第27話やるべきこと、なんて、私、わからなくてさ
「ぐっ……!?」
今まで気がつかなかったが、界人の左肩はワイシャツごと引き裂かれ、二目と見れない有様になっていた。
滴る鮮血の量は尋常なものではなく、刻一刻と命そのものが体外に流れ出していっているのがわかる。
布切れで止血したところで、たかが知れた効果しかあるまい。
界人は激痛に歯を食いしばりながら、しばし瞑目し、心の中の祖父に問うた。
「なぁ、爺ちゃん。俺、このままだと死ぬよな?」
界人は奇妙に静かな気持ちで、祖父に、そして自分に問いかける。
「なぁ、爺ちゃん。爺ちゃんはアレは絶対に使うなって普段から言ってたよな。使う時は、死にそうな時か、それともか惚れた女ができたときだって」
惚れた女――祖父はその意味を界人に教えてはくれなかった。
女に惚れるというその感覚だけは、いまだに界人にはわからない。
「女に惚れたら、使っていいって、その女を助けるために必要ならいくらでも使え、って――」
惚れた女。
その言葉に、何故か榛原アリスの顔が脳裏に浮かんだ。
今ここで界人が死んだら――榛原アリスも、そして東山みなみも、遠からず飢えて死ぬだろう。
それは――嫌だった。
榛原アリスを死なせたくないと、何故なのか強く強くそう思った。
初めて自分にまともに話しかけてくれた人。
宇宙人のように普通の言葉が通じない界人に根気よく付き合ってくれる人。
よくやったと、自分の行動を褒めて、頼って、信頼してくれる人。
初めて、自分が祖父以外に出会った気がする、「人間」――。
ぼたぼたと、激痛で吹き出してきた冷や汗が顔から地面に滴り落ちた。
「なぁ、爺ちゃん――女に惚れるって、どんな感覚なんだよ」
界人の問いに、答える声はない。
空を仰ぎながら、界人はその高みの向こうにいるだろう祖父に問うた。
「惚れる、ってなんだよ? どういう気持ちになれば惚れたことになるんだよ? 暖めてやんなきゃ、食わせてやんなきゃって思って、それでたまに美味しそうだなって思う、俺のこれは女に惚れたってことになるのか? そんなわけない……よな。俺、また間違ってるんだよな、多分」
何故、自分は何も知らないのだろう。
何故、それを教わることが出来なかったのだろう。
何故――そんな大事な感情が、自分にはわからないのだ。
「爺ちゃん言ってたよな、お前にもいつか好きな女のひとりもできるって。人を好きになる、ってどんな感覚なんだよ。爺ちゃんのことは好きだったけど――きっとそれとは違うんだろ。なぁ、俺、わかんないよ。いつかわかるようになるのかよ。なんで――教えてくれなかったんだよ。そんな事言うんだったらせめてどういう意味なのか教えてから死んでくれよ――!」
界人は生まれて初めて、祖父に憤った。
あまりにも多くの宿題を残したまま死んでしまった祖父に対して。
いつまで経っても――祖父からの回答はなかった。
界人は、左手の先に出来た血溜まりを眺めて、決意を固めた。
界人は、祖父の架した禁を破ってでも生き延びる決意をした。
すぅ、と息を深く吸い込み――己の中の蓋をしていたなにかに、十数年ぶりに語りかけ――ゆっくりと、戒めを解いていった。
「【
◆◆◆
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