第17話 上級生に宣戦布告する
俺が転生した『はでとる』というゲームは恋愛シュミレーションとRPGが合わさったようなゲームだ。
多くの登場人物とのドラマを乗り越え、そして最後は個別エンディングがそれぞれ用意されている。
でだ、俺がこの学園に来てからこれまで、ヒロインとの交流ばかりをメインにしてきた。
もちろんそれは理由がある。
原作改変によって将来戦争が起きることがなくなったが、俺の人生は続くのだ。
平和な時代の方が長い。
そして俺には侯爵家を継ぐという責任重大なミッションも残っている。
ならばそのとき、可愛くて優しい嫁たちと将来を過ごしたいと思うのは悪いことじゃないはずだ。
というわけで、どうせこの学園を卒業したら疎遠になる男たちより、将来家まで連れて帰る予定のヒロインたちと仲良くなりたいと思うのは自然なことだろう。
「おいこら一年坊、テメェか俺らを呼び集めたのはよぉ」
「いくらリンテンス家とはいえ、ここは学園だ。先輩には敬意を払うべきじゃないかな?」
「……」
「おいリンテンス。呼ばれたから来たが、これはどういうことだ?」
1-Aの教室に、四天王と呼ばれる人たちがぞくぞくと集まってくる。
全員がこの学園だけでなく、各国の権力者たちの子弟だ。
そのプレッシャーに最初は野次馬として残っていた生徒たちも、徐々に教室から出て行く。
そうして俺と俺の派閥、それにアリスが残り、目の前には四天王の面々が一人ずつ。
「おいブロウ、レオナ王女はどうした?」
「そ、それが『貴方が婚約者になるつもりがあるなら行くけど、そうじゃないときはそっちから来なさい。お説教はお父様だけで十分です』とのことで……」
「……はぁ」
あの自由人を制御出来るとは思わない方が良かったか。
単純な戦力ならともかく、権力的には向こうの方が上だから仕方ない。
とはいえ、一番の問題児がいないのは困ったもんだ。
「皆様、お集まり頂きましてありがとうございます」
笑顔を見せるが、そこに友好的な雰囲気がないのは相手にも伝わったのか、少しだけこの場に緊張が走る。
四天王と呼ばれようと彼らはまだ学生。
いずれ主人公と共に世界を救う面々になるとはいえ、現時点ではまだ子どもだ。
四天王を一人一人見ていく。
燃えるように立ち上がった緋色の髪に浅黒い肌をした大柄な男はロイド・マックール。
原作でも随一の近接攻撃力を持つパワー系の戦士で、南方の傭兵国家グロウリーの傭兵団長の息子だ。
明らかに俺に敵意を向けているのは、脅威と感じてくれているからだろう。
その隣に柔和な笑顔を見せる小柄な黒髪の少年はイラ・エルダー。
魔法国家エウシュリーから来ており、かの国には貴族という制度の代わりに階位で呼ばれる。
エルダーというのは一つの塔を任された家柄のことで、イラは現塔主の孫にあたる人物だ。
彼はロイドと違い口調は穏やかだが、基本的に性格が捻くれている。
もっともそのひねくれ具合が女性ユーザーには嵌まったらしく、結構人気も高かった。
そしてもう一人、白髪をポニーテールにした女子生徒は、腰に差した刀に手を添えたまま鋭い目で俺を見てくる。
常駐戦場、と言わんばかりの態度の彼女は、オウカ・イガラシ。
名前の通り東方ジパングのサムライである。
彼女の場合派閥を作っているというよりは、東方のサムライが集まったら戦力過多になってしまい、四天王に据え置かれただけという感じ。
まあただどちらにしても、全員がいる場で言わないと意味がないから呼ばせて貰った。
「今日の要件は一つ。どうも最近、皆さんが一学年の生徒を無理矢理派閥に入れようとしていると聞きましてね。それを止めて貰えればと思ってるんですよ」
「はぁ⁉」
「へぇ……それはそれは」
俺の言葉に全員の目が鋭くなる。
とはいえ、それは俺に対してと言うより他の四天王たちが自分たちを出し抜こうとした行動に対してだろう。
まあ実際は末端が暴走しているっていう状況で、本人たちも知らないことなんだけど……。
二学年編ではライバルキャラとして登場する彼らだが、最終的には仲間なり、世界平和に向けて力を貸してくれる気の良い面々だ。
無理矢理自分の派閥に入れ込むような卑怯な真似はしまい。
実際、卑怯なことが嫌いなセリカが他の三人を非難するように睨む。
「お前ら、リンテンスが言ってるのは本当か?」
「はぁ⁉ 俺がそんな汚ねぇ真似するかよ! そんなことしそうなのは腹黒のイラくらいだろうが!」
「失礼ですね。僕だってそんな真似しませんよ」
「……興味ない」
元より仲が良かったらこんな風に派閥争いにもならなかっただろうし、一触即発だ。
四人の殺気が教室を満たし、まだ未熟なアリスなどは緊張で喉を鳴らしている。
ブロウはもう立ちながら気絶してた。
まあお前弱いもんな。
「すみません、言葉足らずでしたね。貴方たちの末端が、ちょっと暴走気味みたいなんですよ。理由もちゃんと説明します」
そうして俺はレオナ王女の動き、それを感知した派閥の人間たちが脅威を覚えて動き出したことを伝える。
「「「「……」」」」
意外と黙って聞いてくれた彼らは、それぞれ悩むような表情。
いや、オウカだけは特に気にした様子は無いが、まあ彼女たちは自分の魔法と剣を極めることしか興味がないからな。
「別に派閥を大きくするなとは言いません。ただ強引な勧誘を止めて貰えればそれでいいんです」
派閥に入ることは弱小貴族にとって身を守るために必要なことだからな。
派閥間の争いにさえ勃発しなければ、それだけで他の単独の大貴族たちから身を守ることにも繋がるし。
そんなことを思っていたら、ロイドが睨み付けてきた。
「テメェはどうなんだよ?」
「え? なにがです?」
「気に入らねぇ野郎はぶちのめして自分の下に付けてるって話じゃねぇか」
「……え?」
いや、そんなことしてな……してるな。
でもそれって下半身獣のやつらを矯正するためだし……。
「今回の話も、自分の派閥を大きくするための牽制、ということでしょうか?」
「はい? いやそんなつもりは一切ないですけど」
「ですが一学年で最大派閥はリンテンス派なのは間違いないでしょう? 貴方、それをちゃんと全員把握してるんですか?」
イラの言葉もまさにその通りで、いつの間にか勝手に大きくなってきた俺の派閥。
なんかしばいた覚えのないやつとかも入ってたりするし……。
あれ? もしかしてこれ、墓穴掘ったかも。
「なあリンテンス。お前が悪いやつじゃないのはわかってるけどさ、これは駄目なんじゃないか?」
「リカちゃん……」
「その呼び方したらぶっ殺すって言っただろ! そうじゃなくて……お前自分が言ったこと、そのまま返ってきてるぞ」
「うぐっ……」
まさかの展開。
いや俺は本当に勢力争いとか興味ないんで。
ただ平穏な学園生活をエンジョイしようと思っていただけなので。
「なるほど、某たち二年生たちに対する宣戦布告だったか……面白い」
「違いますけど⁉」
オウカさん、なに言っちゃってくれてるんですか⁉
ほら戦闘馬鹿のロイドと腹黒で他人を信用しないイラがなんか俺を敵みたいな目で見てくるし!
「へぇ、まあ俺ら全員を呼び出したときからそうだとは思ってたが」
「ええ。貴方の力は凄まじいものがありますが、それだけでこの学園を支配出来るとは思わないことですね」
「いやだから、違――」
そう否定しようとしても、すでに彼らの視線は俺を敵扱いしている。
セリカだけはなんか戸惑った様子だが、彼女は自分の派閥の子を守るためなら命を賭けられるような人だから、このままだとヤバい。
「ま、そっちがそういうつもりなことはよくわかった。安心しな、自分から派閥に入りたいって一年以外には手を出さねぇからよ」
「獅子心中の虫を入れても良いことありませんからね……ふ、僕たちも油断しませんよ」
二人は完全に俺を敵扱い。
この状況でなにを言っても逆効果になりそうで、もうなにも言えなくなっちゃったんだけど……。
「私は、リンテンスが悪いやつとは思ってないぞ」
「セリカ様……」
ヤバい、こんな状況で優しい言葉をかけられたら惚れてしまう。
「でもうちのやつに手を出すなら、私も覚悟を決めるからな」
「信じてくれてないじゃないですか!」
「いやだってお前、これまでやってきたことを思い出してみろよ」
悪役貴族しばいて、そのメンバーで自分の派閥が作られて、学園の支配者気取りのライゼンをしばいて生徒会長を恋人にしただけじゃないか!
……駄目か。外から見たらだいぶヤバいやつだもんな。
「まあでも、敵対しないなら私もなにもしないから、な」
「リカちゃん……」
「今すぐ派閥潰してやろうか?」
「ごめんなさい」
優しく微笑んでくれたのが嘘のような怖い笑顔だ。
「テメェの宣戦布告、受け取ったぜ」
「今後の動向、逐一チェックさせてもらいますよ」
「いつか斬り合おう」
そうして、何故か俺が宣戦布告したことになって、解散となった。
「えーと……」
教室に残されたアリスは気まずそうな顔をしている。
「結果的に、一年生たちが無理矢理勧誘されることはなくなったから、良かったよね?」
「その代わり、俺がなんか嫌われたけどな!」
結局、一年早いまま原作通り学園戦国時代に巻き込まれてしまった……。
もういい、シンシアにたくさん甘やかして貰う。
そんでその後は、敵対するやつから全員叩き潰してやる。
そう決めて、俺は教室から出て行った。
――――――――――――――
【後書き】
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