第18話 オフィス移転
10月中旬、支店長の水木が大慌てでオフィスに戻って来た。
ポーカーフェイスの水木だが、この時ばかりは怒ったような雰囲気だった。
水木:コウジさんやぁ、ここのオフィス出て行けってこの土地のオーナーが。もうあったまきた。 みんなに言ってもいいぞ。
そういって水木は奥の部屋に入って行った。
珍しく起こる水木の姿に、コウジは驚いた。
話の詳細はこうだ。
水木やコウジらの働くオフィスは、土地の賃貸料をめぐって対立していた。
土地を所有しているオーナーは、水木らに倍以上の金額を吹っかけて来た。
当然、その額は払えないとすると、1.5倍程度の金額に話をもってきた。
1.5倍でも高かったが、妥協点がそこかとしながら話を進めていった。
すると最後にオーナーがこういった。
オーナー:契約書上は1.5倍の金額だけど、実際は倍の金額を払ってね。
水木:いや、それは払えませんよ。
オーナー:え? それじゃあ俺が税金いっぱい払わなきゃいけないじゃないか! お前ら出ていけぇ!!
明らかに違法とする契約を要求して来たので、水木は毅然としてNoをつきつけた。
それから、毎日のように水木はミャンマー人スタッフと一緒に物件を探しに出た。
2週間後、物件が決まった。
その翌日の朝礼で、水木がコウジら社員に伝えた。
「オフィス移転は12月12日あたりです。12月上旬にはオフィスをでる準備をしてください」
コウジは、オフィス移転の話を聞き、エリーとの約束が頭をよぎった。
コウジは、エリーに連絡をした。
エリーから送られて来た勤務表(ロスター)をみると12月15〜17日までが休みだった。
エリーも、12月16日、17日なら会えると連絡をくれた。
エリーに会うには、12月15日にヤンゴンを出る必要があった。
コウジは、なんとか12月15日、16日、17日に被らないでくれと願った。
数日後、オフィス移転が12月15日と決まった。
コウジは、考え込んだ。
「移転初日だぞ・・・行けるわけないじゃないか・・・」
それからエリーと別の日程を確認するも、エリーは12月下旬は旅行に行くので難しく、16日、17日しか会える選択肢がなかったのだった。
コウジは、翌日支店長に相談をしにいった。
コウジ:支店長、あの12月15日から17日までお休みをいただきたいのですが。
水木:移転初日だぞ。無理だよ。
一蹴された。
コウジは、エリーと会話をする以前に、この水木の休暇承認を得ると言う
"アジア最終予選"を突破しなければならなかったのだ。
その日の晩、コウジはツカサと会って12月のドーハに向かうのが難しくなった話をした。
コウジ:12月15日にオフィス移転だからさぁ、ドーハにいけるか微妙になってきた。
ツカサ:微妙と言うか、支店長の水木さんが言うならもう無理かもな。 まあ普通に考えて、移転初日って重要だしさ、そこで休みとるって相当な理由がないと難しいよね。
コウジ:うーん、、、そうだなぁ
コウジは頭を抱えていた。
だけどもコウジはエリーに12月にドーハにいけないと言いたくはなかった。
容易にその後のエリーの返しが想像できたからだ。
コウジは、改めて翌日の営業時間終了後に支店長の部屋に向かった。
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