第51話 謁見

 オルガン王国に戻り、慣れ親しんだ王城の謁見の間。

 ソルト王を筆頭に、リンディス王妃、そして父上やシンシアの両親まで集まった状態で、俺は今の状況について改めて説明を行うことになった。


 今言った人たちは全員味方と言って良い。

 問題は、学園内で好き放題し過ぎた代償として実家に泣きついた貴族子息たちの家や、敵対派閥の貴族たちだ。


「あまりにも傍若無人な振る舞い! いくらなんでも看過出来んぞ!」

「リンテンス侯爵よ! これが神童とは片腹痛いわ!」

「他国の令嬢を娶ることには文句は無い! だが勢力のバランスという物がある!」


 などと言いたい放題。

 ちなみになにも言わない貴族たちは、娘と俺を婚姻させたいとか考えてるらしい。


 まあとはいえ、貴族たちの言い分もわかる。


 学園に入学して半年でこれなのだ。

 シンシアの実家以外の公爵家を筆頭に、上位貴族たちからすればここで俺を止めないと、手が付けられないと思うのも自然なことだろう。

 

「皆の意見はわかった」


 ソルト王の一言。

 それまで騒いでいた貴族たちがピタリと言葉を止める。


「それでクロード。貴様はどう考えている?」

「どうって言われても、俺は可愛い婚約者を大切にして、自領の繁栄を願ってるだけですよ」

「それで他の貴族たちが不利益を被ることは?」

「さあ? 真面目に領地を運営してればなにもならないんじゃないですかね?」


 言外に、領民を苦しめたりして、うちと比べられても知らないけど、と含んでおく。

 まあここにいる貴族たちのほとんどが上位貴族なので、細かい領地経営などやっていないだろうし、その程度は些事でしかない。


 問題なのは、俺を継ぐであろうリンテンス家が大きくなりすぎること。

 特に他国の姫級の令嬢たちが集まっているし、権力面で遅れを取るのは敵対派閥からしたら最悪なのだろう。


 ただでさえ、ソルト王とリンディス王妃の寵愛を受けてる身だからなぁ……。


「あ、それなら俺、王宮の政治にはいっさい関わらないですよ」

「「「なっ――⁉」」」

「ふむ……」


 驚いているのは敵対派閥の貴族たち。

 そしてうちの父上。


 いやめっちゃ睨んでくるけど、俺は別に権力が欲しいとかじゃないし、王宮での政治とかに関わりたくないし。

 俺としてはそんなことより恋人たちと楽しく過ごすことの方が大切だ。


 普通、貴族にとってのゴールは各大臣だ。

 領地運営も、最終的には国を動かす立場になるためのおまけ、もしくは踏み台でしかない。


 そもそも敵対派閥の人間たちが俺を恐れているのも、強力すぎるライバルになるからだ。

 だから俺はそれを放棄すると言った。


 これならみんな納得して――。


「貴様にはいずれ、我が息子の後見人になって貰う予定なのだがな」

「えぇぇ……」


 それって王宮で権力持つってことじゃん。

 せっかく纏まりかけたのに、そんなこと言わないでよ王様。


 ほら、みんなまた睨んでくるし。


「だが皆の懸念もわかる。よってクロードには王位継承権を与える」

「……は?」

「これによりクロードはリンテンス家から切り離し、王族の一員とする。そしてもしこれから生まれてくる我が子になにかあった場合、後継者として王位を継いで貰う。異論はないな?」

「いやいやいや! 異論は――」

「我が一人娘を婚約者にしたのに、なにかあるのか?」

「ぐっ⁉」


 いやたしかにそうですけど!

 普通に考えれば現時点で唯一の直系であるレオナを婚約者にしているのだから、自然な流れだろう。 


 それに俺が直接王族の一員として家から切り離されれば、リンテンス家と敵対している派閥の溜飲も抑えられる。

 というより、もうライバルですらないので、敵対するより味方にした方が圧倒的に良い。


 なんなら自分の娘を差し出せれば、王族との関係値の強化にも繋がるので……。


「なんかさっきまでとは別の意味で視線が怖いんですけど」

「貴様が昔から望んでいたことだろう?」

「俺にも選ぶ権利はあると思うんですよね。というか、そういうこと言うならソルト王こそもっと妃を増やして――」


 その瞬間、凄まじい殺気が飛んできた。

 ソルト王じゃない……その隣に立った美女。


「クロード?」

「やっぱりソルト王にはリンディス王妃しかいませんね!」


 にっこりと笑うリンディス王妃。

 危なかった……この世界に転生してから一番死ぬかと思ったぞ。


「貴様らも異論はないな?」

「「「はっ!」」」


 俺以外の全員がそれで納得してしまい、その後のパーティーで俺の王族入りが正式に宣言された。





「最初からこうする気でしたね?」

「当然だ。お前のように重要な戦力を遊ばせておくつもりはない」


 パーティーの後、俺はソルト王に呼び出されて部屋に行く。

 先ほどまで貴族たちが集まっていたときよりもフランクな言葉遣いは、俺とリンディス王妃がいる場だけ見せる態度だ。


「そもそも、我が娘を任せられるのもお前だけだったからな」

「一応聞きますが、王子が生まれるのって本当なんですよね?」

「ああ。偶然だったがな」


 さすがにそれも嘘だったら、俺は人間不信になってしまうところだ。


「それで学園はどうだ?」

「なんか質問が父親みたいですよ」

「父か……似たようなものだろう?」

「そうですね」


 たしかにこの世界に転生してから十五年。

 そのうち半分以上の時をこの偉大な王と共に過ごしてきた。


 そう言う意味では、彼は第二の父親と言っても過言ではない。


「楽しいですよ。未来が壊れる危険もなくて、それに愛する人たちとも出会えて」

「そうか」


 穏やかに笑うと、ソルト王もまた優しく微笑む。


「お前が初めて私に世界の真実を打ち明けたときの目はまるで手負いの獣のようだったが……良い出会いをしたな」

「おかげさまで」


 一番良い出会いはきっと、この王様と出会えたことだけど。

 それは恥ずかしいので言わないでおく。


「これからどうするのだ?」

「変わりませんよ。今年いっぱいは今の婚約者たちを愛し続けて、来年からはまた入学してくる後輩たちがいますからね」

「また『原作ヒロイン』を助けていくのか?」

「ええ。それが俺の役目ですから」


 ただ、別に新しい婚約者を増やそうとはもう思わなかった。

 それは多分、俺はもう十分以上満たされているから。


「レオナも、シンシア、アリスも、セリカも、オウカも、カルラ姉さんも、それにミリーも……全員俺には勿体ないくらいの良い女です」

「なら守れよ。もしかしたら合ったかもしれない未来の私のようにならないようにな」

「わかってますよ」


 俺はこの七人を愛し続けて、守り続ける。

 それがこの世界に生まれ変わり、未来を変えた役目だから。


 そして、時は流れ――。


――――――――

【あとがき】

明日、12時に投稿します。

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