第四章(2015年)
第26話 進出計画
2015年 2月
- ヤンゴン市内のカフェにて -
ツカサとリョータは住まいのレジデンスから近いカフェでお茶をしていた。
テーブルには、小さなチェスのコマが置かれていた。
それをつまみ、ジロジロ見ながら思い出したようにリョータは言った。
リョータ:その後、コウジは元気でやってるのか?
ツカサ:ああ、そうだね。 コウジ、少し忙しそうだった。バーにもたまにいるけど、なんだかパソコンと睨めっこ。
リョータ:そうか。あの一件から、俺は少しコウジに声かけづらくなってしまっててだな。
ツカサ:いや、コウジはもう回復してるぞ(笑) 今週末のサッカーにもくるそうだ。
リョータはツカサの話を聞いて幾分安堵した。
コウジは、ミャンマーに戻ってから、会社から言われていたカタール進出計画案をつくっていた。
12月は、市場調査もと思っていたが、エリーのことに頭がいっぱいで、
市場調査なんてできたもんじゃなかった。
コウジは、辛い経験を糧にして前を向いて進もうとしていた。
コウジにとって、エリーにデタラメな夢と言われたことが、
ショックでもあったが、同時に原動力にもなっていた。
2月下旬
コウジは1週間ほど休暇をもらい、日本に帰って本社の人と打ち合わせをした。
本部長:コウジさん、計画書の提出ありがとうございました。
コウジ:いえ、どうでしょうか?
本部長:結論からいいますと、まだ甘いです。これでは支店を立てるなんて無理な話です。
コウジ:・・・そうですか。
コウジはここでも現実に直面していた。
本部長:まだまだ詳細に調べてください。
ですがコウジさん、私が本部長になって、自分で支店を立てたいと言って計画書を持ってきたのはあなたが初めてです。
コウジは、体を前後にゆらしながら頷いた。
(身を少し乗り出して)
本部長:だから応援したいんです。あなたを
コウジは、何度もお礼を言った。
本部長:コウジさん、それで次にドーハに行くのはいつですか?
コウジ:この後、行こうと思っています。
羽田からドバイに行き、ドバイ支店長と話をする予定です。
その後ドーハに1日ほど滞在してヤンゴンに戻ります。
本部長は えっ? という顔をした。
本部長:コウジさん、それ出張ですよね?
コウジ:えっ、まぁ。。。でも 経費申請はしないですよ。
本部長:いえ、申請してください。 一体、いくらかかったんですか?
コウジ:ヤンゴン→成田が8万円、羽田→ドバイ→ドーハが福利厚生ポイントがたくさんあったので、実質2万円ぐらいです。ホテルが約1万円、ドーハ→ヤンゴンが10万円ぐらいです。
本部長はメモをとり少し考え込んでから、隣にいた秘書の方に伝えた。
本部長:これ、経費申請してあげて。本社持ちでいいから
秘書:はい、ですがこのようなケース初めてですね。。。。。どうやってやりましょうか・・・
すぐにコウジは答えた。
コウジ:いえ、結構です。 私自身がやりたいといって調べていて、まだ本当にできるかもわからない状況で会社のお金は使えません!
コウジは必死に拒んだ。
本部長はわかった という表情でコウジの意見を聞き入れた。
会議室を出ると、大林も同じフロアにいたため、近くにいって話しかけた。
大林:コウジ、久しぶりだな。 ミャンマーから脱走したのか?
コウジ:いえ、私用で日本に帰ってきていました。これから中東に寄ってミャンマーに戻ります。
大林:中東?
コウジ:はい、UAEとカタールです。
大林:なんで?
コウジ:旅行です(笑)
コウジのカタール進出計画は、いってみれば会社の一部の人しか知らず、ましてや大林の耳にも入っていなかった。
大林:どうだ、コウジ、ミャンマー終わったらアメリカいけるぐらい出世したか?
大林の問いに、コウジは少し間を置いて言った。
コウジ:いや、まだ全然ですね。 もう少し経験や実績が必要だと思います。
大林:そうか、少しまともになったな お前
コウジは、アメリカ以上に向かいたい先があることを、この時初めて知った。
コウジは、本社を出るとチェンに連絡を入れた。
「これからドバイ経由でドーハに向かう。明日の夕方にはドーハに着くからよかったらまた会って話がしたい」
1時間もしないうちにチェンから、「OK! まってるぞ!」と返信が来た。
コウジは、羽田を0時台に出発するエミレーツ航空に乗り、まずはドバイへ向かった。
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