第7話やるべきことはスマホを買うこと
「あ、ああ、海水は電子部品をダメにするから……」
「うわぁ最悪、これで助けを呼べるかもと思ったんだけどなぁ……それだけじゃない、今までの思い出が全部水の泡だよ……」
「携帯かぁ、俺のもきっとダメになってるんだろうな」
界人が言うと、え? と榛原アリスが界人を見た。
「界人君――携帯持ってるの?」
「うん。一応ね、一応。流石にそれぐらいは今どき持ってなきゃダメかなって。爺ちゃんが亡くなったときに家から形見みたいな形で持ってきたんだけどさ」
「ということは、やっぱりガラケー?」
「なんて呼ぶのかはわかんないけど……ああやっぱり、俺のも壊れちゃってるな」
そこで界人はスラックスのポケットから自前の携帯電話を取り出した。
それを見た榛原アリスが――数秒かけて珍妙な表情を浮かべた。
「界人君、これ……」
「うわ、榛原さんに見られるとやっぱり恥ずかしいなぁ……やっぱガラケーってヤツなのか? これ」
「い、いや、ガラケーですらない! 界人君、これ、固定電話の子機だよ……!」
この男は本気で言ってるのか、というような目で榛原アリスが界人を見た。
「DocomoじゃなくてNTTって書いてあるし……これ、親機から数百メートル離れたら使えないよ……」
「ああ、圏外、ってやつだよね、ソレ。やっぱ旧式だから性能悪いらしくて。おまけに俺って友達もいないからさ。恥ずかしい話、一回も鳴ったことないんだよね」
「鳴らないでしょ……そりゃあ鳴らないでしょ……しかもほら、充電とかちゃんとしてるの?」
「えっ、充電って何?」
「あ、もういい。わかった。全部わかったから」
なんだか、一方的に何かを納得して、榛原アリスは哀れなものを見る目で界人を見つめた。
「界人君」
「何?」
「この島を脱出したらさ、私が選んであげるから、一緒にスマホ買いに行こう?」
「え? いいの? 迷惑じゃない?」
「いいのいいの、本当にいいから。お願いだからそれぐらいさせて。あとね、無事に帰れたらこの携帯電話は思い出と引き出しの中にしまっておいて。もう持ち歩いちゃダメ」
「そうかぁ、やっぱり今どきじゃないよね。今どきその、ガラケーとか持ってるのは恥ずかしいことなんだな、やっぱり」
「いや、恥ずかしいと言うより、可哀想だよ……」
「えっ?」
「ううん、もういいから。本ッ当にいいから。今はこの島を脱出することだけ考えよう」
潤んだ目で一方的に話を遮り、榛原アリスはそれ以上何も言うなというように首を振った。なんだかわけがわからない話の流れだったが、榛原アリスはそれ以上、界人の携帯について話をしたくないらしいことだけはわかった。
「ま、まぁ、榛原さんがそういうならいいけど……確かに時間はあまりない。とりあえず、次は食料探しだな。今日のところはとりあえず、海鮮だな」
「おおー、海鮮! 刺し身とかいいね! 新鮮だから美味しそう!」
「何言ってるんだ、榛原さん。いいとこ焼き魚しかムリだぞ」
「えっ?」
界人の言葉に、榛原アリスが目を点にした。
「ここには刃物がないからなぁ。ナイフの一本でもあれば捌くことも出来るんだけど、それがないんだ。今日のところはどう頑張っても串焼きの魚だな」
その言葉に、榛原アリスが肩を落として落胆した。
「そ、そっか。刃物がないんだもんね……」
「そう、刃物。刃物がないから今の俺たちは人間未満だ。明日以降はなにか刃物も探すとして――まずはどうやって魚を捕まえるかだ」
界人は広大な砂浜の向こうを眺め渡した。山を降りた今でも目は良い方で、2.0を余裕で上回るほどの視力がある。その視力で見渡した砂浜の先に――白く海面が泡立っている箇所があった。
「よし、あそこに岩場があるな。榛原さん、歩くぞ」
「えっ? ここで魚を取るんじゃないの?」
「砂浜は狙いが定まりにくいし、エサになるものも少ない。こういうときにまず目指すべきは磯場やサンゴ礁だ。最悪、魚が取れなくても、貝や甲殻類は取れると思うから」
「なるほどなぁ、界人君はいちいち考えてることが凄いなぁ、私だったら一生この砂浜で潮干狩りしてただろうな」
「褒めてくれてありがとうな。――よし、しばらく歩こう。帰ったら蒸留作業も終わってるはずだ」
力強く頷いた榛原アリスに頷き返して、界人は広大な砂浜を縦断する一歩を踏み出した。
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