第3話やるべきことは着火

 着火器具など何もないここで、火を焚く。


 その言葉に、榛原アリスが戸惑う表情になる。




「火を焚く、って……ライターも何もないのに、どうやって?」

「原始人がやってるだろ? 棒と板を擦り合わせて火をつけるやつ、アレをやるんだ」

「そ、そんな原始的な方法で火なんか熾せるわけが……!」

「原始的、っていうのは悪いことじゃないよ。いつでも、どこでも、誰でも、やり方さえ覚えてれば出来る、ってことだ。この場にないライターを探してうろつくよりも、よっぽど早い」




 界人の本気の口調に、榛原アリスが口を閉じた。




 そう言う間にも、界人はチャキチャキと準備を済ませる。


 拾った鋭利なガラス片で木の枝の先端をなんとか尖らせ、拾った板切れの縁にも浅く穴を穿つ。


 漁網の切れ端らしい太い紐を、曲がった枝の先端にくくりつけて、弓を作る。弦になった紐を海水で濡らして摩擦力を高め、輪にしたその間に軸となる木の枝を差し込む。


 木の枝を板の穴に差し込み、上から更に木切れで押さえて――両端を固定する。火口となるのは砂浜の上でカラカラに乾いていたススキの穂だ。


 ものの数分と経たずに、界人は全ての準備を整えた。




「出来た。これが最も原始的な方法――弓切り式の火熾し器だ」




 界人が言うと、榛原アリスが訝しげにそれを見つめた。




「縄文時代みたいに、手で擦り合わせて錐揉みさせるんじゃないの?」

「あれはやってみると結構難しいんだ。手と木の棒の摩擦で手のひらを痛めたりする。この弓切り式の方が少ない力で火が熾せるよ」

「ほ、本気、なの――?」

「爺ちゃんに何回も何回もやらされたよ。――疑うなら、今からやってみせるさ」




 そう言って、界人は木の板に穿った穴に少量の砂粒を入れた。こうすることによって摩擦力が高まり、更に早く火がつく――何回も何回も繰り返した祖父からの教えは、祖父の死から五年以上経った今でも、錆びつくことなく所定の動作をなぞらせる。


 覚悟を決めて――界人は弓の部分を前後に動かし始める。


 弦となったロープが木の枝を回転させ、ゴリ、ゴリ……という音が発した。




 懐かしい火起こしの感触に――ふと、忘れていた祖父の教えが頭の中にこだました。




「――昔、爺ちゃんが言ってた。人間は他の動物とは、三つのことが違うんだって」




◆◆◆




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