第2話 入学式にヒロインを見る
英雄は魔法学園で女神と踊る――通称『はでとる』というゲームの世界に転生して十五年。
何故主人公なのだと嘆き、何度もそのプレッシャーに負けて吐き、心を折られながらも再び立ち上がり……ずっとずっと頑張ってきた。
柄にも無く侯爵家の神童を演じ、ラスボスであるソルト王に降りかかる悲劇を防ぎ、原作を打ち砕いたのだ。
そして何故かソルト王の弟子になって七年、ついに俺は今この場所――神聖ミューズ魔法学園に新入生として立っていた。
貴族が集まる学園は広く、今日はその入学式ということで、パーティー会場にも使われる広間に学生達が集まってきた。
俺も新入生として、壇上を見上げていると――。
『在校生代表、シンシア・ミストラル』
そんな拡声魔法の声と共に一人の美少女が現れた。
美しい銀髪を腰まで伸ばし、白い制服を綺麗に着こなした彼女は神聖ミューズ魔法学園の三年生であり、生徒会長を務める才女――シンシア・ミストラル。
彼女が現れた瞬間、男女問わずその麗しさに目を奪われ、感嘆の息が零れる。
かくいう俺も、その姿を見て思わず感動してしまう。
「本物だ……」
シンシアは原作ヒロインであり、俺も大好きだったキャラだからだ。
「ソルト王を見たときもだが、原作キャラと会うとマジで感動するなぁ」
ちなみに俺は「ここは現実なんだから原作キャラとか考えるなんて人間扱いしてないし最低だ!」なんてことは一切思わない。
この世界はたしかに現実だが、同時に大好きだった『はでとる』の世界であることもまた事実だからだ。
当然、原作キャラのシンシアは大好きだった。生まれる前から愛してた。
ただ現実で見た場合、もしかしたらそうでもないかもしれない、と思ってた時期もある。
しかしそんな俺の懸念は、彼女を見て吹き飛んだ。
シンシアは本当に美人だった。
可愛い、スカートから伸びる足もすらっとしてて綺麗だし、制服の上からでもわかる胸の大きさも最高過ぎる。
というかもはやシンプルに美少女過ぎる。一目で惚れ直した。
彼女を自分の恋人に出来たらどれだけ幸せなことか……。
ゲームの学園モノだけあって、女子の制服は現実にはそんなもんあり得ないだろう、というような豪華な仕様。白をメインとした中に赤やら金やらのラインが入ってアクセントになっている。
スカートの丈もかなり短く、階段とかで頑張ればその中も見えそうだ。
どう見ても男の性欲を刺激するための制服ですありがとうございます。
それを着こなしたシンシアの見た目はもはや女神。あの子に会うために俺は地獄のような日々をこれまで頑張ってきたと言っても過言ではない。
思わず涙を流してしまい、隣に座る男子生徒がちょっと引いてる感じが伝わってくるが、仕方が無いだろう。
ただ原作ヒロインに出会ったからではなく、ようやくこれで俺の人生が始まるのだから。
「決めた。俺、シンシアと婚約する」
そのためにはまず、なんとかして交流を深めないと……。
ふと、彼女と目が合った。向こうは俺の事を知らないはずだが、微笑んでくれた気がする。
ゲームでも知っていたが、性格も優しそうだ。もう最高だな。
入学式が終わり、新入生はそれぞれのクラスに向かっていく。
神聖ミューズ魔法学園の目的は、魔法を覚えて自領の発展に活かすこと。
というのが表向き。
真の目的は、大陸中の貴族の子どもが集まり、未来の人間関係構築していく場所である。
貴族同士であれば事前の政略結婚などをして、婚約者がいてもおかしくないと思っていたが、この世界は何故かこの学園で婚約者を探すのが常識となっていた。
なのでよほど切羽詰まった家同士でなければ、新入生には婚約者がいない状況だ。
もちろん俺にもまだ婚約者はいない。
そして大事なことだが、この世界では男の場合、婚約者は一人である必要は無い。
要するに大陸全体でハーレムが許可された世界なのである。
「まあ元がゲームの世界だからな。あり得ない設定でもなんでもユーザーの気持ち優先ってことだな」
学園で婚約したら、その子の領地どうするんだという話だが、ハーレム公認のため貴族が世継ぎに困ることはほぼなかった。
どの貴族も子どもが十人以上いるなんて当たり前で、一人や二人遠い領地にやっても問題ないそうだ。
たった一人を愛し続けるような奇特な者は、ソルト王くらいだろう。
それはそれで格好良いと思うし憧れるが、俺はそれよりたくさんの女の子とイチャイチャしたいので、師匠ごめんそれだけは真似出来ないと言っておいた。
「ここが教室か」
1-Aと書かれたそこは、これから一年間俺が通うクラス。
主人公のクラスなので当然原作ヒロインもいるのだが、俺の中で優先順位があるので、今すぐ同学年の女子を相手にどうこうしようという気はなかった。
『はでとる』は三年間の学園パートでレベルを上げてイベントをこなし、ヒロインたちと愛を育み成長していくゲーム。
そして卒業直前に起きる戦争を乗り切り、元凶となるソルト王を倒すことでエンディングを迎える、良くあるストーリーだ。
そこに鬼畜ルートなんてものがあることもわかるように、ただの純愛ゲームではなく、エロもグロも含めて結構過激な描写も多い世界観。
美麗なイラストの数々だが、何度もクリアしなければ見れない物も多い。
当然、現実であるこの世界でやり直す事は出来ないため、辿れる道はたった一つだが、俺はゲーム通りに進める気は一切ない。
「ここに来るまでに、原作改変なんて山ほどしてきたんだから今更だろ」
教室に入る。見覚えのある美少女たちがたくさんいるが、興味がない振りをしながら自分の席に座った。
「シンシアの制服姿も見れたし、最高の時間だった」
俺が何度も感動しているのは、ゲームではシンシアの制服姿を見ることができなかったから。
一年生である俺と違い、彼女は三年生。
つまり学園編の一年目しかいないのだが、どういうルートを辿っても学園で彼女と出会うことが出来ないのである。
彼女が登場するのは二年後。
主人公であるクロードが三年生のときに始まる戦争において、若くして騎士団長に抜擢されたシンシアが学園生を集めた部隊を率いるところからだ。
騎士服姿も美しく、その後の色々のイベントを乗り越えたあとのご褒美シーンなど最高なのだが……。
「制服姿の彼女が見れるのは今しかないからな」
本来のゲームであれば学園で会うことが出来ない。
だがこの世界は現実だ。
会おうと思えば無理矢理でも会えるし、交流も深められる。
なにより俺は世界最強の魔法使いの弟子として七年間ずっとしごかれてきたのだ。。
学園で学ぶことなどほとんどなく、ゲームであれば勉強や修行で時間を取られていたことを、別のことに使える。
もちろん、ヒロインたちとの恋愛である。
先ほど同学年としばらく交流しないと決めたのは、シンシアを婚約者にしたいと思っているからだ。
「シンシアとの時間は他のヒロインと違って一年と限定されてるうえ、このままだと婚約しちまうからな。急がないと……」
ソルト王がラスボスにならないため、三年後に戦争は起きない。
学園の本来の目的は貴族同士の出会い。
となれば当然彼女も婚約者が出来て結婚してしまうかもしれない。
しかしそれは認められない。
なぜなら彼女の婚約者は鬼畜野郎で――。
「あの、シンシア様のことを呼び捨てにするのは良くないと思います、よ……?」
「ん?」
不意に声をかけられたのでそちらを見ると、短めの茶髪で目隠しをした女子生徒が恐る恐るといった風にこちらを見ている。
こいつは、ミリーか……。
メインヒロイン、ではない。
それでも俺が名前を覚えていたのは、『はでとる』において一番最初の残酷なシーンの被害者がミリーだからだ。
彼女は大陸西部にあるオルフェウス王国の男爵令嬢だが、実家は借金まみれで大変だった。
そのため出来るだけ良い家に嫁ぎたかったのだが、そこで最初の悪役である一学年の生徒に騙されて酷い目に合うのである。
さすがにエロゲではないため直接的な描写はないが、まず間違いなく犯されまくって玩具にされていたのだろう。
正規ルートだとクロードとヒロインが協力して助けるのだが、彼女の傷付いた心が癒やされることはなく、そのまま学園を去ってしまい、それ以降登場しない。
ちなみに鬼畜ルートの場合、クロード一人で彼女を助け、そのまま自分の部下にする。
そして彼女に情報を集めさせたり、ヒロインを堕とすための準備をさせたりして手元に置くことになるのだ。
その際の描写はほとんど出てこないが、裏では調教と称して言葉では言い表せないような散々なことをされていたことは間違いないだろう。
要するに、ミリーはこの『はでとる』のグロエロ部分におけるチュートリアル的な少女なのだ。
「えと……その……なんでそんな不憫そうな目で見て……?」
「ああ悪い」
おどおどとした小動物を彷彿させる子だ。
まだ一年生だから十五歳だろうが、すでに制服の上からは膨らみがはっきりしているし、もじもじとする姿が嗜虐心をそそってくる。
顔を前髪で隠しているからわかりにくいが、顔も整っていたのを覚えていた。
メインヒロインではないが、それでも十分過ぎるほどに可愛い。
正直、こんな子がクソガキにやられるのは世界の損失だ。
「俺の名はクロード。名前を聞かせて貰ってもいいか?」
「黒髪でクロードって……もしかしてリンテンス侯爵家の⁉ も、申し訳ありません! バルドル男爵家のミリーと申します!」
「ミリーか。良い名だ。たしかにうちは侯爵家だが、この学園では家名は持ち込まず皆平等。これからはクラスメイトなのだから、仲良くしよう」
外面用の顔で笑顔を見せると、彼女は頬を赤らめて俯いてしまう。
うん、いいなこの反応。やはりチュートリアルな少女らしく、チョロそうで可愛い。
ミリーの家は貴族とは名ばかりの貧乏領地。
それゆえに彼女は悪役貴族の遊び相手に選ばれる。
ちなみに我がリンテンス家は侯爵である。つまり、とても偉いしお金持ち。
そして学園では貴族の家名は関係なく平等と言ったが、まあすべては建前だ。
この意味を、ミリーはすぐにわかってくれるだろう。
彼女の相手は、悪役貴族とは限らないのだから。
思わず口元が緩みながら、俺はこのクラスメイトの美少女と会話の華を咲かせるのであった。
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