第34話やるべきことは範馬勇次郎

「……へ?」




 榛原アリスが蒼白の顔で箸を止めた。




「え――なになになに? なんて言った? 未消化の木の芽? 腸の中?」

「だから、ウサギの腸の中にあった未消化の木の芽が入ってるんだって。ものすごくいい香りがするだろ? それってまだ柔らかい木の芽の風味なんだよ。山の爽やかな匂いがするから美味しいんだ」

「つっ、つまり、それって、ウサギの、ウン――!?」

「ウンコじゃないよ。ウンコになってない部分だよ、まだ」




 界人があっけらかんと言うと、榛原アリスが血相変えて砂浜に白桃缶を置き、口を両手で覆って立ち上がった。


 その尋常ならざる挙動に、界人も慌てた。




「はっ、榛原さんどうした?! 喉に詰まったか!?」

「う、うぐぐぐ……! 耐えろ、だえろわだじ……!! グラドルが人前でゲロったら洒落にならな……うぐぐ……!!」

「どうした!? 背中擦ろうか!? 吐くなら吐いた方がすっきりするぞ!」

「や、やべで……! 追い打ちかけないで……! ちょっと気になる男子の前でJKがゲロとか、ホント地獄ッ――!!」

「――あ、これ、美味しいですね」




 ぽつり、と呟かれた言葉に、榛原アリスが土気色の顔を上げた。


 東山みなみが、未消化の木の芽入りのソーセージを食べて顔をほころばせている。




「東山さん……界人君には悪いんだけど……へ、平気なの?」

「まぁ、説明を聞いてちょっと尻込みしましたけど……八代君が作ってくれるなら毒じゃないんだと思って」




 なんでそんなことが気になるんだろう、というような表情で東山みなみが残りのソーセージを噛んだ。




「それにこれ、色んな草の香りがして、実際に美味しいですよ。なんかレモングラスやセージみたいな香りがして、本物のソーセージより美味しいかも」

「おお……! わかるわかる! これ美味しいよな! 特に冬場にクロモジなんかを食べたウサギ肉は美味しいんだよ。よかった、喜んでもらえて!!」




 界人が喜ぶと、榛原アリスがゆっくりと砂浜に座り、力なく項垂れた。




「ん? 榛原さん……?」

「……界人君、私を許してくれ。未熟者、未熟者だわ、私」

「未熟者? なんだよそれ? どういう意味?」

「私、調子に乗ってた……東山さんの方がよっぽど大物だよ。ま、負けたわ、素人に負けた……」




 そう言って、榛原アリスはにこにこえへへとウサギ汁を楽しんでいる東山みなみを見た。




「撮影会でおっぱい強調したり、イメビで挟んだり舐めたりするのには抵抗ないのに、ウサギのウンコ食べるのには物凄く抵抗があるなんて……情けない、ただただ情けないよ私……」

「だからウンコじゃねぇって。未消化の木の芽だって、まだ」

「まだ、の部分をそんな強調しなくていいんだよ……。……よし! リカバリー完了!!」




 突然、榛原アリスは拳を握って立ち上がった。


 さっきから立ったり座ったり忙しい人である。




「現役JKグラビアクイーン、榛原アリス! ウサギのウンコだろうが脳みそだろうが喰らって強くなったる! 絶対天下取って朝ドラとか月九とか出たる! 強くなりたくば喰らえって範馬勇次郎も言ってたじゃん! 目指せ地上最強のグラドル! ウンコがなにするものぞ!!」

「だからウンコじゃねぇって、まだ。それに範馬勇次郎って誰?」




 なんだかよくわからない啖呵を切って、榛原アリスはばるんばるんと巨大な胸を弾ませた。

 

 うおお、迫力あるなぁ、と界人が感心していると、榛原アリスはさっきの表情とは打って変わったニコニコ顔でソーセージを食べ始めた。




「……おお、ウンコだって思わなけりゃやっぱり美味しいじゃんコレ。そうだよね、未消化の木の芽だもんね。まだウンコじゃないんだもん、そりゃ美味しいよね。よーしよし、ウサギさん、ちゃんと美味しく食べられて私の糧になるんだぞ。私が朝ドラ女優になった時はちゃんとクレジットするから安心して食べられてね。えへへ……」




 界人にはよくわからないが、榛原アリスにはもう心配はなさそうだった。


 ウンコじゃないんだけどなぁ、まだ……そんなボヤきを思いながら、そこでようやく、界人はすっかりと冷めてしまった自分の分のウサギ肉を食べ始めることが出来た。



◆◆◆



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