ僕を執拗に襲うのですか」


「ほう、ならば答えてやろう。リグレット=フロウレスは啓示にない存在だからだ」


「啓示、ですか?」


「私は答えた。汝も答えよ。なぜまたも世界の中心地にきた? 偶然ではないだろう? この先起こることをなぜ知っている? 返答次第ではここで消えてもらう」


 リグは答えに窮した。


 この男は未来が見えている。本名も言い当てられた。魔眼の類いか何かか。そもそもこんな男は原作に出て来ない。自分とは違い予知能力的なものだと推察されるがどう答えていいか……それでも、


「世界は貴方の知っていることばかりではない。それが知れただけで充分じゃないんですか」


 リグは臆するとはなく、これ以上譲歩する気はないとばかりに言い返す。


 先ほどの攻撃は射出速度と破壊力が異常だがリグにとってはそれだけのこと。リグの数倍の魔力を宿すであろうこの竜人とて身体の動き自体はリグと大差ないと踏んだ。


 索敵の範囲内の攻撃ならば竜人の些細な行動も予測、把握して躱せるとの確信をもつ。


 なによりリグはシナリオの強制力を逆手に取って味方に付けている。


 自分はこんなところで死ぬ運命の存在ではないと。


 リグは明確な殺気を放つ。


 呼応するようにクラリスとニーナも臨戦態勢に入った。


「……吾を恐れぬというのか、狂気に満ちた人の子よ。まぁいい。それはそうとレイメルよ、なぜ啓示もない人の子に力を貸す」


 名指しされたレイメルがリグの肩に顕現した。


「ボクにもそれは分からない。でも、そういう運命だからじゃないのかなグレン」


「……ほう? 貴様にすら分からぬことがあるというのかレイメルよ。益々興味深い。まぁいいだろう。汝の行く末、見届けようではないか」



 それだけ言い残して竜人グレンは消えた。



 一難が去るとクラリスは目に一杯の涙をためてリグに抱きつく。ニーナはその場で尻餅をつき、自分の未熟さを痛感するともに心底思った。



(竜人と対等にやり合えるアニキ、まじかっけぇ……)



 一方でリグは三ヶ月後に起こる未来を確信した。



 これから起こること――――カネル火山が大噴火すると同時に魔族軍が攻め込み、氷の国ブレスコールドは陥落、魔族に占領されるという未来。



◇◇◇



 レイメルが珍しく詳細な情報を開示する。


「世界に大きな変動が起きようという時には啓示、つまり神のお告げみたいなものが降りるんだ。人族の勇者や魔族の魔王といったものがその最たる例だよね。啓示は本人ではなく関係者や中立な第三者に知らされる。今回、第三者すなわち観測者としての役割を果たすのが彼、グレンのようだね。そして啓示にリグの名はないそうだ」


 三人は一様に考え込んでいる。真っ先にクラリスが口を開いた。


「事情がなんであろうとも私はリグ様の騎士。片時もリグ様の傍から離れる気はありません」


「ウチもにゃ。さっきの兄貴めちゃカッコよかったにゃ」


 二人の信頼の言葉にリグはひとつの決心とともに口を開いた。 


「僕はどうも予知夢というものが見るんだ。三月後、氷の国ブレスコールドが魔族に占領されてしまうらしい。ルーセント大森林が消失することも知ってて、結局それが現実のものとなった。だからこの地を選んだ。黙っていてごめんなさい」


 するとクラリスが優しい笑顔で抱擁した。


「ええ分かってます。常日頃からリグ様を見ていますので。私はいつだってリグ様の味方ですから」


「……ありがとクラリス」


 リグは心底クラリスがいてくれて良かったと思った。彼女がいなければここまで頑張ってこれた自信はない。


「もっともっと強くなって今度こそ未来を変えたいんだ」


「はい、リグ様」


(…………)


 ニーナは悔しかった。彼らの絆は自分とは比べものにならない。自分はこれからその行動でもって信頼を勝ち取り、本当の仲間として認めてもらおうと密かに決意する。



◇◇◇



 それから二カ月が経過し、ニーナは爆発的な速度で成長を遂げていた。才能のあるものが狂気の沙汰でしかない二人を相手に死に物狂いで努力したのだ。強くならないわけがない。


 何より期限が切られていた。あと一ヶ月で災厄が起きる。しかも大噴火に魔族軍の襲来。ニーナの村は地下に作られているため、表立った被害を受けないかもしれないが環境は明らかに変わる。



 氷の国ブレスコールドは獣人に対し寛容で、長年共生とはいわずとも不可侵の関係を保ってきた。だが、それがなくなるとなれば村のみんなが魔族に捕らわれ奴隷にされる可能性だってある。


 その危機感がさらなる狂気をニーナに植え付けた。


 一つ目巨人五体を同時に相手取るニーナ、その心中は、


(もっともっとニャ、もっと強くならないと皆を護れない……)


 その思考は既にリグのそれと大差ない。


 ニーナは平然と死線上を突き進む。



 その頃、リグとクラリスはブレスコールド城に招かれていた。




――――――――――――――――――――

あとがき



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