第三章(2014年)

第7話 初めての中東

2014年1月21日 12時をまわった頃、カタール・ドーハに降り立った。


2013年7月 機内から見下ろした人工的に作られた多くの景色は、コウジの情熱を掻き立てた。


コウジはまず初めに行きたい場所があった。


"ドーハの悲劇"


日本サッカー界の歴史の中で、絶対に忘れることのない、絶対に欠かすことの出来ない場所だ。

その舞台となった場所がドーハ市内に位置するアルアリスタジアムだ。

コウジはドーハに到着し、まず最初にここを訪れることに決めた。


空港の到着ロビーを出てタクシーに乗る。

ドライバーにホテル名を教え、どれぐらいかかるのか聞いた。

すると「5分もあれば着くよ」との答えがかえってきたのだ。

実はドーハ空港は市内の中心地に位置している。

(2023年現在は、空港拡張により市内から車で10分ほどの場所に移設され、ドーハ空港からハマド国際空港と名称変更となっている)



空港からホテルまで送り届けてくれたタクシードライバーはエリトリア人だった。

カタールの人口のうち8割以上が外国人労働者で占めている。

道路の清掃、タクシードライバー、レストランの定員などは皆外国人労働者だ。



コウジは、ホテルにチェックインを済ませ、ドーハの悲劇のあったアルアリスタジアムへ向かった。


1月のドーハは、半そででは少し寒いぐらいの気候だった。

過ごしやすい気候で、さらに治安もいい。7月に訪れたときの灼熱とはえらい違いだ。


ホテルを出て、1時間ほど散策をしながらアルアリスタジアムに着いた。

コウジは、アラビア語が出来ないので、アルアリスタジアムの説明が書かれているウィキペディアのページをアラビア語に換えて係員に見せた。


すると

「ここだ! 入っていいぞ!」と肩を叩き迎えてくれた。


93年 ワールドカップへの出場が絶たれた場所

それでも日本サッカーは、マイアミの奇跡、ジョホールバルの歓喜へと歴史は続いていった。

今でも日本サッカーファンにとって、この三つの出来事は忘れられない場所でもある。


ピッチは整備がされていて、ゴールポストに近づくと、かつてのドーハの悲劇の映像が蘇ってきた。



「この先に、アメリカワールドカップが待っていた」



翌日、

コウジは午前中に一人で旧市街や、ショッピングモールを歩いた。

スークと呼ばれる、アラビア語で市場と呼ばれる場所は、イスラム文化に馴染みのないコウジにとっては新鮮な場所だった。

独特な香りを放つスパイス、コロン(香水)などもスークから匂ってくる。


高い壁と無機質な石壁がダンジョンのように続いている。


スークは街の中心にあり、そこから歩いて大通りを渡ると、コバルトブルーの海が目の前に広がる。

コーニッシュと呼ばれる海沿いのエリアだ。



昼過ぎにホテルのロビーに戻ると、白い服を来て、ターバンを巻いて立っているカタール人がいた。

事前に知人から紹介してもらっていたサードだ。

サードは、コウジを見つけるとニコっと笑い、軽く会釈した。


「コウジさん こんにちは。 私はサードと申します」

とても流暢な日本語で挨拶をしてくれた。


コウジはサードの車に乗り、街中を走った。

車の中では日本語でカタールの街をサードがいろいろと教えてくれた。


イスラムというと、怪しいイメージを抱く人もいれば、

中東というだけで、テロなどの危険なイメージを持つ人もいる。

しかしカタールは、ミャンマーと比べ物にならないくらい、街が綺麗で、治安が良かった。


サードは辺りが暗くなるまでコウジを様々な場所に連れて行ってくれた。

その後、コウジの滞在先のホテルまで送り届けてくれた。


サード:コウジさん、はい ホテルに着きましたよ〜

コウジ:サードさん、本当にありがとうございました! また次にドーハに来た時はお会いしましょう!

サード:はいはい、ぜひ会いましょうね〜


ニコニコしながら、サードはランドクルーザーを急発進させて帰って行った。


コウジは、翌日のロンドン行きのフライトが早い為、すぐに眠りについた。

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