第5話 夢のはじまり

8月のある日、コウジは日本にいる海外事業部の先輩社員(先輩A)にチャットをした。


コウジ:なんでうちってドーハに支店がないんでしょう? あんなに発展しているのに。

先輩A:中継地ですからね。そもそも旅行会社として採算とれるかって話なんです。


旅行会社は、現地のツアーやホテル手配などで利益をあげる いわゆる"インバウンド事業"が収益の柱である。

隣国のUAE(アラブ首長国連邦)はインバウンド需要が高く、既にドバイ支店があったが、カタールは中継地としてのイメージが強く、実際にトランジット利用者の割合が8割を超えていた。


納得したコウジに先輩Aは続けて、興味深いコメントを返した。

先輩A:ですがカタール・ドーハを知っている人がうちには誰もいないですからね。ノーマークっちゃノーマークです。」


この何気ない返信がコウジの目に留まった。


「・・・・・誰も知らないのなら、これチャンスじゃないか?」


コウジはすぐに先輩Aにチャットを返す。


コウジ:カタール、僕が調べてもいいですか?

先輩A:え?・・・まあ、調べるのは自由だけど・・・


ミャンマーに赴任して10ヶ月が過ぎようとしていた。

仕事に中々面白みを見出せていなかったコウジは、モチベーションの拠り所を探していた。


「カタールも支店立ち上げがミッションになるのなら、ここでの立ち上げの経験は活きるぞ。もっとここでの仕事をプラスに考えるんだ!」


コウジは無理矢理ではあるが、モチベーションをプラスの方向にもっていこうと必死になった。



そしてコウジは、翌年1月にカタールを訪れることに決めた。

さらにカタール滞在後、友人のいるイギリスにも旅行にいくことにした。



さて、カタールを訪れるにしても、直接の知り合いがいなかったが、そのツテはすぐに解決できた。


ふと、数ヶ月前にオフィスにやってきた大学生を思い出した。


その学生は、貧乏旅行真っ只中だった。


「ジャカルタにいるときに、ヤンゴンが立ち上げオフィスと聞いてやってきました

 もしよかったら、立ち上げの苦労話を伺いたいです」


この大学生の目的は、明確だった。

そんな彼をコウジはトレーダーホテルの夕食に連れて行ってあげたのだった。

もちろん、コウジの奢りで。


「いやー、こんなところで食事できるなんて夢のようです! ホントありがとうございます!!」


彼は食事中に何度もお礼をし、続けてこう言った。

「コウジさん、もし中東にいくようなことがあれば言ってください。

 そこら辺、僕知り合いいるので」


大学生の彼は、海外の学生と交流を行う学生団体のリーダーでもあった。

コウジは久しぶりにその学生に連絡をし、カタールにいる知り合いを紹介してもらった。


カタールへの準備を着々とすすめていっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る