第39話 夢の第一歩

コウジにとってタイトなスケジュールでの移動だった。


チューリッヒ到着の翌日、コウジはチューリヒ・クローテン国際空港を出発しドバイへ向かった。


「お仕事お疲れ様でした!」

前日、話をした乗務員がコウジを笑顔で機内に出迎えてくれた。


チューリッヒを飛び立つ機内から見えたアルプス山脈の雄大さと美しさにコウジは言葉を忘れた。

次に来る時は、もう少し長く滞在したいと思ったのだった。




ドーハ経由であった為、ドバイに着いたのは翌朝4時。

ドバイで2件のミーティングを行い、それを終えると日帰りでアブダビへ向かった。

アブダビでも1件のミーティングが入っていた為だ。


ドバイからアブダビへは片道2時間ほどのシャトルバスが主な交通手段だ。

遠い距離ではなかったが、アブダビでのミーティングを終え、すぐさまバスに乗り、またドバイに戻るというスケジュールはハードであった。

さらに、キャリーケースもコウジは持ちながらの移動でもあったからだ。


コウジはドバイに戻り、ホテルにチェックインするとベッドにばたりと倒れ込んだ。


「これ、旅行じゃなくて出張じゃないか・・・」


コウジは旅行としながらも、各都市でアポイントをとっていた為、観光地を巡るという一般的な観光ではなかった。

しかし、ドタバタしたスケジュールではあったが、コウジにとってこの忙しさは嬉しかったのだ。


そして、スーツをきた状態のまま眠りに入ってしまい、朝を迎えた。



翌朝、コウジは着替えてドバイ空港からドーハに入った。

チューリッヒ、ドバイと弾丸のスケジュールであったがドーハでは2泊ほどの滞在の為、幾分楽なスケジュールであった。


この日の昼過ぎに、コウジはアズマンと会う約束をしていた。


コウジは約束のお店の前に到着すると、サングラスをかけた男5人がやってくるではないか。


アズマンはニコニコしながら、手を振ってきた。

アズマンはコウジに同僚のマレーシア人を紹介してくれた。


コウジは、アズマンとその同僚らと一緒にランチをとった。


実はコウジが選んだレストランは、エリーと当時一緒に来たことがある場所だった。

しかし、コウジには少しの思い出が頭をよぎるだけで、それ以上の大きな悲しみなどが込み上げてくることはなかった。


コウジは、アズマンらとランチを共にし、帰り際に同僚の一人・リザルがコウジに聞いた。

「明後日、ギリシャからフライトで帰ってくるけど、よかったらコーヒーでも飲みに行かないか?」


ありがたい誘いだったが、コウジはその日の夕方に空港に向かわなければならず、泣く泣く断ったのだ。


するとリザルは、

「俺の知り合いが、コウジと同じフライトだと思う。情報わかったらまた連絡するよ!」と言い、帰っていった。




翌日、コウジはドーハ市内の高級ホテルにいた。


「コウジさん!」

日本語でコウジの名前を呼ぶ人がいた。

振り向くと、中山と、2名ほどの日本人と1名の中東系の顔立ちをした人の姿があった。

日本からはるばるやってきた海外事業部の面々だ。

手短に挨拶を交わしていると、カタール人が近くにやってきた。

パートナー候補として会話をしていたマタルであった。


コウジはアラビア語は喋れない為、エジプト人スタッフが通訳を行い、話を進めていった。

話の9割型、中山が進めていった。コウジが会話をするタイミングはほとんどなかった。

だがこの商談を行っている最中、コウジは非常にワクワクした気持ちでいたのだった。その理由は、コウジが始めた冒険に会社を巻き込んでいたからだ。


単なるコウジの空想でいるだけではなく、会社として本気で検討段階に入ってくれていたことがコウジにとって大きなモチベーションになっていた。


商談は1時間ほど行なわれた。


特にこの時点で何か決まったわけではなかったが、まずコウジとしての最初の大仕事は終えたのだった。


コウジは、ドーハの街を日本からの出張者らに紹介してみせた。

コウジもドーハには出張者の身ではあったが、何度もきていたこともあり、アテンドはお手のものだった。

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