第11話やるべきことは星を見ること
遠い水平線に、今まさに太陽が没しようとしていた。
この激動の一日もようやく終わる――そんな思いを、界人は焼いた伊勢海老をかじりながら噛み締めていた。
「今日、終わっちゃうね――」
隣りにいる、焼いただけのタコの足を齧っていた榛原アリスも同じ思いだったらしい。
なんだか疲れたようにも、ある意味感動しているとも取れるその声に、界人は、うん、とだけ返した。
「結局、通らなかったなぁ、船……」
そう、かれこれこうして二時間ほど水平線を眺め、通る船があったら狼煙を上げて救助を請おうとしていたのだが、見た限り島の周辺を通った船は皆無であった。
「やっぱり、普通の島じゃないんだな、この島」
「そうかもね」
「いくら水深が浅い珊瑚礁に囲まれてるからって、漁船すら通らないのは妙だ」
「そうだね」
「――長引きそうだな、救助されるまで」
ハァ、と界人はため息をついて、伊勢海老の殻を波打ち際に放って立ち上がった。
そのまま、予め見つけておいたロープの切れ端、そして半ば朽ちかけたブルーシートの残骸とを持ち、砂浜の奥に広がる藪へと歩いていく。
「界人君、何をするの?」
「寝床の確保。一応、屋根ぐらいはついたところで寝たいからさ」
「ロープ一本でどうするの?」
「ナイフもないから大したことはできないけど、最低限の雨よけぐらいはこれで作れるよ」
界人は藪に生えていた数本の若木を弛め、その先端をロープで束ねた。そのまま、下に向かってロープを引っ張れば、青々と葉をつけた若木がお辞儀をし、テントのように覆いかぶさってくる。
後は若木を弛めたロープの切れ端を別の若木の根本に縛り付け、周囲をブルーシートで囲えば――見た目は悪いが、即席の雨よけテントの完成である。
「……凄い、あっという間にテント作っちゃった。それもお祖父ちゃん直伝?」
「そうだよ。山奥にキノコ採りに行ったりするときはテントなんか持ち歩けないからな。結構快適なもんだぜ、これだけで」
「凄いなぁ。界人君がいなかったら私、砂浜に雑魚寝だったよ……」
「夏場の野営は蚊がいるから物凄く苦痛だしね」
一応、小屋の近くにも流木を拾って焚き火をし、一晩火を絶やさないようにしておく。火は一度絶やせば再び熾すのに大変な苦労が要る上、生乾きの葉を燻せば蚊よけにもなる。
あとはそこらに積み重なっている枯れ草を毟り、中に敷いた。身体は痛かろうが、小石の上には寝られない。最低限の柔らかさはほしい。
「界人君――」
「なんだ?」
「まだ日没だよ。もう寝るの?」
「山では日が沈めば真っ暗だからやることがないんだよ。榛原さんにもすぐにわかるさ」
「それでもさ――」
「あと、明日は色々とこの島を探索したいんだ。早目に寝て体力を温存しないと。水源の確保、刃物の確保、救助の要請、それと――」
生存者の発見。そう言おうとして、界人は口を噤んだ。
どうしても、その言葉は榛原アリスの前では口にできなかった。
発見するのが生存者ではなく、海岸に累々と打ち上げられた遺体である可能性だって、大いにあるのだ。
いや――もっと考えるべきことがある。
やはりそもそも、この事故そのものがおかしい――界人は手を止めて瞬時考えた。
いくら海難事故というものが突如起こり得ることにしても、あのフェリーは事故発生から沈没までが早すぎた。よく覚えてはいないが、おそらくあの衝撃から船体が引きちぎれるまで、五分と経過していないのではないか。
ましてや単なる座礁事故であるなら、見る間に船が真っ二つに引きちぎれることなど――考えられないことだった。
それこそ軍艦に魚雷攻撃でも喰らったなら別かも知れなかったが、民間人が多数乗っているだけのフェリーに警告もなく魚雷攻撃を喰らわせる軍艦などあるのだろうか。
百歩譲って、そういうことが起こり得る状況が界人たちの知らないところで始まっていたのだとするなら――空に軍用機の一機も見えないのは不自然ではないだろうか。
ましてこの手つかずの大自然が残り、積雪までがある巨大な無人島――。
やはり何度考えても、この島の存在自体が不自然であるし、そこに界人たちが漂着したのも奇妙でもある。
まるでこの島自体が異界に存在しているとでも言えるのではないか――。
その瞬間、ぐい、とワイシャツの後ろを引っ張られ、界人は物思いを消した。
振り返ると、榛原アリスが真剣な目で界人を見ていた。
「うぇ――? 何?」
「まだあるよ、やること」
「え? やること? メシはもう食べて――」
「星を見るの」
「はぁ――?」
「星だよ、星。こういう電気もないところに来たら、星を見ないと」
「あ――ごめん、俺がおかしいのかな? こういう状況下で普通、星って見るもんなのかな? 俺、悪いけどミクロネシアの人たちみたいにスターナビゲーションは得意じゃなくて――」
「ああもう、なんでこういうときにそういう意味不明なこと言い出すの! 黙って星を見ればいいんだって! ほら立つ! 早くしないと一番星が出ちゃうじゃん!!」
大声で界人の言葉を遮り、榛原アリスは砂浜の波打ち際に界人を引っ張り出した。
そのまま、フンフンと鼻息荒く砂浜に座り込むと、じっと空を見上げる。
「あ、あの、榛原さん……」
遠慮がちに声をかけても、榛原アリスはこちらを見ようともしない。ただじっと、そうしなければいけないとでも言うように、赤から群青へと変わっていく空の縁を見ている。
仕方なく、界人も榛原アリスと同じように空を見つめた。
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