第28話 終わりではなく始まり

翌朝、コウジは市内を散策した。


事前にアポイントをとっていた会計事務所にも出向き、現地の税制についても確認させてもらった。

中東の税制事情を聞くほど難しい問題に直面したが、それでもコウジの気分は高揚していた。


コウジは、会計事務所のオフィスビルを出ると、満足気に近くのショッピングセンターを訪れた。

ショッピングセンター内には、スケートリンクやファッションからスーパーまで様々なテナントが入っていた。


ウエストベイというエリアには、超高層ビル、ショッピングセンター、高級ホテルなどが建っている。

旧市街地と比べても明らかに地下の値段が高いのが容易に想像できた。


スークワキーフなどがある旧市街地にはイスラム文化を感じる場所が多くあるが、

ウエストベイエリアは、真新しい高層ビルの乱立により、イスラム文化の香りはしない。

しかし、街はとてもコンパクトな作りとなっていて、コウジにとってはこの規模が心地よかった。


コウジはドーハ滞在中に予定していたアポイントを終え、荷物を預けていたホテルに戻る前にもう1箇所、行きたい場所があった。


それは、12月17日 エリーと最後の話をした海沿いにあるカフェだった。


コウジはタクシーを終え、数百メートルを歩いてその場所に向かった。

一人で歩いていたが、頭の片隅には12月に歩いた景色が浮かんでいた。


人影もまばらな屋外カフェ

テーブルも、ソファもいくつもあるが座っている人は3人ほどだった。


コウジは、空いているソファに座り、そこから見えるウエストベイを見ていた。


12月の思い出が強く頭を過った途端、少しぐっと込み上げるものがあった。

コウジはすぐに我にかえった。


「あれが終わりじゃなくて、始まりなんだろうな」


コウジは、まだ決まってはいないドーハに向けた計画ではあったが、必ず成し遂げてみせると改めて誓ったのだった。


時折頭上を優雅に飛んでいくカタール航空の姿を何度も見ながら、何度も息をついた。


コウジは、時折 エリーに連絡をしたくなったが、ギリギリのところで何度も踏みとどまった。

昨日のチェンと会話した後も、本当は連絡をしたかった。


でも、コウジは「今、会うのは早すぎる」と言い聞かせて、連絡をしなかった。


コウジはソファに座り、お腹いっぱいになるまで思い出の場所から、ウエストベイの景色を見ていた。

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