第30話 掛け違えたボタン

人影もまばらなハマド国際空港


到着ゲートの外のベンチにエリーの姿があった。

エリーもすぐに気がづき、手を振りながら向かってきた。


コウジ:やぁ エリー 久しぶりだな。

エリー:本当ね。随分と入国審査で質問攻めにあったのね。

コウジ:いや、本当に驚くほど審査官が遅くてね。まいったよ(笑)


コウジとエリーは、先にコウジのホテルでチェックインを済ませてから食事に出かけた。

エリーは翌日にロンドンへのフライトの為、夕方には寮に戻らなければならず、コウジとはランチだけでお別れとなった。


一方コウジは、ドーハ滞在の4日間の日中ほとんどを仕事としていた。

久しぶりにサードとも会い、サードの協力のもとカタール人との面会も行った。


カタールでは、業種によっては100%外資での会社設立ができず、コウジの旅行関係では合弁会社設立が必須だった。

その為、パートナーを選定する必要がありサードの協力を得ながら、カタール人らと面会した。


カタール滞在最終日は、エリーが時間をとってくれるということで、それを楽しみにドーハの滞在を過ごした。



カタール滞在3日目、コウジのもとにエリーから連絡が入った。

「コウジ、ごめん。明日なんだけど、友達と会う用事ができてしまって・・・会えなくなっちゃったの」


翌日の予定はすべて空けていて、心待ちにしていたコウジは、愕然とした。

聞けば、チェンもエリーと会うそうだ。


コウジは、全く状況がつかめず、チェンに連絡をした。


チェン:おう、どうしたコウジ。 エリーと無事会えたか?

コウジ:到着初日に会えたけどさ、明日 台湾人の面々で会うのか?

チェン:あぁ、それがどうかしたのか?

コウジ:どうかしたもなにも、明日 エリーと会う予定だったんだ。 急にさっき連絡がきてドタキャンになったんだ。

チェン:・・・・・そうか、コウジ。 明日は残念だが厳しいぞ。

コウジ:なんとか、日程をずらすことができないかな?

チェン:いや、それが明日は厳しいんだ。友達全員が揃うのが明日しかなかったので急に明日みんなで会うことになった。


エリーら乗務員の休みは不定期だ。急に休みになることもあれば、欠員の為呼び出しっも発生する。

その為、同期や仲のいい面々と揃うのが滅多にないのだった。


コウジは、必死にチェンに なんとかしてスケジュールを変えることができないか伝えた。


チェン:コウジ、お前のいうことはよーくわかるし、俺だけが会うのなら日程を変えてる。だけど明日会うメンバーは大勢だから厳しい。

もし、急に日程を変えれたとしても、コウジのことがみんなにわかってしまうぞ。


コウジ:わかった。 エリーに僕から伝えてみる。決めるのはエリーだ。


そう言って電話を切り、エリーに連絡をした。


コウジ:エリー、明日だけどどうしても会えないか?

エリー:そうね。ごめんなさい。 明日はどうしても無理なの・・・


コウジ:もし、僕が滞在を少し延ばしたら会ってくれるか?

エリー:・・・・・・

エリーは黙ってしまった。


コウジ:僕は、エリーに会いたくてここに来たんだ。


少ししてから電話の向こうではエリーの啜り泣きが聞こえてきた。


エリー:コウジ、お願いだから私をこれ以上困らせないで。

私の為に会いにくるなんてもうたくさん!


あなたはいい人なのは知っている。

でもそれが本当に辛い。私もあなたに辛い思いをさせたくない。もう終わりにしましょう。



コウジはエリーを追い詰めてしまっていたことに気づいた。


電話を切ると、エリーがLINEで長文のメッセージを送ってきた。

コウジは読む前から、「お別れメッセージ」だということを悟った。

LINEもfacebookもブロックされたんだと覚悟した。


コウジは、チェンに翌日の会う場所すら聞くことはなかった。

このような状況でその場所にいけば、さらにエリーを苦しめることになるとは簡単に想像できた。



コウジは、ドーハに訪れる前にエリーから送ってもらった勤務表を見た。

コウジの帰るフライトと同じ時間帯にエリーにもフライトが入っていた。



翌々日、コウジは空港に到着しエリーのフライトである ブダペスト行きの搭乗ゲートに走った。


「最後に一目会いたい、できるものなら謝りたい」


しかし、ブダペスト行きの搭乗口にエリーの姿はない。既に機内にエリーは入っていた。

コウジの20m先にはブダペスト行きの飛行機が駐機していたが、コウジがエリーに会うことはできなかった。


コウジが立ち尽くす中、搭乗ゲートは静かにしまっていった。

対応業務を終えた、地上係員らは、足早にその場を去って行った。



コウジは、後悔をしながらもミャンマーに戻っていった。

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