第39話やるべきことは惚れるを知ること
「ほ、本当に水があった……!」
ジャングルの中を歩いて数分、界人の嗅覚は数年経っても間違うことなく、水源の匂いを嗅ぎつけていた。
滾々と湧き出る水は青く、清らかで、界人たちが見下ろす下で深く渦を巻いている。飲める水なのはひと目でわかった。
「おおっ、予想はしてたけど綺麗な水だなぁ。それに水量も豊富だ。これなら飲み水には困らないな」
界人が驚くと、東山みなみが尊敬の眼差しで界人を見た。
「や、八代君、鼻で水源を当てちゃうなんて凄いです。い、今までどんな生活してたんですか――?」
「ん? ああ。東山さんには説明してなかったけど俺はさ――」
「へっへーん! 凄いでしょ東山さん! 界人君はこう見えてものっすごい野生児なの! だからちょっと常識にはウトいけど、山の中ならこの人ぐらい頼りになる人はいないんだぜ!!」
何故なのか、榛原アリスが界人に代わって自慢した。榛原アリスが胸を反らすと、かろうじて、という感じで巨大な胸を支えていたビキニの布地がミチミチと軋んだ。
「界人君がいなかったら私、もう多分三回ぐらい死んでるし! ちょっと常識なくて唐変木だけど、すっごい頼りになるでしょ! 私が見つけたんだぜ!!」
「い、いや、榛原さん、私が見つけたって……」
「ンナハハハハそんな褒めてくれなくても! 褒めるなら界人君を褒めて! この人のサバイバル能力には私ももう何ッ回も驚いてるんだけど、驚く度に惚れ直すっていうかさ――!」
「ん? 惚れる? 榛原さんって俺に惚れてるの?」
界人が何気なく問うた瞬間、あ、と榛原アリスが言い、えっ? と東山みなみが驚いた。
「んん? 惚れ直す……? 爺ちゃんもそんなこと言ってたけど、そのホレルって直すこともできるの?」
「あ、いや、今のは別に……!」
界人の言葉に、何故なのか榛原アリスが物凄く慌てた。
なんだ、何を慌ててるんだこの人は。界人は眉間に皺を寄せた。
「榛原さんって何? そんな何回も何回も俺に惚れてるってこと? 惚れるってそんな風邪みたいに繰り返すもんなの?」
「い、いや、何を言ってるのかねこの人は! そんな女の子に俺に惚れてるのかとかそんな繰り返し聞くもんじゃ……! どこのイケメンジゴロなのかねこの人は……!!」
「あ、そういえば俺、惚れた女の子がいたらお前が守ってやんなきゃダメだって爺ちゃんに言われたんだけどさ、今曲がりなりにも俺が榛原さんを守ってるこの状況って、俺は榛原さんに惚れてるってことになるのかな?」
うぇっ? と、榛原アリスが目を点にした。
界人は首を傾げた。
「うーん、自分で言っててよくわかんなくなってきたぞ……女の子に惚れたから守るもんなのか? それとも守ってるってことはその女の子に惚れてるってことなのか?」
「かっ、八代君、あんまりそういうことを繰り返し言うと榛原さんが……!」
「俺が榛原さんに惚れてるから守ってるとするなら、俺って榛原さんに惚れてるのかなぁ? よくわかんないな。卵が先か鶏が先か……街の人ってこんな小難しいこと考えて日々生きてんのかなぁ……」
「やっ、八代君! それぐらいにしてあげてください! でないと榛原さんがホラ!」
え? と界人が久しぶりに榛原アリスを見ると――榛原アリスが真っ赤っかになり、両手で口元を覆って涙目になって震えていた。
ぎょっ、と、界人は目を見開いた。
「は、榛原さん、どうしたの!? そんなに真っ赤になって震えて! 風邪!?」
「――い、いや、なんでもないですけど――」
「全然なんでもないように見えない! 榛原さん、やっぱり俺に惚れてるんじゃないか!!」
榛原アリスの両肩を掴んでの界人のダメ押しに、榛原アリスの顔が赤を通り越して赤黒く変色する。
「あーあー言わんこっちゃない、そんな寒そうな格好で森の中とか歩くから惚れちゃったんだ! しかし困ったぞ、惚れた腫れたはドクダミでも治らないって爺ちゃんが言ってたし……!」
界人は真剣に悩んだ。やはり惚れるということはアレルギーや風邪に似ている病気らしい。
風邪は寝ていれば治るし、アレルギーもしばらくすれば痒くなくなったが、惚れた場合はどうなのだろう。じっとしていれば治るものなのだろうか。
真剣に困っている様子の界人と、赤黒く変色している榛原アリスの両方を見て、自分しかいないと思ったのだろう。東山みなみが遠慮がちに言った。
「と、とりあえず八代君、水を汲みませんか? ね?」
「東山さんまで何を言うんだ! こんな何もない島で榛原さんが惚れてしまったんだぞ! すぐに治療方法を探さないと――!」
「あ、あの、惚れるって別に病気じゃないと思いますけど……!」
その悲鳴のような言葉に、えっ? と界人は目を見開いた。
「え――そうなの? 榛原さん、こんな赤黒くなってるのに?」
「そりゃまぁ、ある意味病気とも言えますけど、心配はないと思います、多分」
「こんなに震えてるのに?」
「大丈夫です、多分」
「こんなに涙目になってるのに?」
「病気とは違う理由です、多分」
「とりあえず心配はない?」
「あの、八代君、多分なんですけど、惚れるって、病気じゃなくて……もっと素敵なことだと思いますよ?」
東山みなみが困り眉を極限に困らせて、たどたどしく説明した。
「あの、惚れるっていうのは、誰かのことを可愛い、綺麗だと思うとか、守ってあげたいって思うってことなんです。……わかりませんか?」
◆
ご無沙汰してすみません……。
今久しぶりにこの作品を確認しましたところ、
まだ結構読んでくださっている方がいるようですので、
亀更新ではありますがもう少し続けてみようかと思います。
よろしくお願いいたします。
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