25

「これがこいつの、本性、っていうか、本能か」


 

 燃え上がる。

 根が、彼女が、焼かれ弾かれる。


 鉄板の上のような熱気と、猛る王獣の如き唸り声。

 彼は神聖で、侵すべからざる対象なのか。銀に触れた吸血鬼みたいに、彼女の指が罰せられている。身体に届かず、球状に張られた、えんまくに止められる。彼は太陽を操ると言った。6000℃の表層から、一部を借り受けることまでも。彼女の動きは、人に反応できるものではない。それでも高精度で防いでいるのだから、自律防御だと推定できる。


 触れたら散らされる、眩い光。

 それならもう、彼自身が太陽じゃないか。

 油断も不意も、彼には無い。


「お前の役目が分かった」

 そして彼は僕の立ち位置にも、持てる強権によって指図し始める。

「お前が、こいつの目なんだ」

 明晰に解きほぐし、明快に断ち決める。

「お前のような才を持った奴を使って、自分の餌をマーキングさせる。誘き寄せるところまで、業務内容かもしれない」

 僕と彼女の関係を、益々と無機質に、一段と軽々しくしてしまう。ただでさえ僕は、唯一あぶれた人間なのに。

「そいつがこの世界に来た時点で、お前のような奴が生まれる。そういう生き物なんだろう。そうやって存在を輸入した途上で、数滴零れた“外”の法、それが俺や、あいつら三人に作用した」

 草地を枯らしながら不毛を転々とする、草食動物の群れのように。彼女は食べ物を求めて飛来し、その生物行動がこの世を狂わせた。そして僕は偶々、触腕の一本に任命された。

 咀嚼するほど、納得できる話だ。僕が特別だという妄言に比べれば、遥かにリアリティを持っている。

 たぶんそれで、当たっているのだろう。

 そうとは露知らず、彼女を拝していた、無為なる僕。

「皮肉な話だが、それを運んだこいつより、俺に宿ったものの方が、頂点捕食者に相応しい」

 そうだな。

 彼は正しい。僕の動物的本能が追従する。

「降ったか湧いたか知らないが、お前が持ち込んできたものは、俺を高みへ誘っている」

 彼は適応し、その地位を築いた。

活餌いきえはお前だ。ミスター、もしくはミス・アウトサイダー」

 だけど、

「お前を起点に、“向こう側”を釣り出してやる」

 そんなことは、



「そんなことはさせないぃ!」


 

「何?」

 沸騰し、泡が弾け、大気へ放散される音。熱した鉄の上に、水を撒いたみたいに。

 “YJB”で注目させた椅子を横振りに叩きつけ、高熱で融解・蒸発させられ、無効化されて素振りになって。

「渡すもんかあ!!」

が、それは分かっている。ここでもし、背後にもこの膜を展開したなら、自分を数千度でサンドすることになる。だから、

「焼けてしまええぇぇぇ!!」


 もう一振り。より深く踏み込んで。

           彼は億劫そうに振り向いて防御。

                      そして、一度彼を認識した彼女は、

                              見失うことなく、

                 その間に再び捕食手ほしょくしゅを放ち、


 守れば焼け死に、

 遅ければ食され、


 合わせたわけではないけれど、

 

 前後両面焼き、同時攻撃の形が成った。


 

 これなら、


「これで!」

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