29

「お前が俺達を喰うのは、それが必要だからか?」


 

 彼が何を明かそうとも、僕にはもう関係ない。

 僕は、

 あの少年が目の前で、彼女に取り込まれたその時から、

 僕は、負けていた。

 どういう道順であろうとも、行き止まる事は確定的だった。

 どれだけ先延ばせるか、それだけの差異しか生じ得ない。

 

「お前は誤って此処に来た。それを正す方向に、進む筈だ」


 僕は命すら奪われそうになっている。想いを蔑ろにされたくらいで、踏みつけて躙り潰されたくらいで、何を喚くことがある?


「ってことは。と、言うことは、だ………!」


 彼が無粋で不躾に、開いて暴いて晒上げて、それで、何を嘆くことがある?


「このまま給餌を続ければ、こいつは近づくのか…?“自由”…!俺が帰属するべき法へ……!」


 帰るなら、とっとと帰れ。

 僕の前から、いなくなれ。

 二度と顔を見せないでくれ。


「いいさ!くれてやる!全部!」


——この星の、


「ぜんぶだ!」


 僕は彼女を僕の物にできない。

 僕は彼女の物になれない。


 僕には何も残ってないのに。


 目蓋が、重い。


 ひらかない。

 

 筋力を失ったみたいに、


 閉じる力が働いているみたいに。


 とろけて流され、形が失せる。


 「僕」であることすら、指の間から逃げていく。


 彼が彼女を力で御して、手中へと収めている間にも、

 世界を対価にした契約が、結ばれようとする内にも、


「 」は、消   まっ  絶え    た  個 で くな  。存   なわれ 


——世界を対価にした契約

——世界を対価に

——世界を

——この星の、


 「ぜんぶ」だって?

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