第27話 罠に嵌められたが蹂躙する
四天王たちの三つ巴の派閥戦争が起きているのは第二闘技場。
俺がライゼンを倒した第一闘技場よりも大きく、元々告知でもされていたのか学生たちを中心に観客で埋まっていた。
三つ巴が起きたのだって俺とオウカはさっき知ったばかりなのに、なんでこんなに先回りされてるんだ?
と思ったが、俺の情報源であるブロウたちはオウカに半壊されていたので、二学年が本気で情報規制をかけて俺に回ってこなかった、ということだろう。
ただでさえ反リンテンス派なんてものがあるくらいだし、仕方ない。
闘技場の中心にはそれぞれの派閥の長。
そしてそのメンバーが揃っている。
問題なのは、彼らの立ち位置が明らかに敵対状況ではなく、同盟をしているように同じ側であるということ。
そしてそれをこの派閥戦争の監督役でもある教師、カルラ姉さんが許容しているという状況を見る限り……。
「この状況わかるか?」
「いえ……ただこれは、待ち伏せされたかもしれませぬ」
「だよなぁ」
ってことはこれ、嵌められたか……。
『リンテンス! 客観的に見て、僕たちだけではどう足掻いても貴様には勝てないことがわかりました! だから同盟を組んで貴方と戦うことにしました! まさか、卑怯だとは言いませんよね⁉』
三人の内、まだ一度も戦っていないはずのイラ先輩が魔法で声を大きくして全体に聞こえるように言う。
いや、上級生が集まって下級生をボコボコにしようとするって、客観的に見ても結構卑怯だと思いますけど……。
『貴方が先に宣言したんですからね! 派閥戦争を起こせば乱入すると! ならばこちらも先に貴方を倒させて頂きます!』
「まあたしかに、旦那様が先に宣戦布告してましたね」
「……自業自得か。まあいい、受けて立とう」
オウカの膝下に手を入れて、お姫様抱っこをする。
「だ、旦那様? いったいなにを……」
「大人しくしてろ」
ぎゅっと抱きしめてくるオウカの身体の柔らかさを感じながら、闘技場の入口から中心に向かって飛ぶ。
その瞬間、観客たちが湧き上がった。
あと一部の男たちから凄まじいブーイングが巻き起こった。
「オウカ……貴方が敗れたのは聞いていましたが、ずいぶんと親しそうですね」
「私はもう旦那様の物だからな」
オウカが少し自慢げにそう言うと、イラは頭が痛そうにする。
「本当なら貴方もこちらの戦力に加えるつもりだったのですが……まさかこんなに早く取り込まれるとは」
「言っておくが、こいつに関しては俺が被害者側だからな」
なにせ彼女には派閥をほぼ全壊させられたのだから。
結果的に俺の物になったとはいえ、端から見たら派閥戦争のルールすら破って一方的に攻撃されたのは普通に問題行為だ。
まあそのあとの行為も問題だったが……。
ふとイラの背後にいるセリカを見ると、彼女は若干複雑そうな顔をしている。
「オウカ……その、リンテンスにやられた割には元気そうじゃないか」
「旦那様が激しくも優しくしてれたからな」
オウカが顔を赤らめてそう言った瞬間、黄色い声援とブーイングがまた会場中に広がる。
どうやら今の意味を一瞬で理解したらしい。
理解が早いすぎるだろこいつら……。
セリカは顔を紅くしてあわあわとしている。
うん、可愛いな。
ただ彼女を恋人にする宣言をしたばかりなのに、すぐ別の女性を抱いたためちょっと気まずさもある。
「おうおうおう! イチャイチャするのは良いがよ、場所と状況考えようぜ!」
「すみませんロイド先輩。ほらオウカ、降りようか」
「はい」
素直に降ろすと、ロイド先輩は満足そうに頷いた。
筋肉馬鹿っぽいが、実は怒りで我を忘れてなければ実は作中でも屈指の常識人である。
そうしてそれぞれの言い分は終わったらしく、再びイラ先輩が前に出た。
「さて、これ以上の状況の説明は必要ですか?」
「いんや、問題無いですね。こっちは俺一人……」
「旦那様、某も! 某も!」
「こう言ってるので二人でいいです?」
「……」
イラ先輩がまた頭痛を抑えるような仕草。
結構苦労人だな。
「いいでしょう」
――正直このまま泥沼になって貴方に滅茶苦茶にされるくらいなら、と思っていましたし……。
拡声魔法は使わず、そう小さく呟いたのを俺は聞き逃さなかった。
他の面々は聞こえていなかったらしく、やる気満々だ。
「カルラ姉……」
「ブルーローズ先生だ馬鹿者」
「ブルーローズ先生。これは、学園が正式に認めた派閥戦争ってことでいいんですよね?」
念のため確認すると、カルラ姉さんは頷いた。
ということは、ちゃんと相手の欲しいものを得ることが出来るということだが……。
さて、俺が彼女たちに欲しいものなんて実はない。
セリカは恋人として欲しいが、今の状況で言うのはさすがにちょっと……。
「こちらが勝ったときの条件は、リンテンスの派閥戦争乱入禁止、そして他派閥への協力の禁止です」
「あれ? それだけですか?」
「はい。正式に派閥戦争に参加するというのであれば、止めるわけにはいきませんから」
イラ先輩の条件は、要するにやるならルールに則ってやれよ、ってことなわけだが……。
まあ向こうも三派閥が集まって俺一人をリンチする形になることは、若干の気まずさがあるのかもしれない。
「我々が負けた場合、リンテンス派の軍門に降ります」
「え?」
「この状況で負けるなら、なにをやっても勝てませんからね」
そりゃまたずいぶんとこちらに有利な条件……でもないか。
なにせ二学年のほとんどの戦力をここに集めたのだ。
それで勝てないなら、たしかにイラ先輩の言う通りもう俺には勝てないと判断して、無意味な戦争を止めていいと思っても仕方が無い。
ただ、それだと俺の立場がないな。
「なら俺の方の条件を変えましょう。俺たちが負けたら、二度と派閥戦争に参加しません。派閥としての参加も含めてです」
「……ただ損するだけですよ?」
「それはそちらも同じでしょう?」
そう言うと、イラ先輩は最初驚き、そして少しだけ態度が柔らかくなった。
「なるほど……わかりました。ブルーローズ先生もそれでいいでしょうか?」
「当人同士が良いなら、こちらは問題ない」
俺たちの条件が決まると、カルラ姉さんは俺たちの間に歩いてくる。
「それでは派閥戦争を始める。お前たち、悔いは残すなよ?」
「「はい!」」
その言葉と同時に、二学年が一斉に魔法を放ってきて、俺が立っていた場所に爆炎が吹き荒れる。
「やったか⁉」
誰かがそう言ったが、当然俺は無傷。
「さあ、それじゃあ始めようか!」
俺が魔力を解き放ちながらそう嗤った瞬間、彼らの間に緊張が走ったのを感じる。
それでも向かってくる二年生たちに、俺は軽く魔法を放ち、一部を吹き飛ばすのであった。
二学年生との派閥戦争、最後の戦いが始まった。
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