第3話 だから来たくなかったんだ
- ヤンゴン -
秋だというのに、気温は30度を超えていた。
ミャンマーは雨季、乾季しかなく日本のような四季はない。
さらに雨季は4月〜9月ごろまでで、10月からは雨がほとんどふらない乾季となる。
コウジにとって到着してから1ヶ月ほどは相当大変だったようだ。
到着初日、迎えの車に乗りオフィスに向かった。
デコボコの道路、リヤカーをひきながら歩く全身真っ黒に日焼けした人、道端でフルーツを売っている人、古いマンションやビル、時々聞こえてくる民族音楽・・・
これまで見たことがない景色が次々とコウジの目に飛び込んできた。
まるで時代をタイムスリップしたかのようだった。
オフィスに到着すると、日本人の男性がオフィスの奥から出て来て迎えてくれた。
コウジの上司となる支店長(水木タカシ)だ。
支店立ち上げというミッションで赴任したが、
既に水木がコウジより2ヶ月先に現地に入り、既に3人のスタッフをリクルートし活動していた。
支店につくと、まず支店の概要の説明を受けた。
支店長とコウジだけであったので日本のような形式がかった研修のような堅苦しいものではなかった。
一通りの説明を終えると、既に時計は12時をまわっていた。
「コウジサン ランチ、ナニタベマスカ?」
ミャンマー人スタッフが片言の日本語で尋ねて来た。
コウジは「えっ? 何がいいって・・・」と戸惑った。
コウジはミャンマーという土地の食べ物を知らなかった。
そもそもどんな食べ物があって、何が食べれるのか?
仕事以前の問題だった。
そのうち一人のミャンマー人スタッフがこれどうですか? とばかりに昼食を買って来てくれた。
近くの露店の炒め飯(ミャンマー語で"タミンジョー")だ。 ご飯2杯程度のボリュームで150円程度だ。
「うん、これなら食べれる」
それからコウジは昼はほぼ毎日、タミンジョーを食べた。
まず最初の難関は突破した。
次なる問題は住まいだ。
家がきまるまでの間、ホテルを転々とした。
海外赴任とはいっても高級コンドミニアムに住めるような待遇ではなく、ローカルアパートに住まなくてはならなかった。
物件を探す間、ホテル住まいだったが、ミャンマーのホテルは劣悪だった。
中でも2泊ほどした2つ星ホテルは最悪だった。
バスタブは欠けていて、シャワーのノズルをかける場所は壊れていた。
シャワーヘッドは浴槽に無造作に置かれていた。
ベッドのシーツも湿っていて、部屋は加齢臭のような匂いが充満していた。
ネットスピードも最悪で、ページを開くことすらできない。
コウジはホテル生活を早く終えて、住まいを決めたいと思っていた。
そしてことある毎に
「だから来たくなかったんだ」というのが口癖のようになっていた。
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