第9話 Waterlooのあの時計の下で

- ロンドン -

時刻は昼をまわっていた


地下鉄に乗り、ホテルの最寄駅のWaterloo駅へ向かった。

列車は地上を途中から走ったが、

外の景色は寒く、日本の朝の様な静かな雰囲気だった。


ホテルにチェックインをし、

友人との待ち合わせは午後6時過ぎの為、コウジはメールチェックを行った。


「Waterlooの時計の下で待ち合わせしよう!」


その場所は、2年前にコウジがロンドンを訪れた時にも待ち合わせ場所としていた。

Waterloo駅にいると、ロンドンに来たと実感する。

目印の大きな時計がかかっていて、すぐにわかる。

Waterloo駅での待ち合わせ場所で、これほどわかりやすい目標もないだろう。


予定通り友人と再会し、トルコレストランへ向かった。

店内が満席の為、外で食事をすることにした。

外といっても今は1月、真冬のロンドンだ。

コウジは東南アジアの暑さに慣れていたが、ロンドンの寒さには対応出来なかった。


寒さに凍えるように丸くなって食事をした。

あまりの寒さ故、食べたメニューなんてほとんど覚えていなかった。

覚えていたのは、友人がとても頭のいい女性だったということだった。


場所を変えてWaterlooの駅構内にあるカフェで飲んだ。

2階の席から家に帰る人たちを見ながら、23時半をまわるまで喋った。

30分前に、とうに飲み干したコーヒーカップを片手に。

寒く、見える人は絶えず、急ぎ足で駅を歩く人の姿がそこにはあった。



コウジはロンドン滞在中、しきりに携帯をチェックしていた。

エリーからメールがきていないか、あるいはfacebookにリクエストがきていないか、 数時間 いや 数分に1回は携帯をチェックしていた。


結局 ロンドン滞在中、エリーから連絡がくることはなかった。


客室乗務員は、人によっては乗客から連絡先の書いた紙をもらうことがあるそうだが、その大半はゴミ箱にいってしまう。

きっとエリーもコウジの連絡先の書いたメモ書きはゴミ箱にいってしまったのではないか。


コウジは勇気を出した行動だったが、ロンドン滞在中に連絡がこなかったことでコウジは落ち込んでしまった。


「・・・いや、僕はなんでこんな落ち込んでいるんだ・・・

 会って数回しか話していない人に連絡先を渡して連絡が来ないのなんて、少し考えたら当たり前じゃないか。

 なんでこんな落ち込んでいるんだ。バカじゃないのか?

 機内で会って連絡がとれるようになるなんて、ドラマのような展開なんてあるもんか。」


コウジは冷静になろうと、自分で自分を説得していた。


ミャンマーに戻って1週間が経つころにはコウジは平静に戻っていた。


不幸中の幸いか、コウジのミャンマーでの仕事は忙しかった。

日本人の観光客に対する対応はほとんどコウジが行っていた。

メールも1日、多い時で200通、少ない日でも100通はさばく。

昼食もとれないほど忙しい日もあった。


コウジは忙しさのあまりエリーを忘れかけていたある日、メールボックスに見慣れない件名のメッセージがきていた。


件名:This is Ellie from London flight ~


コウジは仕事の手を止めて、そのメールを開いた。

短く「コウジさん、エリーです。ロンドンの旅はいかがでしたか?」と確かにメッセージがきていた。


コウジは、丁寧にそのメッセージに返信をした。

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