第36話やるべきことはヤマビル退治
森の中は――これぞ無人島、と言えるほどの騒々しさに満ちていた。
そもそも無人島という場所には初めて来たが、これほどまでに人跡がない森というのも今日日珍しい。
界人の知る限り、今日ではどんな奥山にも、数十年前のデザインのジュース缶が落ちていたり、今は密林に朽ちた小屋があったり、それなりに人の痕跡があるものである。
だが――この島の森、否、ジャングルはどうだろう。全くそれがない。人間の痕跡どころか、かつてここに分け入った人間がいたという感じがしない。
かろうじて獣道をみつけて歩いてはいるが、これほど人間に対して無秩序に、そして自然界の掟に関して秩序正しく森が繁栄を謳歌している光景を――界人は久しぶりに目の当たりにした。
思わず圧倒されそうなほどのジャングルの佇まいに圧倒されていた界人の耳に、きゃっ、という悲鳴が聞こえ、界人は後ろを振り返った。
「東山さん、どうした?」
「あ、いや、なんでもないんです。ちょっと蜘蛛の巣が顔に……」
東山みなみはほとほとうんざりしたような顔で、二つ結びの髪に絡まった蜘蛛の巣を小さな手で払っている。
元々小柄な人だし、雰囲気が高校生に思えないほど幼い人だから、その様にはなんとか助けてやりたいという庇護欲を煽るなにかがある。
その何かに促されるまま、界人は東山みなみの髪に手を伸ばした。
「ひゃいっ!?」
「ほら、東山さん、ここにも蜘蛛の巣ついてる。動かないで」
「あ、あうう……!」
界人が東山みなみの右耳の後ろを手で払うと、東山みなみの耳が物凄い勢いで真っ赤になった。
「ほら、取れた。もう大丈夫だぞ、東山さん」
「は、はい。ありがとうございます……」
東山みなみが、なんだか視線を逸しがちにしながらぼそぼそと礼を言った。
顔を逸した瞬間、東山みなみの襟元にひょこひょこと蠢く黒いものが見えて――あ、と界人は声を上げた。
「ひっ、東山さん!」
界人は声を上げ、思わず東山みなみの肩を両手で抱き寄せていた。
途端に、瞬間湯沸かし器のように東山みなみの顔が真っ赤になる。
「ギャア! きっ、急になんですか八代君!?」
「動くな! じっとしてて! ここ!」
鋭く言い、界人が東山みなみの襟元を指で示すと、東山みなみが目だけで襟元を見た。
そこに吸い付き、ぐるぐると振り回すように頭を蠢かせている小さな黒いもの――人間の血を吸おうと寄ってきたヤマビルである。
「ほら、ここ。ヤマビルがついてる。これに血を吸われると血が止まらなくて厄介なんだ」
「や、ヤマビル……!? ひええ……! と、取って、取ってください……!」
「まだ血は吸われてないな。こんなもんは指で……」
界人が襟元を指で弾くと、ヤマビルは森のどこかへ落ちて見えなくなった。
ホッ、とため息をついて東山みなみを見ると――物凄く澄んだ色の東山みなみの瞳とバッチリ目が合った。
まだ嫌悪感と恐怖に凍りついている東山みなみに向かって、界人は安心させるように微笑んだ。
「ほら、もう大丈夫だ。よかったな、東山さん」
途端に――東山みなみの頬に赤みが差し、ぽーっ、という感じで視線が熱を帯びる。
「かっこいい……」
「ん? 何?」
「かっこいい、かっこいいです、八代君。私を、私を守ってくれたんですね……」
まるで圧倒的な工芸品を前にして感動してしまったような口調と声で、東山みなみはそんな事を言った。
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