第33話やるべきことはソーセージを咥えること
「おお、なんか無人島サバイバル感出てきたね! 私いっぺんこういうのやってみたかったんだよね――!」
そこらで拾った漂流物の白桃缶を汁椀にした榛原アリスが、実に屈託なく笑った。
実際は洒落になっていない状況下なのに、この人は本当に怯えや恐れというものを感じさせず、むしろ楽しんでいるかのような振る舞いをする。
この人があまり心配性な人でなくてよかった、と、界人の方も何故か救われた気分になった。
「う、うう、これ、ウサギの肉なんですね……! ほ、本当にスープになっちゃった……!」
――一方、なにかにつけて心配性であるらしい人もいて、それがこの小柄な少女、東山みなみである。
東山みなみは漂流物の歯磨きコップを小さな手で持ち、箸代わりの小枝の先に肉を摘んで涙目になっている。
東山みなみのような気持ちの小さい人からすれば、ノウサギを食べることなどそこらの犬猫を打ち殺して食べるぐらいのショックがあるに違いない。
だが――こればかりは慣れてもらわねばどうしようもない。サバイバル状況下でなくとも、喰わねば人は死ぬのだ。
「じゃ、早速食べるか。いただきます」
いただきます。それは文字通り、命をいただくという覚悟と感謝の言葉。
その言葉が本来的にどれだけ重いのか、榛原アリスと東山みなみはこのウサギ肉から知ることになるだろう。
いただきます、という復唱の声とともに、界人は漂流物のプラスチックボウルに口をつけた。
塩とウサギ肉以外には何も入っていない汁に――複雑な出汁の味がした。
ふわり、と香る、苦いような酸っぱいようなこの風味――数年ぶりに食べるウサギ汁の懐かしい味に、界人の心がゆっくりとほぐれていく。
「おっ。思ったより美味しい! 凄い出汁出てるじゃん! これは凄い――!」
榛原アリスが声を上げ、掻き込むようにしてウサギ汁を食べ始めた。
それに勇気づけられるようにして、おそるおそる東山みなみも肉片を口に入れて噛んだ。
「――あれ? 臭くない……。な、なんだかスーパーで売ってる鶏肉みたい……!」
「血抜きはしたから臭くないよ。それに、ウサギ肉は鹿肉と違って癖もないから食べやすいはずだ」
界人が言うと、ほっ、と東山みなみの顔が赤らんだ。
「おっ、美味しい! ウサギ美味しいです! ああ、小さい頃に小学校でウサギ係だったから不安だったけど、あの子たちってこんなに美味しかったんですね! 初めて知った!」
なんだか妙な感動の言葉とともに、東山みなみは全身でウサギ肉の味を楽しんでいた。小学校高学年ぐらいの子どもにしか見えない体躯も相まって、まるで小さな子が喜んでいるように見えて、ついつい微笑ましい気持ちになってしまう。
「おっ、界人君! これがさっき言ってたソーセージ!?」
榛原アリスが、ウサギの腸を縛っただけの長細い肉片をつまみ上げて聞いてきた。
「うん、それがソーセージ。肉を刻んで詰め込んだから美味しいよ」
「おお、無人島でソーセージとはオツだねぇ! じゃあいただきます!」
元気いっぱいの声で、あぐっ、と榛原アリスがソーセージにかぶりついた。
しばらく神妙な顔で咀嚼してから――ほう、と榛原アリスがため息を吐いた。
「なんだこれは……。本当にソーセージみたい。いや、ソーセージより遥かに良い香りがする……。かっ、界人君! これって何が入ってるの!?」
そう、このウサギ肉のソーセージには隠し味がしてある。
これこそがウサギ肉をウサギ肉の味にする、とっておきの隠し味が。
榛原アリスの声に、界人は自慢げに微笑んだ。
「いい香りがするだろ? それ、ウサギの腸の中にあった未消化の木の芽が入ってるんだ」
――界人のその言葉に、場が一瞬で凍りついた――。
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