第18話やるべきことは水分補給
東山みなみを砂浜に運んでから約三十分。
小柄を砂浜に寝かせて、塩分を摂らせるために、蒸留した水にほんの少しだけ、海水を混ぜたものを飲ませてみる。
榛原アリスと共に根気よく水を飲ませ続けていると、東山みなみがようやく薄目を開けた。
「う……ここは?」
「ここは私たちが昨日寝泊まりした場所。飲み水はあるから心配しなくていいよ」
榛原アリスが落ち着かせるように言うと、東山みなみは目だけで榛原アリスを見た。
「み、水って……? こんな島でどうやって……?」
「それは界人君が手に入れてくれたの。この人、ちょっと常識にはウトいけど、物凄く頼りになるから。とにかく、安心して休んで」
榛原アリスが言い聞かせるように言うと、東山みなみは浮かせかけた後頭部を再び地面に押し付け、苦しげに瞑目した。
「やっと、やっと休めるんだ、私……。昨日、一睡もしてなくて……」
「一睡もしてない? なにか獣でもいるのか? それとも寝床が見つからなかったのか?」
界人が問うと、東山みなみは首を振った。
「逃げないと、逃げ続けないと、堂島……堂島君が、すぐ近くにいる気がして……」
東山みなみのその言葉は――震えていた。
「堂島?」
その単語を聞いた途端、榛原アリスが表情を厳しくさせる。おや、と界人がその表情に驚いていると、榛原アリスが東山みなみの額に張り付いた髪を手で元に戻した。
「東山さん、あなた堂島に何をされたの? 言える?」
榛原アリスの声に、東山みなみは小さく頷いた。
「私、私、船があんなことになる前に、堂島君のグループに絡まれて……後で、後で俺たちの船室に来い、って。私、断ろうと思ったけれど、堂島君たちが気味悪い声で笑って、断るなんて言うなよ、わかってるよな、って……」
その一言に、榛原アリスの表情がますます険しくなる。
「私、曲がったことが許せない性格だから、以前から目をつけられてたみたいで……。先生に報告しようかとも思ったんだけど、そんなことをしたら後できっと報復される。私、怖くて怖くて、どうすればいいかわかんなくて……」
その表情に、界人自身もクラスメイトである堂島の人となりをぼんやりと頭の中に思い浮かべた。
堂島――堂島健吾。凰凛学園二年A組の不良グループのリーダー核の男で、百九十センチ近い恵まれた体格と、人を殴ることに些かの躊躇いも持たない乱暴な性格を武器に、一年生の時点で強豪であるボクシング部のエースとしてのし上がった男。
普段から無闇矢鱈に胴間声を発して人を威圧し、気に入らなければ手を出してでも黙らせる傍若無人さから、一部の生徒からは蛇蝎の如くに嫌われており、そうでなくとも校内外で色々と悪い噂の絶えない男である。
なるほど――人の社会にほとんど疎い界人にも、流石に東山みなみの怯えていた理由がわかった。
わけがわからないままに大自然に放り出され、一人ぼっちになってしまった東山みなみは、その直前に恫喝してきた堂島の影に怯えていたのだ。
榛原アリスが大きく頷いた。
「なるほど、堂島、あのクズ……東山さん、それはこの島から帰ったら必ず学園に告発するから。最も、あの事故で堂島が死んでればその必要もないけどね」
吐き捨てるような乱暴な口調は、案に堂島はあの事故で死んだのだと、安心させるような一言に聞こえた。
再び小さく頷いた東山みなみに、榛原アリスはもう一度口を開いた。
「それで、このサバイバルナイフは? どこかで拾ったの?」
榛原アリスは傍らに置いたサバイバルナイフを手で示した。
そのサバイバルナイフはホームセンターなどで売っている山菜用のようななんちゃって刃物とは全く違い、背の部分に相手の刃を受け止めることが出来るセレーションまでもが入っている、本格的なものだ。
自然を相手にするだけではなく、時には刃物を持った人間をも相手にすることができる――殺し合いのための刃。
それは明らかに東山みなみなどが個人で所有しているべきものではなかった。
榛原アリスの問いに、東山みなみは小声で答えた。
「それは――桐島さんが貸してくれたんです」
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