第24話やるべきことはウサギ猟
(野ウサギだ――!)
界人は声に出さずに快哉を叫んだ。真夏のこの時期、野ウサギの毛は黒に近い濃い茶色で、愛らしく口をもぐもぐと動かしたまま、のそ、のそと草原を歩き回っている。
界人はしばらく、十メートルほど先に現れたウサギを観察した。耳は長く、手足も普通のウサギである。
これが特別天然記念物のアマミノクロウサギなら、耳は豚のような形で短いはずだから、一応獲って食っても法律的に問題がない種類であることは確かだった。
ゆっくりと、界人は右手に握った棒を振りかぶった。
野ウサギは長い耳を頻りに動かしながら、周囲を警戒している。空から襲い来るタカやワシなどの猛禽類を警戒しているのだ。
その警戒心を、逆に人間が利用する――今から界人がやろうとしているのは、そんな猟法なのである。
今、野ウサギの近くには巣穴らしき場所はない。ならば空から猛禽類が襲ってきた時、あの野ウサギが隠れるべき場所はひとつ――近くに見える、大岩の影のくぼみであるはずだった。
瞬時、息を止め――。
界人は、渾身の力で棒を投擲した。
棒に刻み込んだささくれが奏でる風切り音が、ウサギの頭上を行き過ぎた瞬間だった。
野ウサギはビクッと縮こまり、一瞬だけ硬直した後、まるでボールのようにぴょーんと空中に跳ね上がると、一目散に草原を駆け出した。
どこへ行った!? 界人がその逃亡先を見極めていると、予想通り、野ウサギは大岩の陰のくぼみに身を寄せ、顔を岩陰に突っ込んだまま動かなくなった。
ゆっくりと、界人は立ち上がった。
最早隠れることもなくノシノシと歩み寄っても、野ウサギは逃げようとしない。ただただ、石のように固まったまま震えているだけだ。
界人は、むんずとばかりにその両耳を掴み上げた。
野ウサギはバタバタと後ろ足をバタつかせて暴れた後、嵌められたことを知ったのか、ぐったりと大人しくなった。
「獲ったぞ――!!」
界人は短く勝利宣言をした。
そう、空から猛禽の羽音が聞こえたら、物陰でじっと動かずやり過ごす、野ウサギの本能。
生物に備わっている本能というものは時に人間を驚嘆させるほどに正確で絶対的だ。
絶対的であるがゆえに――少し悪用しようと思えば、今度はその融通の利かなさで人間を驚かせるものだ。
そう、今の界人が行ったのは、ごく原始的な猟法――猛禽類の羽音に似た音を立てる物体を野ウサギに向かって投げ、今のように動かなくなったところを手掴みで捕獲する方法だ。
秋田の山中などでは藁を編み込んだフリスビーのような専用猟具を使ったりするらしいが、要するに似た音が立つものならばなんでもいい。
先程界人が刻み込んだフェザー―ささくれのような刻みが猛禽の羽の代わりとなり、見事に野ウサギを足止めしてくれた、というわけである。
観念したようにぐったりとしている野ウサギを見て、界人は五年ぶりの感覚に血が沸き立つのを感じた。
街では決して得られることがない、獲物を取ったという人間の本能による興奮――どくどくとこめかみの血管が脈動し、この野ウサギを抱え上げて踊り出したいような気分になる。
とりあえず、榛原アリスと自分、そして東山みなみのために、もう一匹はほしいところだった。この草原ならばもう二、三匹ウサギを捕るのは朝飯前だろう。
界人は意気揚々と、投げた枝を回収しに草原を歩き出した。
◆◆◆
ここまでお読みいただきありがとうございます……!!
ちなみに、この猟法はマルウチ猟とかワラダ猟とかいう実際にある猟法です。
狩猟法とか掟とか、そういうことには全く配慮していませんので
真似しちゃダメだぜ!!
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『強姦魔から助けたロシアン娘が俺を宿敵と呼ぶ件 ~俺とエレーナさんの第二次日露戦争ラブコメ~』
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