第16話 夢の続きは12月

翌日、コウジは仕事を終えてからエリーを迎えにホテルに向かった。

エリーは、日中 一人でヤンゴン市内を走る環状線に乗ったそうだった。


エリー:今日はね、電車に乗ってみたの。

コウジ:電車ってあのめっちゃくちゃ遅い電車?


エリー:そうそう(笑) 車の方が速くておかしかったけど、楽しかったわよ。

電車に乗っているときに、子供とか、おばあちゃんが声かけてきたけど(笑)


エリーは電車の中から撮った写真をいくつも見せてくれた。


ヤンゴン市内を走る電車(環状線)はレール自体がもろいため、日本のようなスピードを上げた運転ができない。仮にスピードをあげようものなら、脱線は避けられないのだ。


コウジはかつて環状線に乗ったことがあるが、1周2−3時間かかるため、途中で降りて引き返して来た記憶がある。


エリーもまた、電車に乗って数駅先のところでタクシーを拾ってホテルに戻って来ていた。


この日の夕食は、ヤンゴン市内を一望できる展望レストランだった。


レストランに入ると、ツカサがいた。

ツカサはお客と会話しながら食事をしている。


ツカサはコウジとエリーに軽く会釈し、お客との会話を続けていた。


食事の席では、

エリーがこれまでフライトで訪れた街のびっくりエピソードなどを話してくれた。


エリー:ナイジェリアのラゴスに行った時にね、治安が良くないから、空港からホテルまでバスだったのだけど、前方を警察の車やバイクに先導されてね。

街を歩く人からもジロジロ見られるし、ホテルの中だけでフライトまで過ごしたのよ。


コウジは、アフリカ大陸に行ったことがなく、エリーの次から次へと出てくるおもしろエピソードを興味津々に聞いていた。



どれくらい笑っただろうか。 エリーも上機嫌だった。

途中、近くでお客と食事をしていたツカサは、その後 コウジとエリーのもとにやってきて軽い挨拶を交わし、帰って行った。


時計を見ると22時を回っていた。


エリー:この二日間楽しかったわ。 コウジ、どうもありがとう。

コウジ:いや、こちらこそ。


コウジの心臓の鼓動が急に早くなった。


コウジ:次、いつ会えるかな?

エリー:また次のフライトが入ったら・・・かな? まだよくわからないけど。


コウジは、思い切ってエリーに伝えた。


コウジ:エリー、もしよかったら僕と付き合ってくれませんか?

エリー:え? ちょっと、冗談でしょ?

エリーは驚いた顔をして、それから少し笑った。


エリー:コウジ、私のことが好きですって? ちょっと待ってよ、私たち今日で会ったの3回目じゃない。 私の人生で最速よ。


コウジ:3回だけど、ほぼ毎日連絡とっていたじゃないか。

エリー:コウジって本当にクレイジーだわ(笑) 会って3回目よ・・・


エリーはしきりに3回という言葉をだしては、コウジに反論した。


エリー:コウジ、いつから私のこと好きになったの?

コウジ:エリーとLINEで会話を始めて徐々にかな。 最初は、友達と思っていたんだけど。


エリー:うーん、コウジは本当にクレイジーね・・・


コウジはエリーから何度もクレイジーと言われた。


エリーは続けて、想いだけでは超えられない大きな壁についてコウジに質問した。


エリー:コウジ、ドーハとヤンゴンよ、時差もあるし遠いじゃない。どうするのよ?

コウジ:今、カタールに支店を建てる計画を考えているんだ。いつ建てれるかまだわからないけど。


エリー:それ決まってないでしょ?

コウジ:でも僕が計画を考えているんだ。


エリー:はっ? あなたが?

コウジ:そう。だからドーハには出張でもいくし、今以上に会えると思うんだ。


エリー:そう。でも支店が立てられないかもしれないじゃない。

コウジ:そうしたら、僕がドーハにいって仕事を探すよ。それか毎月ヤンゴンからドーハに行くよ。


エリー:コウジ、あなたは本当にクレイジーね!(笑)


エリーはコウジの必死なアピールに最後はさすがに笑ってしまった。


エリー:う〜ん でもなぁ・・・コウジ、少し時間をください。

コウジ:わかった。


そこでコウジは思い切って言った。


コウジ:エリー、僕が12月にドーハにいくよ。そこでまたこの話をしないか?

エリー:そうね。そこでこの話の続きをしましょうか。 この二日間、本当にありがとう。


レストランを出て、コウジは昨日と同じようにエリーをホテルに送り届けた。


帰り途中、エリーはカタコトの日本語で

「スコシ、ジカンクダサイ」と繰り返した。


コウジは わかったよ という優しい顔をして、再会を約束した。

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