第16話やるべきことは人影の追跡
何者かが走り去った森の奥へと駆けながら、界人は久しぶりの山の匂いを感じていた。
何故なのか走って逃げた生存者を追っている今感じているのは、懐かしい感覚――祖父が鉄砲で獲物を仕留め、どぉっとばかりに倒れ込んだ獲物へと駆けてゆくときの、高揚が混じった感覚に似ていた。
倒木を飛び越え、小枝を払い除け、顔に絡まってくる蜘蛛の巣にも構わず、界人は木立を縫って駆け続ける。
山育ちである界人が森を駆けるスピードは尋常なものではない。如何に逃げた相手が俊足だろうと、逃げ切ることなど不可能なはずだった。
と――界人は足を止めた。
雨水が乾ききっていないらしい泥濘の中に、小さな足跡がある。
しゃがみ込んで、生存者がどちらに逃げたかを確認する。
「かっ、界人君――! 待って、早すぎ……!」
榛原アリスがようやくのことで追いついてきた。膝に手を置き、ゼーゼーと息をついている榛原アリスにも構わず、界人は足跡を素早く観察した。
やはり、この足跡はスニーカーや素足ではない、学園の生徒が履いている革靴の足跡と思われる。足跡の深さから、おそらく小柄――榛原アリスと同じ女性のものと思われた。
よほど焦って逃げているのか、周囲には泥が飛び散り、つま先が深い。目的地などなく、とにかくこちらから遠ざかるのを目的に走っているようだ。
「よし、北に行ったな――榛原さん、追うぞ!」
「あ、ちょっと……! ちょっと待ってったら……!」
榛原アリスの恨み声が聞こえたが、構ってなどいられなかった。
再び猛然と森の中を駆けながら、しかし、と界人は考える。
しかし――何故この人は界人たちから逃げているのだろう。
あれだけの海難事故に遭った後、誰だって自分以外の生存者がいるなら泣きたいほどに安堵し、手を取り合って喜び合うはずだ。
逃げた、ということは――まさか自分たち以外に、フェリーの乗客以外に住民がいるのか。いるとするなら、あの革靴の足跡はなんなのだ。
何もかもわからないまま、界人は森を駆け抜けた。
しばらく走って、再び泥濘の中に足跡を見つけた。
足跡が新しい。もうすぐ近くにいる。
止まらずにそう結論し、生い茂る若木を掻き分け掻き分け走った界人の目の前に――やおら巨大な岩の崖が現れ、界人は立ち止まった。
そして、その崖に進路を阻まれ、おろおろと狼狽えている小柄も――同時に界人は視界に入れた。
やはり――生存者だ。
彼女が着ている服は榛原アリスと同じ、凰凛学園の女子生徒の制服である。
「おい、待てっ!!」
小柄に向かって大声をかけると、びくっ! と小柄が震えた。
息を整えるのも忘れて、界人は必死に呼びかけた。
「なんで逃げる!? 俺を見ろ、同じく凰凛学園の生徒だろ!?」
一歩、その女子生徒に歩み寄ろうとした界人の挙動に、ひっと声を詰まらせた小柄が振り返り――あるものを身体の前に突き出した。
振り返るのと同時に、ギラリ、と白く冷たく光ったその光に、界人の神経に緊張が走る。
「こっ、来ないで! それ以上近づかないでくださいっ!!」
物凄く甲高くて――怯えきった声だった。
界人はその女子生徒と、その女子生徒が握っているものを、同時に確認した。
二つ結びのおさげの黒髪と、如何にも気弱そうな困り眉毛の下の、これまた小動物を思わせる鳶色の目。
強い怯えが滲む真っ白い顔、派手さも化粧気もない、それなりに端正ではあるが小作りの顔。
そしてその小さな手が両手で握り締めている――刃渡りが三十センチ近くあるサバイバルナイフが放つ、白く冷たい輝き。
この人は――! 界人は瞬時記憶を逡巡してから――奇跡的に思い出したその女子生徒の名前を呼んだ。
「東山――東山みなみさん、だよな? 落ち着いて、俺だよ。同じA組の八代界人だ」
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