第13話 原作改変完了、そして新しい改変へ

 ライゼンとの決闘を終えてからそれなりに日が経ち、俺は学園の有名人になった。


 元々オルガン王国という大国の侯爵子息が入学してきたからと話題だったが、ライゼンというこの学園の暴君のような相手を叩き潰したことで、名実ともに神童の名に恥じない実力を見せたからだ。


 もっとも、だからといって英雄のような扱いを受けるかというと、そうは甘くない。


 なにせこの学園にはオルガン王国だけでなく、多くの国々から貴族が集まっている。

 それはつまり、俺という存在が目立てば目立つほど、脅威にも感じるということで……。


「最近周囲の視線が厳しい?」

「そうなんだ。俺、特別なことなんてなにもしてないのに……」


 ファーフナー皇国、水の都リンディウム。

 学園があるこの都市は、街中に水が流れており、自然に愛された綺麗な街だ。

 

 少し街を歩くだけでも気分が良く、俺はシンシアと一緒に手を繋ぎながらデートを楽しみながら、そんな相談をする。


「クロード君がなにもしてないことはないと思うけど……」

「授業態度は真面目なんだけどなぁ」


 やったことと言えば、ゲームでも敵キャラとして出てくるような悪役貴族を叩き潰してきただけだ。

 それもライゼンとの決闘以来、そういうやつも減ってきた。


 というより、本来そうなっていたやつらがいつの間にか俺の派閥入りしていたのである。


「クロード君の派閥の子たちは、その、あまり良い噂がなかったから仕方ないかも」

「入れた覚えないんだけどさ……黙ってたら勝手に俺の派閥に入ってて」

「でもおかげで毎年あった生徒たちの被害が今年はほとんどなかったって、先生たちは喜んでたよ」


 まあ初日からあれだけ派手に潰してきたからなぁ。

 そのせいで一部の生徒たちからは逆に、強すぎる派閥が出来たと思われてるみたい。


「ところで、クロード君……」

「ん? なに?」


 手を握ったまま歩いているシンシアが、もぞもぞもと恥ずかしそうな顔をする。


「……やっぱり、敬語で話したらダメかな?」

「ダメー。シンシアはもう俺の恋人なんだから、敬語はなしでーす」

「うぅー、クロード君の意地悪!」

 

 ちょっと拗ねた感じで言うが、可愛いので何度でも聞きたくなるな。

 ああ、こういうところが意地悪なのか。


 この間の決闘で大々的に俺がシンシアに告白したこともあり、学園ではもう公然の関係となった。

 とはいえ、お互い大貴族の家柄であるため、すぐに婚約というわけにもいかない。


 なにせリンテンス侯爵家の長男である俺とミストラル公爵家が結ばれると、王家に匹敵する一大勢力が生まれてしまうからだ。


 たとえば俺に家を継ぐ資格がなければ問題無かったが、こればかりは仕方が無い。


 俺が王家相手に敵対する気なんてないのはソルト王だってわかっているだろうし、そのうちちゃんと根回しが終わって解決するだろう。


「恋人同士なんだから、敬語は駄目だろ?」

「き、貴族ならお互い敬意をもってお話します!」

「俺はお互いもっと気楽な感じで接したいんだよ」


 まあ敬語のシンシアも令嬢という感じでいいのだが、こうして困った感じに話すシンシアが可愛くてつい敬語を禁止してしまった。


 実は俺も年上である彼女相手に敬語をやめるというのに違和感があるのだが、これもそのうち慣れるだろう。


 だって困るシンシアをもっと見たいし。


「むぅ……あ、そういえばクロード君の派閥、問題児が集まってて大変なことになりそうだけど大丈夫?」

「ん? まあ俺に逆らうなら二度と再起出来ないくらい叩き潰すから、多分大丈夫だよ」

「でもライゼン様じゃないけど、学園にはまだ大貴族の派閥も多いし、多分睨まれてるのもその辺りからだから……」


 たしかにこの学園には大陸中から貴族が集まってくるので、ライゼンに匹敵する権力者はいる。


 とはいえ問題無い。

 ソルト王以上の敵なんて、この世界にはそれこそ裏ダンジョンくらいにしかいないからな。


 ちなみにライゼンは大怪我を治したあと、学園から退場した。

 正式な決闘で負けたので、今後貴族に戻ることはないだろう。


 ――というか、多分もうこの世界からいないな。


 あれだけ派手にやらかしたのだ。

 みんなが逆らえなかったのは、もちろん本人の実力もあったのだろうが、一番はバックに付いているやつの公爵家という権力。


 それがなくなった以上、あとは集団で闇討ちでもすれば十分殺すことは出来る。

 人望もなかったみたいだし、やっぱり自業自得だな。


「もしうちのやつが暴走したらお仕置きするし、敵対するならやっぱり潰すかな」

「……ほどほどにね」

「それは相手次第」


 そんな風にシンシアと学園でのことを話していると、オシャレなカフェが見えてきた。


「あ、この店……」

「学園でも有名な店だ。もう昼時だし、入ろうか」


 中に入ると、外観だけでなく店内もかなりオシャレで、女性同士、もしくは男女がデートで使っているみたい。

 丁度デート中だったので良かったなと思っていると、知り合いを見つけてしまう。


「あ、ブルーローズ先生だね。声かける?」

「い、いや……」


 さすがにこんな店に一人で来ているのを見ると、声をかけづらい。

 本人が可愛い物好きなのは知っているが、いちおう隠そうとしているのも知ってるし……。


「休日を楽しんでるんだし、そっとしてあげよう」

「そう?」


 多分カルラ姉さんもこんなところを俺に見られたくないだろうしな……。


 遠目で見ると可愛らしい動物のラテアートを見てほっこりしている姿は、とても王国の懐刀と呼ばれる女傑とは思えなかった。




 シンシアとのデートが終わって部屋に戻ると、ミリーが部屋の掃除をしているところだった。


「あ、お帰りなさい。その様子だとシンシア様とのデート、良い感じだったんですね」

「ああ。お前たちが持ってきてくれる情報に助けられてる」


 いくら学園が舞台のゲームとはいえ、デートスポットまで抑えられているわけではない。


 ファーフナー皇国に詳しいブロウや、女性陣から色々と聞いて毎回デートプランを立てているが、今のところばっちしだ。


 なぜか男共は毎回死の危険を感じているかのような雰囲気だが、あいつらもいつか自分たちが使うために真剣なのだろう。


「それで、俺に敵対行動を取ろうとしてる勢力はわかったのか?」

「まだ調査中ですが、やはり二年生に多いみたいですね」

「二年か……」


 まあ貴族なんてプライドの塊だ。

 ライゼンがいたことで頭を抑えられていたが、いなくなれば新しい勢力が台頭してくるのは戦の常。 


 いやここ戦場じゃなくて学び舎なんだが、まあとはいえ変わらないか。


「三年生はもう将来について動いていて、今から派手な動きをしないって感じか?」

「はい。シンシア様がいますし、ライゼンの件で一番長く被害を受けていたのが今の三年生ですから、もう落ち着こうという雰囲気ですね」

「で、二年生はこれからこの学園を仕切りたい、と。どういう動きになると思う?」

「それはもちろん、ご主人様を取り込もうとするでしょうね」


 まあ、そうだよなぁ。

 あれだけの衆人観衆の中で、実質この学園の支配者であったライゼンを一方的にボコったのだ。


 少なくとも一対一で勝てる相手じゃないとわかっているはず。


 その上で、しかし学園制覇は成し遂げたいと思っている派閥も多いとなると……。


「やっぱり原作改変すると、色々と前倒しになるな……」

「前倒し?」

「いや、こっちの話だから気にしないでくれ」


 本当はライゼンが卒業して、主人公たちが二年生になってから起きる学園戦国時代。

 今の二年生たちが三年に上がり、そしてその覇を競い合う時代の幕開けが始まるのだが……。


 それが一年早まっただけの話である。

 まあ俺は別に学園が平和で、可愛い女子たちとイチャイチャ出来たらそれでいいから関係ないな。


「シンシアとも恋人になれたのもお前達が色々と働いてくれたおかげだ。感謝してる」

「ご主人様……」

「これからも頼りにしてるぞ」

「はい! 私は生涯、ご主人様のメイドとして働きますね!」


 凄い気合いの入った声だ。

 ミリーを最初に仲間にしておいて良かった。


 それになんだかんだ、ブロウたち悪役貴族たちも部下にしておいて良かったなと思う。

 あいつらがいてくれたおかげで、早期に邪魔者たちを排除出来たからな。



 そんなことを考えていた翌日――。


「リンテンス様! ご報告があります! 特ネタです!」


 チンコ頭のブロウ・ドマードが再び嬉しそうな顔をしてやってきた。


「絶対それ、特ネタじゃなくて厄介事持ってきただろお前……」


 もう完全にデジャヴな展開に嫌な予感がしつつ、とりあえず話を聞くことにした。

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