第30話 外でのイベントと報酬
――学園全体がギスギスしているから、出席を控えるように。
カルラ姉さんを通して学園長から直々にそういう指令が出てしまった俺は、寮から出て水の都リンディウムをぶらぶらとしていた。
どうせイラ先輩が舞台を整えてくれるまでは、俺もレオナ王女も出来ることはないからな。
「そういえばこうして街を一人で歩くってあんまりして来なかったな」
何度かシンシアとデートをしたり、アリスたちクラスメイトと出かけることはあったが、一人出歩くというのはレアだ。
学園の生徒がこんな平日から歩いていると目立つので、お忍びのような格好だが、これはこれで悪くない。
せっかくなのでオシャレなカフェなどデートで使えそうな店を新規開拓をしようかなと思っていると――。
「あれは……」
白を基調としたリンディウムは表通りは特に綺麗だ。
貴族御用達である店などは見栄もあるので、大きなガラスのショーウィンドウなども展開されている。
そんなこの街には似つかわしくない、古びた小屋が見えた。
明らかにおかしな小屋なのに、周囲を歩く人々は気にした様子がない。
「そういえばあったな、こんなイベント」
そんな小屋の中に躊躇せず中に入る。
壁一面に置かれた本棚には、古書がずらり並んでいた。
カウンターには誰もおらず、まるで盗んでくれと言わんばかりの配置だ。
これは原作のサブイベントにあたり、本を手に取ると異空間にいる魔物と戦闘することになる。
そして勝つと装備が手に入り、小屋は消える。
ストーリーの進行次第で何度か出てきて、クリアする毎に敵は強く、手に入る装備も良くなるイベントだ。
「さて、まあ一回目だから大したことないだろうが……」
本棚から適当に選んだ本を取り、中を開く。
その瞬間、俺の身体が吸い込まれ、気付けば宇宙のような異空間に入っていた。
目の前には翼を生やした紫色のゴブリンみたいな存在、デーモンがいるが――。
「ギャギャギャ!」
「燃えろ」
瞬・殺!
原作と異なりステータスなどないが、あったらラスボス相手に一人で戦える程度の強さはある。
それを考えたら当然の結果だが、ちょっとつまらなかったな。
というわけで異空間から小屋に戻ったのだが……。
「ん? 本来なら小屋は消えるはずなのに、なんで残ってるんだ?」
まさか俺のレベルが高いから、このまま継続してイベントをクリア出来るのだろうか?
手に持っていた本が変化し、小さな猫の人形になったので、クリアでいいはずだが……。
「なんかゆるキャラみたいな顔だが、愛嬌があって可愛いかもしれないな」
とりあえずそれを鞄に入れて、周囲を見渡す。
変わった気配はなく、とりあえず他の本を開くと同じような結果になった。
「ふん」
今度は本の姿をした魔物が大量に溢れてきたが、やはり俺の敵ではなく一瞬で爆殺してしまう。
「やはり続くのか……」
また小屋に戻る。
閉じ込められているわけではないので、このまま出口に出てしまえば帰ることは出来るのだがせっかくなのでどこまで出来るのか試してみるのも一興。
「イベントだけあって、意外と良い装備も出てくるからな」
今度は魔法の展開速度を上げる指輪だ。
上位の魔法使いにとっては誤差レベルだが、まあ学生レベルであればあるだけで助かる代物だろう。
「よし、それじゃあ行くか」
ゲームだとラスト六回目で後半でも使える剣が手に入るはず。
俺は魔法の方が早いので剣をあまり使わないが、現状の世に出ている剣の中だと最上級の力を持っているだろうし、持ってて損はない。
出てくる魔物たちを蹂躙しながら色々な装備を手に入れて、六回目。
「そうそう、こういうのだったっけ」
グレーターデーモンと呼ばれる魔界の上位悪魔。
最初のデーモンとは比べものにならない魔力を持ち、肉体も筋肉隆々としていて強そうだ。
実際、ラスボスエリアに出てくる魔物たち並には強く、もし学園に一体でも現れたら大変なことになるだろう。
手に持っているのは漆黒に薄ら緋色の炎を纏った魔界剣インフェルノ。
地獄の極炎を宿した剣、という設定で火属性に弱い敵にはかなり効果的な武器だ。
「というわけで、それを寄越せやぁ!」
最強クラスの魔物ということだけあり、今までのように一撃で倒すことは出来なかった。
が、二発目まで耐えられることもなく、塵と化す。
「さてっと、それじゃあ帰る……」
手に魔界剣インフェルノを手に取るが、なぜか再び古小屋の中。
ゲームだとあれがラストでそれ以降小屋は現れないはずなんだけど……。
「七回目か。どうする?」
軽く本を手に取ってみる。
普通に本棚から抜けた。ということはこのまま開けばまた異空間に行って、グレーターデーモンより強い魔物が現れるのだろう。
これまでの魔物の強さからいって、おそらく次も大丈夫……とは言えないのが怖いところだ。
グレーターデーモンですらラストダンジョンで出てくる敵クラス。
なら次は下手をすれば裏ダンジョン級と想定されるべきだし、それもピンキリだ。
下手をしたらソルト王を倒したデータですら全滅させられるような魔物が飛び出す可能性もあり……。
「いやだが、ここまで来たらクリアしたいよな」
これで最後、そう決めて俺が本を開くと……。
「は?」
何故かこれまでの異空間ではなく、城の客間のような豪華な部屋。
しかも巨大な天蓋ベッドが置いており、いかにもやりましょうというような場所だ。
「まさかこれは……」
ヤバいと思った。
これは俺によく効きそうな……。
「クロード君」
「旦那様」
「ご主人様ぁ」
「リンテンス……」
いつの間にか現れた、シンシア、オウカ、ミリー、セリカ。
それにアリスやカルラ姉さんまで、色とりどりの薄いネグリジェを着た状態で俺を呼ぶ。
その表情は明らかに女の顔をしており、手招きをしていた。
おそらくこのままベッドに入れば、この世とは思えないような極楽が待っているのだろうが……。
「ふっざけんなぁ! これは! 俺が! 現実でやる!」
目を閉じ、部屋すべてを吹き飛ばすように魔力を解き放つ。
どこからか魔物の悲鳴が聞こえたが、どうせサキュバス系の女王とかだろう。
知ったことかと言わんばかりに魔力を出し続けると、無音が続いた。
目を開くと幻覚は消え、元の異空間が広がっている。
「ふん。まだ生きてたか」
ボロボロになり、必死に俺から逃げようとすると羽の生えた女。
ゲームの裏ダンジョンで出てくるサキュバスクイーンで間違いないが、まさかこんなのがここで出てくるとは……。
「こうして見ると、人間に羽が生えただけにしか見えないな」
その言葉が聞こえたからか、サキュバスクイーンは希望を見た目をする。
まさかこいつ、人間みたいな見た目だから俺が躊躇うとでも思ったのだろうか?
「見た目が似てようと、所詮は魔物だろ? なに人間の振りしてんだよ」
俺が掌に魔力を籠めた瞬間、殺されるとわかったのか最後の力を振り絞って飛び出した。
裏ダンジョンの魔物というだけあり、凄まじい速度だが――俺の魔法の方が早い。
「死ね」
空中で花火のように爆発し、そのまま黒焦げで落ちてくるのを確認した瞬間、異空間が消える。
「今度こそ終わり……か」
少しだけホッとした。
これ以上の敵だとさすがに俺も本気を出さなければヤバいと思ったからだ。
とりあえず古小屋はなくなり、水の都リンディウムの一角にぽつんと立つ形になる。
周囲を見れば何事もなかったかのように、日常が流れている。
そしていつの間にか手の中には、ピンク色の液体が入った透明の瓶。
「これ……まさか」
裏ダンジョンでは、サキュバスクイーンを倒すと稀に手に入る秘薬がある。
それはまあ、性的に使うアイテムで、本来であればイベントアイテムだが……。
「まあ、念のため俺が持っておくか……別に、使おうなんて思ってないけど、念のため……」
別に悪いことをしているわけではないが、こっそり胸ポケットに入れる。
たしかイベントだと凄い効果だった、という話だが、別に興味があるわけじゃないからな。
「さて、そろそろ帰るか」
色々とプレゼントになるのも手に入ったし、たまにはこうしてイベントをこなすのも悪くないな。
そう思って学生寮へと戻っていくのであった。
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