物語の主人公に転生したので本気でヒロインハーレムを目指すことにした
平成オワリ
第1話 主人公に転生したので世界を平和にしておきました
――俺、ゲームの主人公に転生しました。
普通なら冗談だと一蹴されるようなこの言葉をまさか自分が言うことになるとは……。
始まりは十五年前、大好きだったゲームの世界に転生したことから始まる。
ゲームの名前は『英雄は魔法学園で女神と踊る』。
RPGと恋愛シミュレーションが合わさったようなゲームだ。
タイトルの割に鬱展開の多い重厚なストーリー、魅力溢れるキャラとマルチエンディングの多さ、そしてなにより自由度の高さが評価されて話題になり、年間売上トップにもなった名作である。
とにかく分岐が多く、メイン級じゃないキャラの攻略シナリオもかなりの分量。
主人公の持つカルマ値によってルートが完全分かれてしまうため、同じキャラは最低二回ずつ攻略しないといけない仕様。
まあ廃ゲーマー気質だった俺にとってはありがたい話だが、さすがにネットでは攻略サイトを見たり、動画で済ませるやつが多かったらしい。
ちなみに俺は当然すべてをやり込み、正史の英雄ルートも鬼畜英雄ルートも全部クリアした。
で、俺が今いるのはゲームの舞台である魔法学園があるオルガン王国の王城。
ついでに言えばその王の寝室。
そして目の前には金髪の超絶イケメン三十五歳、泣く子も黙る最強の王様兼『ラスボス』であるソルト王と、その妻であり『ゲーム開始時にはすでに死んでいるはずの』リンディス王妃がベッドで並んで座っていた。
「貴様と出会ってもう七年か。時が流れるのは早いものだな」
「そっすねー」
「口が悪いな、処すか?」
「リンディス様! この王様暴君です!」
「あらあら、そんなに虐めちゃ駄目よソルト。クロードは私たちの恩人なんだから」
ソルト王の横に座っていた王妃様が「めっ」とやると、氷の英雄王とまで呼ばれた男が甘えるように身体を寄せる。
はいはい、いちゃいちゃいちゃ。
美男美女だから映えがすごい。
この二人と出会って七年、会いに来る度にこれなので慣れたもんだけどーー。
「砂糖吐きそうだ……」
思わず現代で使われていたような言葉が出てしまった。
同時にソルト王の顔が真剣なものになる。
「それも『原作知識』とやらか?」
「ただの冗談ですからお気になさらず。お二人が幸せになった時点で原作はおしまい。もうこの世界に破滅は訪れないし、訪れたとしても俺のせいじゃないので、あとは王様たちがなんとかしてください」
『英雄は魔法学園で女神と踊る』は恋愛シミュレーションが混ざっている割に、ストーリーはかなりガチなRPGで、あと鬼畜要素が結構あって各ヒロインはルート選択をミスると酷い目に合う。
もちろんゲーマー紳士たちはコンプリートするため、そんな敗北ルートにも向かうわけだが、もし現実になったらとんでもないことだ。
ついでに言うと、ミスらなくても平均的に結構酷い目に合う。
特に『鬼畜英雄ルート』を選ぶと、ヒロインとの関係は純愛どころかドロドロの破滅一直線。
もはや英雄どころか鬼畜ラスボスで、このソルト王と対峙したときは巨悪対巨悪という感じで格好良さがあった。
ちなみにこのラスボスの王様、普通に世界を滅ぼす系である。
この人が悪堕ちして世界征服を始め、部下とかに負けるとヒロインたちが鬼畜過ぎる目に合う話に繋がっていくのだ。
「しかし何度聞いても、貴様が知る未来は恐ろしいな。想像もしたくない」
「でも実際そうなりかけたでしょ?」
ソルト王は若くして王位につき、魔物の溢れるこの世界で英雄王とまで称えられた人物だ。
そして目の前でイチャイチャしていたとおり、とても愛妻家。
ゲームでは、若き英雄王が邪魔だった闇の勢力たちによってこのリンディス様が廃人となり、結果ソルト王はすべてを壊す暴君へと至る。
可哀想な未来だけど、世界壊すのはやり過ぎなんだよな……とは思わない。
だって俺も自己的な理由でこの世界の『未来』を壊したわけだし。
「改めて、貴様のおかげで愛するリンディスを守ることが出来た。感謝する」
「いいですよ。俺を信じてくれた貴方のおかげでこっちも色々と助かったんですから」
赤ん坊に転生して意識を手に入れたとき、最初の思ったことは『なんで主人公⁉』だった。
だってそうだろ?
これがモブに転生したら適当な人生を歩めば良い。主人公のライバルや噛ませ犬に転生しても同じことだ。
だけど主人公だけは駄目だ。
俺の行動で世界の命運がすべて決まってしまうのは、あまりにも重責すぎる。
ヤバいと思った。毎日吐きそうだった。
だがそんな風に立ち止まっている時間も無かった。
なにせ原作だと十歳になる時にはリンディス様が殺されて、この王様が暴走が始まるのだから。
幸いだったのが二つ。
一つは物語の舞台である魔法学園に入学するため、主人公の生まれは貴族。しかも王女や貴族令嬢とかがヒロインになる都合上、上位貴族とも結婚が出来る侯爵家の生まれだったこと。
そしてもう一つは、主人公のポテンシャルだ。
ゲーム通りなら十五歳になって魔法学園に入学するのだが、ゲーム開始時は弱いはずだった。
だが俺にそんな都合は関係ない。
幼い頃から全力出した。死にたくないから、もはや定番となる幼い頃から鍛えて俺TUEEEして超全力で鍛えた。
ネット民族舐めるなと言わんばかりに、過去に見た様々な漫画やゲームの修行を取り入れて、周囲からは驚かれたものだ。
異物として恐れられる?
そんなあるかないかの未来より、確定された破滅の未来を解決しないといけない立場になる方が怖いっての!
主人公のポテンシャルの高さで乗り切った部分も多々あるが、おかげで大人の知能と合わせてすぐに神童扱いされることになった。
そうして八歳のとき、まだ英雄王としての立場にあるソルト王との謁見に成功し、俺は賭けに出る。
俺が転生者であること。この世界が物語であること。そして待ち受ける未来。
持ちうるすべての原作知識を伝えきったのだ。
あと七年もずっとこの重責を背負って生きていける自信がなかったのもあるが、なにより勝算があった。
なにせこの王は、ラスボスになる前は英雄王なのだから。
「よくすぐ信じてくれましたよね」
「貴様の目が今まで見てきた誰よりも真っ直ぐだったからな。あんな気持ちの悪い子どもの言葉を見過ごして、英雄王など務まるものか」
「気持ち悪いって……」
酷い言い方だが、まあつまりそういうことだ。
この懐の大きすぎる王様は俺の言葉を信じ、そして見事世界の破滅フラグをへし折ってくれた。
俺一人だったらゲーム開始まで何も出来なかっただろうことも、次々と解決していった手腕はあまりにも凄すぎた。
俺は思ったよ。
これもう俺いらなくね? って。
闇の勢力の本拠地を一人で薙ぎ払う姿を見たらそう思うのも仕方ないよマジで。
あとは地元の侯爵家に戻って悠々自適な生活をしつつ、本編が始まったら学園で可愛い子と仲良くなって、ゲームの世界を満喫しようと決意した俺は悪くない。
神童と呼ばれるだけあり、領地運営の勉強はちゃんとしたしな。
周囲にも認められてるくらいには頑張って来たつもりだ。
弟がいるからそっちに譲って適当な土地を貰ってもいい。
可愛いヒロインと仲良くなってエッチ三昧(大事なことだから二回言う)の生活が出来れば最高だよな。
……まあ、そうは問屋が卸さなかったわけだが。
いや別に悪意に晒されたわけではない。
闇の勢力は間違いなくこの原作知識持ちのブレーンがついた最強の王様によって駆逐されていったし、オルガン王国には平和が戻った。
俺の誤算はただ一つ。この王様に気に入られすぎてしまったことだ。
最強の英雄王、世界を滅ぼすラスボス。
さて、そんな人物が大切な人の未来を助け、王国を救った俺に恩義を感じた場合……この魔法が重視される世界でやることと言ったら?
「最強の魔法使いを育てるというのは、面白かったぞ」
「いやさすがに、まだ王様には勝てませんって」
「ふっ」
意味深に笑うな。まるでタイマンしたら勝てるみたいな風に見られるだろうが。
主人公、ラスボスに鍛えられる。
最強になりうるポテンシャルを持った男が、最強のラスボスに育てられるとどうなるか……という漫画やゲームの二次創作みたいなことが始まった。
「それなら一度、本気でやり合ってみたらどうかしら?」
「リンディス様。のほほんとそんな恐ろしいこと言わんでください」
王都が廃墟になってしまうから。
意外とこの英雄王様、ノリがいいからやっちゃいかねないから。
「私がいなかったら一人で王都を堕とせるだろう?」
「ノーコメントで」
まあそんな感じで、重厚なゲーム世界に転生してしまったけど速攻で死亡フラグを全部折ってしてしまった上に原作よりだいぶ強くなった俺――。
これから『普通の学生』としてゲームの舞台になる魔法学園に入学します。
うん、まあ、多分ちょっとやり過ぎたのは認めるけど……。
「とりあえず、可愛いヒロインたちとイチャイチャしてぇなぁ」
今まで死ぬ気で頑張ってきたんだから、これくらいのご褒美が合ってもいいよな?
変なフラグはいらないから、恋愛フラグだけお願いしますね神様。
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