第二章(2013年)

第4話 魔法のランプ

ミャンマーでの生活が始まって半年以上が経過した。


生活も、仕事も少しずつ慣れてきていた。

現地では日本人コミュニティもあり、知り合いをつくるのに時間はかからなかった。

コウジにとって、週末は駐在員らでサッカーをするのが、楽しみでもあった。


日本では行かなかったトレーニングジムにも通い始めた。

コウジは家から徒歩で行けるトレーダーホテルという4つ星ホテルのジムに毎日通った。

休みの日にはホテルのプールを使った。

娯楽の少ないミャンマー生活ではあったが、コウジの体は健康そのものになっていった。


アメリカへ行きたいという気持ちは持ちつつも、コウジはミャンマーでの生活を徐々に楽しんで行った。



2013年 7月


コウジは、1週間の休みをもらいニューヨークへ向かった。

ルートは中東、欧州経由だった。

往路:ヤンゴン → ドーハ → ミラノ → ニューヨーク

復路:ニューヨーク → ロンドン → ドーハ → ヤンゴン

利用する飛行機は、ヤンゴンから欧州までの区間はカタール航空。欧米間はアメリカン航空を利用。


中東というと一見、危なそうに聞こえるがカタール航空の機内設備は世界トップレベルだ。

毎年、エアラインアワード(スカイトラックス)ではトップ3にランクインしている。(世界一エアラインを何度も受賞している)


ヤンゴンを朝8時のフライトで出発し、ドーハへは11時に到着した。

ヤンゴンとドーハの時差は、4時間半のため、6-7時間程度のフライトだ。


ドーハ空港に到着すると、これまで経験したことがないような暑さを体感した。

強い熱風と、強烈な日差しがコウジに降りかかった。


「うわ、ミャンマーより暑いぞ・・・」


この時期のドーハの外気は50度を超す。

さらに海沿いということで湿度はほぼ100%だ。


当時のドーハ空港はボーディングブリッジが機体にかからず、ほとんど搭乗ゲート(ターミナル)から機体までバス移動だ。 その為、否が応でも外気に触れる。


コウジはミャンマーの気温よりも遥かに高い中東の気候に驚きながらバスに乗った。

そんなバスの中にも外気が入ってくる。


10分後、冷房のよく効いた、空港内に入った。


昼間のドーハ空港は人影がまばらだった。

多くのフライトは気温が下がる深夜、早朝に飛ぶ。

コウジはそんな がらんとした空港内を歩いていた。


一つのDuty Free shopに入った。

そこでコウジはあるものを発見した。


「・・・魔法のランプだ」


コウジは独り言のようにつぶやいた。


「え、アラジンの世界って、ここ(中東)?」


さらに、パイレーツオブカリビアンにでてきそうな 怪しげな木箱のような物も、お土産として売られている。


子供のころ、ファンタジーの世界としてみてきたアラビアンの世界、そのモデルとなったのがこの中東(湾岸)のアラブ諸国だったのだ。


コウジにとって、そんなアラビアンの世界に自らが来たことが少し嬉しかった。


ドーハ到着後から2時間ほど過ぎた、13時


ミラノ行きの飛行機はドーハ空港を離陸した。

コウジは、ドーハの景色をみたくて窓際の席に座った。


「・・・・・・ん!! なんだこりゃーーーー!!!?」


眼下には、超高層ビル群、コバルトブルーの海、きれいに整備された海岸エリア、巨大な天然資源の開発施設が大量に存在していた。


さらに まだ建設中の施設も多くあった。


そんな景色を見てコウジはワクワクを覚えた。

「多くの人が東南アジアを注目するが、生産拠点や市場としてであって、世界の中心ではない。 覇権を掴むのは中東(湾岸諸国)かもしれない」


そんな勝手な妄想と一緒に

「ここは実際に現地をみないと」という気持ちに駆られた。


それから数時間後、イタリア・ミラノに到着

コウジはお腹ぺこぺこだった。


「とりあえず、イタリアならどこで食べても美味しいだろう」


コウジは特に下調べをせず、中心地で開いている店に入ってピザ、パスタをたいらげた。

久しぶりに食べるクオリティの高い料理は格別だった。


その食事中にもコウジはドーハの景色が忘れられないでいた。


後に訪れたニューヨークではヤンキーススタジアムで野球観戦をした。

イチロー(ヤンキース)のホームランも観た。


でもこの1週間の旅行で、特に印象的だったのがドーハの景色だった。


コウジは最初、アメリカに行くにあたって中東経由した理由は、

単に「中東」という馴染みのない地域を経由したかったからにほかならない。


特に期待をしないでいた分、衝撃が強かった。


ミャンマーに戻ってからも、コウジの頭には

「次、いつドーハにいけるかな?」と早くも次の旅行を考えていた。

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