第45話 2013年の真実

ティナにこれほどかというくらい揶揄われた夕食の翌日、コウジはマリサと一緒に夕食をとった。


翌早朝フライトの為、早めの夕食をとった。

マリサ:昨日大丈夫だった? なんだか、ティナというクルーに相当いじられていたけど。

コウジ:まあ大丈夫だよ。。。

マリサ:話の中で何度かエリーという人の名前が出てきてたけど、その人ってうちのクルー?


コウジはマリサにこれまでの経緯を伝えた。

ロンドン線での出会いがきっかけだったことを伝えるとマリサはとても興味深そうな目をしていた。


コウジ:だけどもエリーとはもう連絡をとっていないし、彼女はそろそろカタールを去るみたいなんだ。だからもうエリーは過去の話なんだよ。

マリサ:そうね、彼女もカタールを去るようだし、次よ次! もう忘れていきましょう。

コウジ:そうだな。


夕食を終え、マリサは部屋に戻って行った。


コウジは一人でロビーを歩いていると、玄関口でティナとまた会った。

ティナ:あら、コウジさんじゃないの。

コウジ:げっ、ティナ!

ティナ:げっ、とは何よ。 あぁそうだ、あなたの写真、エリーに転送しておいたから。

コウジ:おい、なんて事してるんだ! エリーはなんて言ってたんだ?

ティナ:オーマイゴッドと言ってたわよ

コウジ:いや、俺の方こそオーマイゴッドだし!


焦るコウジをみてティナはニヤニヤしながら笑っていた。


ティナ:大丈夫よコウジ! 私、あなたの味方だから。

コウジ:そのセリフ一番信用ないんだけどな!

ティナ:ふふふ、それとも何? あなたまだエリーを好きでいるの?

コウジ:いや、もう過去の話だ それは。


コウジはティナのいじりにかわすのが精一杯だった。

コウジは閃いたように、ティナに質問をした。


コウジ:そういえば、この滞在中 ホテルはどうだった?

ティナ:そりゃ素晴らしかったわ! 食事も美味しいし、スタッフも親切だし、言うことないわ!

コウジ:そうか、でももし不満があったら僕にいってくれ。ここのスタッフは大抵しっているから僕からいってあげるよ。

ティナ:うん、あなたがこのホテルのスタッフと仲がいいの知ってるわよ。だってあなたエリーが誕生日だからわざわざケーキや台湾料理をつくるように言ってくれてたんでしょ?


コウジは、驚いた。

エリーはコウジとの思い出の多くを、ティナに伝えていたからだ。


最後にティナはコウジに対し、一言残して部屋に戻って行った。

「コウジ、ドーハで待ってるわよ」



ティナと別れて、コウジはロビーから1フロア上がったバーに入った。

いつものようにツカサが一人で紅茶を飲んでいたが、コウジを待っていたかのように手を挙げて笑顔で挨拶を交わした。


ツカサ:コウジ、ティナって面白いやつだな。 一部始終みちゃったぞ(笑)


コウジ:まあな、あのティナって人はエリーと僕の話を相当知っているようだった。

恥ずかしかったけど、おかげで当時をいろいろ思い出させてくれたよ(笑)


ツカサ:そうだなぁ。そういや やけにバーが静かと思ったけど、タケル、リョータ、マサルが帰任してもう1ヶ月経ったかぁ〜


ツカサは誰も座っていない奥のスペースを見入っては思い出にふけるように言った。


コウジ:昨日の食事の場にあの3人がいなくてよかったな。マリサを囲む会が、僕をいじり倒す会に変わってしまうところだった。

ツカサ:まあそれも面白そうだったけどな(笑)



数日後、エリーのInstagramに新しい投稿があった。

空港内の名物モニュメントを横から撮った写真


「The End.」


コウジにとってエリーの投稿は、胸に突き刺さるものだった。

コウジがこれからドーハのストーリーを始めようと目指している最中、彼女のドーハでのストーリーは終わった。

ドーハを目指しつつ、「追いつけ」とばかりに、ひとつの目標のような存在だった人の退職は、コウジにとって辛かった。


ティナに会い、ふと「やっぱりエリーなのか?」と思いたくもなった。

だけどもコウジはエリーがドーハに去ろうが、ドーハを目指す気持ちは変わらなかったのだ。

コウジは、心の中で立ち止まり昔を懐かしむ自分がいたが、それでももう一度前を向いて歩き出そうと決めたのだった。


コウジにとってエリーがドーハを去ったことは辛いものだが、コウジのドーハへの想いが消えることはないのだった。


既に、新しいステージに入っているのだから。

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