第34話 願い

2016年 1月 コウジは海外事業部に連絡をした


「来期の進出予定国ってわかりますか?」


数日後、新規店舗、新規進出国の事細かなリストが送られてきた。今年の国を見ると・・・やっぱりカタールはなかった。

責任者として書かれているのは、聞いたことある海外支店の支店長たちの名前だ。


「来来期」の項目を見た。 コウジは少し、見るのを躊躇した。


「いや、ないだろう。 僕の空想にすぎない。 でも、もしかしたら・・・」


そう思いながら、来期の計画を見た。


「カタール ドーハ 松本」


コウジは自分の名前を見て驚いた。

ほんの少し涙が込み上げてきた。

一番先に思い出したのは、2014年12月 コウジにとってのドーハの悲劇だった。


それからただただ「ドーハ」だけを支えに取り組んできた2015年。

ストレスの溜まる途上国での業務。

コウジは何度も辞めたいと思った。

その度に、ドーハのことを思い出しては、「必ず」と強い意志を持ってやってきた。


2016年、テーマはもちろんドーハだ。去年以上に確固たる意志をもって。


「本当にいけるのか、どうなのか」

疑えばキリがなく、信じ続けることは難しかった。


2013年 7月 ドーハ上空から見えた景色に衝撃を受けた。 その後、何度も訪れた街 ドーハ


2014年 12月のヤンゴン行きの帰りのフライトで、 悔しさの中に、「必ず、もどってきてみせる」という意思。


そこに、必ずつきまとうのは、

「お前、ドーハに支店たててどうすんのさ?」という冷えた視線

「こんな町好きなのかよ? アンタほんとクレイジーだね」と笑う出稼ぎ労働のタクシードライバーたち



「いろんな人から無理だと言われた。その言葉を黙らせてやろうと思って逆に燃えました」


10年後、自分史を振り返ったときに、そう言えるように。


2016年 夢の扉をこじあける為にコウジは

そのリストを印刷し、お守りのように大事に机にしまった。

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