第13話 絶望のビザ更新
洞窟、青い湖といった二つのスポットをコウジは訪れ9月に入った。
普段通りに業務をしていると、支店長の水木がひょいとバックオフィスから顔だけ出してコウジに聞いた。
水木:コウジさん、来週だか時間ある? 本社の人がテレビ会議で話したいって。
コウジ:はい、大丈夫ですが、私何かやらかしましたっけ?・・・
少し不安がるコウジに水木は笑いながら言った。
「そうかもね(笑) それか、赴任して2年経つだろうから、その状況ヒアリングじゃないかなぁ」
コウジは、水木から言われて はっと気づいた。
「そうか、もう2年経つのか・・・」
コウジがミャンマーに赴任したのは2012年10月
3年の任期とすると、2015年9月迄
コウジは少し、物思いにふけっていた。
「ここでの生活もあと1年か〜 あっという間の2年間だったなぁ」
コウジのこの発言を横で聞いていた水木は、即切り返した。
水木:コウジさん、君は来年に帰れるとか思ってるけど違うからね。早くても2016年4月頃じゃないかな? 早くてもね(笑)
コウジ:支店長、そんな冗談を(笑)
水木:いや、本当だから・・・ああ、そうだ!そろそろビザ更新だろうからパスポート用意しておいてね。
コウジ:ぐぬ。。。。。またあの絶望のシールが貼られるのか・・・・・
ミャンマーで仕事をするにはビザが必要だが、パスポートの二ページ分を使う。
ビザ更新のタイミングで、コウジの働く支店では総務のミャンマー人がパスポートを回収し、手続きをしてくれる。
ビザ更新を終えるとコウジにパスポートを戻してくれるのだ。
パスポートを開くと真新しいビザがパスポートに貼られている。
コウジは、有効期限の日付をチェックする度、ため息をつくのだった。
「うぉぉぉぉぉ!。。。まだこんなにいなきゃいけないのかよ・・・」
延長されたビザのシールは、コウジにとって絶望に等しかった。
1週間後、コウジは本社の役職者とテレビ面談をした。
本社:コウジさん、2年ほどそちらにいますが体調はいかがですか?
コウジ:体調は今のところ大丈夫ですね! 支店長の方が仕事きつそうで死にそうな顔してますけど(笑)
- 爆笑 -
"中々会話することがない本社の人のツボは抑えた" とコウジは内心ガッツポーズしていた。
本社:それではコウジさん、今おいくつでしたっけ? まだ若いですよね?
(28と答えると)
そうですか。それじゃまだ海外にいてもいいかもしれませんね。
コウジ:え?
本社:コウジさん、ミャンマーの次はどこに行きたいですか?
コウジは一瞬考えた。 彼の頭の中によぎったのは二つの国だった。
コウジはまずダメ元で言った。
コウジ:アメリカに行きたいです
本社:アメリカですかぁ・・・
本社の人は、うーんという表情とともに腕組みをして天井を見上げていた。
コウジ:知っています。僕のキャリアではまだアメリカにはいけないということを。
ですので、カタールにいきたいです。 ドーハに支店をつくりたいんです。
本社の人は一瞬驚いた顔をした。
本社:ど、ドーハですか? なんでドーハなんでしょう?
コウジはドーハの魅力(治安、観光資源)や、これから起こる国際イベントなどを列挙して力説した。
本社:なるほど・・・
コウジ:だから、ドーハに支店をたてたいんです。僕にやらせてくれませんか?
少しの沈黙が続いたあとだった。
本社:コウジさん、そこまであなたが言うなら事業計画書をつくってくれませんか?
コウジは驚いた。
本社:ライセンス、出資比率、資本金、オフィス賃料、物価、人件費、他社情報、就航路線、マーケット規模 全部調べてみてはいかがでしょう。
そしてそれを我々に見せてください。
コウジ:はい、やります。ありがとうございます!
コウジが驚いている間にテレビ会議は終わった。
少し、コウジは部屋から出れないでいた。驚きとも、嬉しさとも違う感情が沸き起こったのだ。
しかしコウジにとってはチャンスでしかなかった。
なぜなら、コウジが夢物語のように語っていたカタールへの道が、
わずかでも、開けてきそうなそんな気がしたからだった。
そして数日後、今度はエリーからコウジに連絡が入った。
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