第28話やるべきことは即時治癒

 途端に、界人の全身が淡い光に包まれた。


 十数年ぶりに解いた戒めにより、血まみれだった界人の左肩がかあっと熱くなり、引き裂かれた傷が逆再生映像のように塞がってゆき――やがて、完全に消えた。




 界人は左肩を見た。


 引き裂かれたワイシャツ、流れ出た分の血までは補給しきれないが、先程まで満足に動かなかった指先も動くようになっているし、痛みもない。


 重要な神経や筋も繋がり、傷は完全に癒えたと言えそうだ。




 そう、これは今、界人が生活している保護施設の職員にすら口外していない秘密――。


 界人が、自身を「違っている」存在なのではなく、「間違っている」存在だと考える、その根拠となる力だった。




 どこの世界にも、たったの数秒で今ほどの深手を癒やしてくれる医療機関はないし、これほど驚異的な回復能力を持った生物もいない。


 だが、何の間違いなのか、自分にはそれが出来る。


 人間社会の常識からだけではない、自然法則にすら背いたこの力を、生前の祖父は決して人前で使うなと厳に戒めていた。


 この力は普通の人間には備わらない力なのは幾ら何でも界人にもわかっていたし、これを他人に見せたら、きっと自分は怪物扱いされてしまうことだろう。


 だから界人はこの力を天与のものだと思ったことはなく、それどころか厄介な特技であると、心の隅で今までずっと忌避してきた。




 その力を、十数年ぶりに使ってしまった。


 これでまた一歩、自分は普通の人間から遠のいたことになろう。





 それでも――。


 界人は、先程ヒグマに襲いかかられた時に放り投げたウサギを見た。


 あまりボヤボヤもしていられない、この食料の到着を待っている人間が二人もいる。


 そう思うと、しばし虚脱していた身体に力が満ちて、界人は立ち上がった。




「爺ちゃん、ごめんな。俺、約束守れなかったよ」




 ウサギを肩に担ぎ上げながら、界人はひとりごちた。




「でも、おかげでわかったぜ。なんで榛原さんに触れられるとムズムズするのか。俺、わかってしまったんだ――」




 界人はのしのしと地面を踏みしめながら、燃えるような気持ちでいた。


 きっと自分は、先程のヒグマとの命の取り合いをしたせいで、その生死の狭間から答えを悟ったのだ。




 己が悟ったこの答えを、榛原アリスに堂々と宣言してやる。


 そしてもう偽ることの出来ないこのアツい結論を、はっきりと口にしてやる。




 人生で生まれて初めて感じる、メラメラと燃え立つ炎のような思いを胸に秘め、界人は榛原アリスと東山みなみが待つ砂浜に帰る一歩を踏み出した。




◆◆◆




ここまでお読みいただきありがとうございます……!!


こんな変な話なのに今朝方『注目の作品』に載っていました!

注目されてんだ!? 作者が一番困惑しております!!

ご愛読ありがとうございます!



【お願い】

新規連載作品はスタートダッシュが大事であります……!

何卒、何卒、今後の連載のためにもご評価をお願い致します!!


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著者がスライディング土下座で喜びます……!(←マテ)


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あと、もしよろしければこちらの作品もどうぞ。


『強姦魔から助けたロシアン娘が俺を宿敵と呼ぶ件 ~俺とエレーナさんの第二次日露戦争ラブコメ~』

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