第27話 踏切
機内は、学生が大半だった。
多くの学生が卒業旅行だかで中東経由のアフリカやヨーロッパへ向かうのだろう。
ヨーロッパへ直行便でいくより、中東経由の方が幾分航空券も安い。
学生らは、これから始まる旅行を楽しみに機内で出発の時を今か今かと待っていた。
窓側には一人の若い男の子が既に座っていた。
その学生は、一人でヨーロッパに向かうのだろうか。彼は日本語で書かれたガイドブックを持っていた。
コウジ:ヨーロッパに行くのかい?
大学生:ええ、まあ。あなたはどちらに行くんですか?
コウジ:僕は、カタールとUAEに行ってから、ミャンマーにも行くんだ。
大学生:・・・もしかして外交官とかですか?
コウジは、笑いながら返した。
「いや、そんな大それた仕事じゃないよ」
少し話をして、その学生は手元にあった大きな本をまた読み返していった。
羽田を出発し、ドバイに到着したのは早朝だった。
ドバイは、ドーハと違い、経由地としての機能もあるが、観光需要もある為、入国審査場(イミグレ)には多くの観光客の姿もあった。
何人かの日本人学生らの姿も見えた。
きっと、彼ら彼女等は 世界一高いタワー "ブルジュハリーファ"を見に行くに違いない。
コウジは入国審査を終え、長い荷物受け取り場所を素通りして到着ロビーに出た。
時計に目をやると、まだ7時にもなっていない。
コウジは時間を潰すのと、食事をとるために、空港直結のメトロに乗った。
ドーハと比べ、ドバイは街が巨大だ。
ドーハのコンパクトな街並みが好きなコウジにとって、ドバイは発展してはいるがどこか疲れを伴う街並みであった。
朝食を済ませたコウジはその後、ドバイ支店に訪問した。
支店長と1時間ほど中東でのビジネスモデルを確認させてもらい、すぐさまドバイ空港に戻り、ドーハへ向かった。
コウジにとって、2ヶ月ぶりのドーハだった。
コウジは荷物をホテルに置くと、チェンと待ち合わせ予定だったドーハ市内のカフェに向かった。
17時を過ぎて、チェンが一人でやってきた。
チェン:よぉ、コウジ! 久しぶり!
コウジ:久しぶり! 12月以来だな。
握手をして席に着くとメニューを開いた。
コウジはエスプレッソを頼み、チェンは紅茶を頼んだ。
お互い、挨拶じみた会話をしている最中、それぞれのオーダーが届いた。
コウジはエスプレッソにシュガーを入れかき混ぜた。
チェンは、少しフーフーと熱々の紅茶に息を吹きかけ、ゆっくりと口をつけて少量を飲んだ。
お互いカップを置いたところで、チェンが質問した。
チェン:コウジ、カタールの事業プランは順調かい?
コウジ:ああ、エリーから聞いたのかな? まあ今、練っているところだ。
チェン:まあな、実現できるといいな。
コウジ:チェンはどれぐらい僕とエリーの話を知っているんだ?
チェン:エリーから話はいろいろ聞いていたな。心配するなコウジ、エリーはコウジのこと何も悪く言ってなかった。
コウジ:・・・そうか。ありがとう。
コウジは忘れたいとしながら、エリーのことを忘れることができていなかった。
チェン:コウジは、エリーと連絡はとっているのか?
コウジ:ミャンマーに戻ったあと、エリーから 一言連絡があったかな。
そのあとは、ほとんど連絡とってないや。
チェン:そうか。 そういやコウジ、エリーに今日きていること言ったのか?
コウジ:いや、言ってない。
チェンは驚くような、顔をして笑った。
チェン:・・・言ってないのか?
コウジ:うん、また会うのが少し億劫でね。
チェン:なぜ?
コウジ:気まずいっていうのが一番かな。また会ったら意識してしまう。
チェンは、「まあそうだよな」という顔をして紅茶を飲んだ。
コウジ:そりゃ会いたいけどさ、今はまだ早いんじゃないかと思っているんだ。
だから、次に来た時に会おうと思っている、エリーがOKなら。
この日本人の感覚、チェンに伝わるだろうか?・・・
チェン:まあ、言わんとしていることはわかるよ。
コウジにとってチェンは、12月に知り合った台湾人の中で一番話す仲だった。
コウジがチェンにいろいろと他の話題で会話をすると、チェンは、日本人の彼女がいた。
だからチェンはコウジの日本人としての独特の感覚は多少なりとも理解していた。
チェン:俺は、バスケやっていたから スラムダンクが好きなんだよ。あの漫画はバイブルだ。日本にいったら、スラムダンクの踏切に行ってみたいな。
コウジ:あぁ、あの鎌倉高校前の踏切か。僕が日本にいたら、是非一緒に行こう。
コウジはチェンと話を終えると、店を出た。
時計を見ると19時 コウジはスークワキーフに向かった。
コウジは12月に見れなかった観光名所の店舗や施設を一通り見ては、写真におさめた。
「来たからには、遊びで終わっちゃもったいねーしな」
少し肌寒いドーハだったが、コウジにとっては、ちょうど良い気候だった。
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