第14話 上級生に呼び出されて……
チン……いや最近は結構役に立つようになってきたからそろそろキノコ頭のブロウと呼ぶか。
ブロウの報告は予想通りの内容だった。
ライゼンが消えたことにより新たに台頭してきた派閥が、大々的に動き出してきたらしい。
自分の勢力を強大化させるため、結構強引なスカウトも行っているとかなんとか。
あと元々二年生には有力貴族が四人居て、本来の歴史では三年時に四天王なんて呼ばれるようになるのだが、今の時点でもう呼ばれているらしい。
オルガン王国は大陸随一の大国で貴族の力も大きいが、彼らはそれに引けを取らない実力者だ。
とはいえ、そんなものは知っていた話。
「なんだ、大したネタじゃないな」
厄ネタでもなかったと思ってホッとしていると、ブロウは真剣な表情で首を横に振る。
「実は、四天王以外からも新たに動き出した人がいるのです」
「へぇ、誰だ?」
現二年生がメインになる学園戦国時代では一気にキャラが増える。
四天王関係だけでもかなりの人数になるのだが、そこに新たに入学してくる一年生とも関わりが出てくるので、ある意味ゲームの本番はここからだった。
なにせ『はでとる』はサブクエストをクリアすることで多くのキャラを仲間に出来るゲーム。
そしてそのキャラたちのエンディングまで用意されていることもあり、見るためにはあえて初期の仲間キャラの好感度を低くするなど工夫が必要だった。
まあそれはともかく、現状で四天王以外に勢力に台頭してくるような相手は思い浮かばないけど……。
「レオナ様が動き出しました!」
「……は?」
あまりにも予想外すぎる人物の名前に、ああこれは本当に厄ネタだと、頭を抱えてしまう。
「あとクロード様を呼んでます! あの方に直接指名されるなんて、さすがです!」
「……」
ブロウの言葉を聞いた俺は、最悪だとさらに深く頭を抱えてしまった。
ライゼンはこの学園の支配者であったが、それはあくまでも格下相手であればの話。
シンシアなど同じくらいの家柄であればそこまで無理は出来なかった。
それは二年生の四天王たちが相手でも同じだ。
一対一なら家柄でなんとか出来ても、ライゼンに四天王全員を敵に回せるほどの力はなかった。
そしてそんな中、やつが手出し出来なかった相手が四天王以外にもう一人いる。
レオナ・オルガン――大国オルガン王国の正当後継者にして、あの英雄王ソルトの血を引いた娘である。
「あらクロード。ようやく挨拶に来たのね」
ブロウからレオナとその臣下が集まっている教室を聞き、そこに入ると彼女は楽しげにそう言ってくる。
窓の開いた教室には他に誰もいない。
ソルト王譲りの美しい金髪が腰まで波打つように流れ、待ち人がようやく来たことに嬉しく思っているのか、少し目を細めた微笑みはとても魅力的だ
スカートから伸びる足はとても同じ人間とは思えないほど細く、今日は風があるからかカーテンが揺らめき、その前に立って振り向く彼女はまるで神話の一枚絵のように美しかった。
「レオナ様……お供も連れずになにやってんですか?」
「なにって、学生らしく派閥なんてものを作ろうとしてみただけよ」
「そういうことするなって、ソルト王に言われてたでしょ」
「良いじゃない。ここはお父様だって口出し出来ない場所なんだから」
そう悪戯っぽく笑う姿は小悪魔的で可愛らしい。
見た目だけは!
実際の彼女は小悪魔などという可愛らしい存在ではなく、むしろ人を誘惑する悪魔そのものである。
もちろん人間として悪というわけではないが、俺は子どもの頃から彼女に散々な目に合わされてきた。
具体的には、俺を自分の婚約者にして王位に就かせようとするために、ハニートラップを仕掛けてきたのだ。
「それにこうでもしないと貴方、来てくれないでしょ?」
「……呼んで下されば伺いますよ」
「目を逸らしながら言っても説得力ないわよ」
もちろんこの学園にレオナがいるのを知っていた。
それでもこうしてずっと会いに来なかったのだから、彼女からしたら説得力の欠片もないだろう。
事実、レオナの言う通り、彼女がこういう風に余計な動きをしていなかったら、多分色々と理由を付けて避けていたし。
「この間の決闘、良かったわ。とってもゾクゾクした。ええ、本当に一年会わなかっただけだけど、また強くなったわね」
「恐縮です」
レオナの目は完全に俺を捉えて、近づくと頬に触れてくる。
まるで愛しい宝石に触れるように丁寧だ。
この王女様を一言で言うと、強者コレクター。
強い者なら貴族も平民も関係なく召し抱え、王宮でも自分が集めた騎士団を作るほどの徹底ぶり。
その欲は底知れず、あのソルト王すら自分の物にしようと騎士団を率いて挑み、返り討ちに合った。
しかも全然諦めずに何度も挑戦するので、王様もさすがに呆れて「我が娘ながら強欲過ぎる……」と嘆息したほどだ。
結局学園入学時期まで負け続けたため、今はソルト王の言う通り大人しく学園に通っているが、もし勝っていたら王位簒奪になっていたので恐ろしい。
そして彼女が今一番欲しいのが、そのソルト王の弟子であり彼に匹敵しうる力を持った存在……つまり俺だった。
「ねぇ、ますます欲しくなったのだけど、どう? そろそろ本気で婚約を考えてくれない?」
「そんなことしたら俺、ソルト王に殺されちゃいますから」
「むしろ貴方以外を選んだら、多分その人が殺されちゃうけどね」
否定出来ない。
王様、意外と親馬鹿だからなぁ……。
「私ね、隠してたけど強い人が好きなの」
「全然隠してなかったですけどね」
「あら、じゃあ私の想いをずっと知ってて無視してたのかしら? なんて酷い人なのかしら」
演劇のヒロインのような所作で泣き真似をするが、子どもの頃からの付き合いなので心に響かない。
失敗したなぁ……。
あのときライゼンの心を折るために結構本気を出してしまったため、再び彼女の琴線に触れてしまったのだろう。
元々俺のことを欲しくて欲しくて仕方がなく、何度もアプローチを仕掛けてきた彼女から俺は逃げ続けていた。
本音を言えば、こんな超が何個も付きそうな美少女との婚約など嬉しい以外にないのだが、俺が拒否をしている理由はもちろんある。
「私と婚約すれば、次期国王よ」
「だからですって」
このハーレムが当然とされている世界において、ソルト王はリンディス王妃以外の伴侶を得ていない。
そして二人の子どもは、このレオナ王女ただ一人。
つまり唯一の正当後継者であり、彼女の婚約者が時期国王になってしまうのだ。
「俺は王になるような資質はないですよ」
「神童クロード・リンテンスならみんな納得してくれると思うけど?」
「十で神童十五で才子二十過ぎれば只の人……今の俺は少し才能があるだけの男ですよ」
「不思議な言葉ね。才能がある人はずっと才能あるに決まってるじゃない。もし二十で凡人になったのなら、最初から凡人だったと言うだけの話だわ」
……そうなんですけどねぇ。
まあたしかに、俺の地位と名声を考えれば世間は許してくれるかもしれない。
ただどう言っても俺は原作知識があったから上手く出来ただけの一般人。
侯爵領を運営するならともかく、全貴族をまとめ上げる王など不可能だ。
「私はお父様と違ってハーレムにも寛容よ」
「別に王にならなくても、なんとでもなりますから」
「でもそれだと私が手に入らないじゃない」
それは、と言いかけて言葉を噤む。
このレオナは本来の原作では敵として登場し、彼女の集めた部隊は主人公たちを大いに苦しめる。
メインヒロイン級の美少女だが、終始敵キャラであるため仲間に出来ず、途中で命を落としてしまう存在だ。
だからこうして現実になり、目の前で手が届く範囲にいるというのは、悪魔的な魅力なのだが……。
「ソルト王には恩がありますから。裏切れませんって」
娘が欲しければ私を倒せと言われたら、全力で逃げだすくらいには怖いし。
「っと、話がだいぶずれましたけど、こういう人材集めは学園では控えるように言われてたでしょ? なんで急に?」
「もちろん、貴方を手に入れるためよ」
「……は?」
いや、俺がなにをしたって言うんだよ。
ただちょっと悪役貴族たちをしばいてただけだぞ。
「リンテンス派なんて作ってるみたいじゃない。ふふふ、だったら私がそれを丸ごと頂くわ」
「つまり、俺に対する宣戦布告、ってことですか?」
「ええ。直接対決では絶対に勝てないけど、組織運用はどうかしら?」
挑発と同時に俺の動きを制限してきた。
ようはクロード・リンテンスというジョーカーを使うなと、手足だけを使って勝負しろとそう言っているのだ。
少し回りくどいが、王族である彼女がそう言うのであれば家臣である俺には逆らいようがないんだよなぁ。
「勝っても俺にメリットないんですけど」
「私の身体を好きにさせてあげるわよ? もちろん婚約とかなしで」
「それで婚約しなかったら、ソルト王にぶっ殺されますね」
いやまじでなんて提案してきやがるこの美少女!
抱けるなら抱きたいよ。だってシンシアにも負けないくらい見た目はいいし、なにより王族をこの手で好きにする、なんて最低だけどロマンだろ⁉
でもさすがにその後の人生全部を国に捧げる覚悟はないから却下だ。
そう言うと、レオナは誰もいない教室なのに、俺の耳元に唇を近づけてそっと呟く。
「じゃあ……最後まではなしで、でどう?」
「え?」
彼女はそのまま手を俺の太股からそっと上を撫でるように触れ、言葉を続ける
「もちろん誰にも言わないわ。したいこと全部させてあげる……」
「あ……」
拒否しなければならない。
なぜなら俺が負けたら王にされてしまう。
だが俺の脳裏にはすでに、裸で俺に甘えるレオナの姿が映し出されており……。
教室から出た俺は、一瞬だけ自分の下半身を見て、ほっとする。
「耐えきった……」
シンシアに対する罪悪感がなければ耐えられなかっただろう。
ありがとう、最高の恋人だ。
そう思って二学年の廊下を歩いていると、まるでこちらを待ち伏せするように三人の上級生が立っていた。
「クロード・リンテンス。ちょっと面貸して貰おうか」
「……」
三人のリーダー格っぽい、いかにも強気な女子生徒がクイっと顎を上げる。
ここ、由緒正しき貴族が集まる学園なんだけど。
なんで昔のヤンキー漫画みたいなノリを受けないといけないのだろうか?
そう思いつつ、俺は素直に上級生たちに付いていくのであった。
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