第49話 秘境混浴
――刀は……後ほどオウカの家に届ける。
リンドウ君がその場で負けを認め、とぼとぼと去って行く。
そんな彼を見送ったあと、ふと思った。
「彼の家の家宝、勝手に賭けの対象にしちゃってるけど大丈夫なのかな?」
「欲しい物があれば力ずくで手に入れる。この国では当然のことですから問題ありませぬ」
「……そっか」
さすがは修羅の国ジパング。
狂戦士ばかりが揃っているらしい。
まあ実際、彼だってイガラシ家の娘を力ずくで奪おうとしたのだから、同じことか。
「本気で取り返したかったらまた鍛練を積んで、旦那様に挑めばいいのです」
「それ、いつか俺が負けたらオウカを取られるってこと?」
「そうならないように、頑張って下され」
笑顔で言われ、オウカの実家の人たちが襲いかかってこなくて良かったとホッとする。
それからしばらくキョートに滞在し、数日。
偶にイガラシ家の人間たちと立ち会ったり、リンドウ君がまたやって来て俺に宝を奪われたり、着物のみんなとイチャイチャしたり。
最高のバカンスを過ごしていると、オウカの母から提案があった。
「ここに天然の温泉があるんだけど、みんなで言ってきたらどうかしら?」
「行きます」
そんな場所、行かないという選択肢などなかった。
「思ったよりも道が険しいな」
「秘境ですから」
というわけで山を登っているのだが、秘境というだけあって道が結構危ない。
俺は修行で結構山ごもりをしていたし、オウカも慣れたもの。
他の面々も鍛えているだけあって余裕があるが……。
さすがにミリーあたりがキツそうだ。
「大丈夫か?」
「は、はい……大丈夫、です」
そうは言うが息も絶え絶えとしている。
仕方ない。
「ほら、乗れ」
「そ、そんな……ご主人様に乗るなんて」
「ミリーが乗るのはいつものことだろ? 前か後ろかの違いなんだから気にするな」
そう言うと困った顔をしたあと、恐る恐る俺の背中に乗る。
「ご主人様は……やはり変わってます」
「そうか?」
「はい……とても大貴族の御方とは思えないですね」
まあ前世が日本人だからなぁ。
「普段はちゃんと貴族っぽくしてるんだから別に良いだろ。好きな子の前くらいは自然体でいさせてくれ」
「す、好きな子?」
なにを今更驚いているんだ?
そりゃあ魔術で避妊しているからって、貴族の道楽だとでも思っていたのだろうか?
あれだけ毎日愛し合ってるのに、それはちょっとショックだ。
「ミリー、今更だからもう一度言っておくが、俺は誰でもいいわけじゃないからな。ここにいる全員、俺の大切な婚約者だ」
「わ、私なんかが皆様と同じ立ち位置になど……」
みんなに聞こえるように堂々と言うと、嬉しそうな顔をする。
ミリーだけはまだ恐れ多いみたいだが……。
「なあアリス、ミリーが妙に恐縮してるんだが、どう思う?」
「夜はあれだけ私のこと虐めるのに、今更過ぎるよねー」
アリスが泣いても全然手を緩めないからなこいつ。
「あう……それは、アリス様が求めるから……」
「泣いて待ってって言っても、ノリノリだったじゃん。私のこと可愛いとか言ってさ……」
夜のことを思い出したアリスが顔を赤くする。
「それに、あれだけ俺に色々と教え込まれてさ、今更他の男のところになっていけないだろ」
「そう……ですね。もう他の方など、想像も出来ません」
「まあだから今更だろ。たしかに世間的には王女だったり公爵令嬢だったりするけど、それでも俺からしたらみんな平等だよ」
ちゃんとミリーの家にも挨拶するって言うと、背中でぽろぽろと泣き始めた。
自分は俺の従者でいいと言っていたが、やはり本音では将来について不安だったのかもしれない。
「ありがとう、ございます……」
「ああ」
「旦那様、見えてきました。あれが秘境温泉です!」
丁度話が終わったタイミングで、オウカが声を上げる。
山の奥、森に囲まれている場所を見れば小さな小屋と、湯気がゆらゆらと出ているのが見えた。
「おお……」
「これは凄いね……」
カルラ姉さんやシンシア、それにセリカも温泉の雰囲気を見て驚いている。
俺は日本で見たことあるし、ネットなんかでも拾えたけど……他の国だと、こういうのはあまりないのかもしれない。
「あの小屋が着替えるところか」
「はい。あれがないと山の獣たちが悪さをするので、取られないように鍵もかけられるようになっています」
小屋は一つ。
普通なら男女分けがなされるものだが、こんな秘境ではそこまでやらないのだろう。
普段なら俺は気にせず一緒に服を脱ぐのだが……。
どうせなら少し趣向を凝らしたい。
「俺、先に入ってていいかな?」
「大丈夫ですが、いかがされました?」
「風呂場でみんなが来るの待ってたい」
「……まったく、お前は」
欲望を素直に言ってみると、セリカなどは呆れた顔をする。
みんなとするのは凄い刺激で一生飽きることはないと思うけど、それでもたまにはこういうのもいいよな。
というわけで先に着替えて温泉へ。
「あー……最高ぉ」
少し濁り湯らしい硫黄の匂いも結構するが、肌に染み渡るようで気持ちが良い。
そして待っていると、音が聞こえてくる。
俺は敢えてそちらを振り向かない。
目を閉じて待っていると、ちゃぷんという音だけが 聞こえてきた。
そして俺の腕を掴むこれは……。
「カルラ姉さんとシンシアだな」
「正解、だよ」
「なにで判断してるんだお前は」
「愛すべき婚約者のことは全部わかるんだよ」
そして目を開く。
そこには桃源郷が広がっていた。
「いやぁ……これはまさに秘境だわ」
代わる代わるに俺の世話を焼いてくれて、俺もそのまま頑張り始める。
順番にキスから始まり、誰もいないこんな場所で俺を止める者もいるはずがなく……。
恋人と入る混浴って最高だよな。
いつも以上にハッスルしてしまった俺は悪くない。
悪く、ないのだ。
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