第12話 決闘で格の違いを見せつける
鍛錬場は円形のコロシアムと同じ形になっており、神聖ミューズ魔法学園のイベントを行うこともあるため、かなり広く作られている。
周囲には観客席や王族が観覧できる特別席なども設けられ、実際ゲームでも大会などが行われる際には凄まじい盛り上がりを見せていた。
「な、なんでこんなに観客が入ってんだ?」
ライゼンを連れてコロシアムに入ると、すでに闘技場の三分の一ほど埋まっており、なぜかドリンクを売っている生徒などもいる。
時折聞こえてくる生徒の声だと、どうやら賭けまで横行しているらしい。
「おいテメェ……まさか俺様を嵌めやがったのか?」
「いや、俺もなにが起こってるのか……」
ライゼンも周囲の観客を見渡してさすがに戸惑った様子だが、戸惑うのは俺も同じだ。
たしかに嵌めたが、普通に誰もいない鍛錬場でボコボコにするだけのつもりだったのだが……。
というか、なぜか鍛錬場の真ん中にはカルラ先生が立っていた。
「来たか二人とも。その様子だと準備は出来ているようだな」
「いやカルラ先生」
「リンテンス、学校ではブルーローズだ」
あ、さりげなく言っても全然駄目っぽい。
「ブルーローズ先生、これどういう状況ですか?」
「ん? なんだ聞いていなかったのか? 貴様の従者になったミリー・バルドルとブロウ・ドマードが色々と動いてこうなったのだが……」
「やっぱりテメェの仕業じゃねぇか!」
カルラ先生がそう言った瞬間、ライゼンが怒りの形相で叫んでくる。
だが待ってほしい。俺は本当にこの状況を知らなかったのだ。
思わず観客席でミリーを探すと、先にブロウが見つかる。
やつは俺に向かってサムズアップをして、やってやりましたよみたいな雰囲気で笑ってやがった。
「……まあいいか」
実際やることは変わらない。
結果的にライゼンの被害が大きくなるだけの話だから、この状況に乗っかることにした。
「ライゼン先輩。この状況、貴方にとってなにか不都合でもあるんですか?」
「ああん⁉ ねぇよそんなもん! テメェみたいなクソ生意気なガキが、二度と学園に戻ってこれねぇくらいボロボロになったのが広まるだけだからな!」
「ああ、良かった。俺たち、気が合いますね」
同じことを思っていてくれて。
笑顔でそう言うと、ライゼンの表情がさらに険しくなり、血管が浮かび上がっていた。
金髪をオールバックにし、ピアスを開けて、鋭い三白眼に着崩した制服。
学園を出たあとは相手を威圧するような風貌も、学生時代ではまだまだチンピラに毛が生えた程度にしか見えない。
「ボロボロになるのはお前の方だよ、ライゼン」
「は、ははは! そう言って俺様に挑んできたやつらがどうなってきたか、知らねぇみたいだなぁ! いいぜ、ぶっ殺してやるよ!」
「少し落ち着け」
「うっ……」
そうしてライゼンが魔力を高めると、間にカルラ先生が入る。
キリッとした瞳、長い黒髪にパリッとしたスーツにタイトスカート、そしてなにより腰に差した剣。
歴戦の軍人か剣豪といった雰囲気は格好良く、俺も成長したらこういう風になりたいと思ってしまう。
さすがのライゼンも、王国が誇る女傑を前に若干怯んだ様子を見せた。
「先に確認だ。二人とも、決闘を認めるということでいいな?」
「そういえば先生が間に入るってことは、これ正式な決闘として認められるってことでいいんですよね?」
「そうだ。すでに申請も通っている。つまり、相手が望んだモノを得られるというわけだが……」
そういえば色々と決まったのが直前だから、正式になにを要求するかお互いに決めていなかった。
「ははは! そうかそうか、こりゃ正式な決闘だもんな! じゃあ俺様はテメェの貴族位剥奪を条件にさせてもらうぜ!」
「……へぇ」
思わず俺の目が細まってしまう。
このチンピラ、意外と頭を使うじゃないか。
ここでなにかを要求するよりも、俺を一度平民に落としてからの方が好き勝手出来ると思っての提案だろう。
それ自体はなにも間違っていない。
この世界はでは権力は絶対だが、たとえば伯爵と侯爵、それに公爵などが相手ではたとえ上位貴族であっても好き勝手するわけにはいかないが、平民と貴族であれば好きに出来るからな。
絶対に勝てる勝負であれば、その条件はかなり良い。
しかしやっぱり馬鹿だなコイツ。
「それでいいですよ。じゃあ俺も同じ条件で」
「……なに?」
「なにか?」
俺の言葉を信じられないと思っているのか、訝しげな顔をしている。
だがこれは元々決めていた条件だ。
「テメェの目的はあの女だろうが! だったらそれを賭ければ――」
「ライゼン様は馬鹿ですね。そもそもシンシア様は貴方の物じゃないし、賭けの対象にするなんて以ての外だ。俺は正々堂々、彼女を本気で愛して愛されるつもりなので、こんな賭けの対象にはしませんよ」
そうあざ笑った瞬間、ようやく自分がどういう状況なのか理解したのかライゼンの表情が少し強ばった。
先ほどこいつは嵌めたのかと言っていたが、その通りだ。
こんな大規模な決闘をするつもりこそなかったが、言質を取った上でこいつが二度と逆らえないようにするつもりだったのだから。
「要するに、最初から狙いは俺だったってことか……」
「貴方はやり過ぎたので、上からの命令でね。まあ予定よりも規模が大きくなりましたが……やることはなにも変わらない」
もちろんシンシアが欲しいのは本当だけどな。
「……くっそがぁぁぁ!」
ライゼンは今の状況を理解して、思い切り空に向かって吠える。
それだけでかなりの魔力が溢れ出し、学生とは思えない強さを見せつけた。
「だがそんなの関係ねぇなぁ! 俺様は魔法の天才だ! たかが入学したてのクソガキに負けるわけねぇ!」
「じゃあさっさとやりましょう。ブルーローズ先生」
カルラ先生は呆れた顔をして俺を見た後、手を上げる。
「それでは、クロード・リンテンスとライゼン・レーベンの決闘を始める。負けた者はその瞬間、貴族位剥奪となるが、いいか?」
「おおよ!」
「はい」
「では見届け人はこの私、カルラ・ブルーローズが行う。両者、どんな手段を使ってでも必ず相手に勝つように!」
「死ねやぁぁぁぁ!」
そして、カルラ先生が手を下ろした瞬間、ライゼンが人の顔ほどの大きさの火球を飛ばしてきた。
初級の攻撃魔法だが、こいつくらい魔力があれば十分相手を殺せる代物だ。
その火球を、俺はなにもしないまま受けた。
「はっはー! 直撃火だるま確定だぜぇ! ……は?」
もっとも、こっちはその百倍は威力のある火球を受け続けてきたわけだが……。
ライゼンは俺がのんびり前を歩いている姿が信じられないのか、呆然としている。
すでに当たった火球は消えていた。
「な、なんで……? 直撃を……したはずなのに……?」
「魔力防壁くらい展開しますよ」
俺の身体にはうっすら半透明の魔力防壁が包んでいる。
それがこいつの火球を防いだものだが、どうやら信じられないらしい。
この身体全体を覆うタイプは通常の防御魔法に比べると防御力は低く、ライゼンくらいの魔力があれば十分破れるはずだった。
だから驚いているのだろうが、単純な話である。
「俺の魔力の方が、圧倒的に多かったってだけなの、わかってますよね」
「なっ⁉ あ、ありえねぇ! まぐれだろ! 防御魔法ならともかく、そんな薄っぺらい魔力で俺様の魔法を止められるはずがねぇんだからっ――⁉」
ライゼンが驚いたのは、俺の魔力が可視化されるほど高まっているからだ。
一歩、俺は進むごとにさらに魔力を高めていく。
俺の魔力は現時点で、控えめにいっても世界最強クラス。
あのソルト王からは「人を超越した龍のごとき魔力だな」と言われたこともあるほどに大きい。
当然、学生の身で得られる力ではない。
「あ、あ、あ……そんな、こんなの……」
恐怖からか、ライゼンが後退る。
離れたところから見ているギャラリーすら息を呑み、静まりかえらせた。
「もう一度来いよ。格の違いを見せつけてやる」
手を前に出す。
ライゼンが生み出した火球と比べるとほんの小さな、蝋燭のような火種。
だが、そこに籠められた魔力は絶大だ。
「あ、ああああぁぁぁぁ! 死ねやぁぁぁぁ!」
もはや半狂乱な状態で、自分の魔力を全部つぎ込む勢いでライゼンは巨大な火球を生み出して俺に向かって放ってくる。
それに対して俺は、この指先サイズの白い炎をそっと押し出した。
「白炎」
それは真っ直ぐ巨大な火球とぶつかり、一瞬でそれを飲み込みながらライゼンに触れる。
「へ……? あ、ああぁぁぁぁぁぁぁぁー⁉」
一瞬で白い炎が火柱を上げて天まで昇り、俺が拳を握った瞬間炎は消えて、ライゼンが地面に倒れる。
手加減はしたし、この世界の基準でいえば、ここから回復魔法を使えばまあ生きていられる程度の怪我だ。
「勝者! クロード・リンテンス!」
当たり前のようにカルラ先生がそう宣言した瞬間、周囲が歓声を上げる。
凄まじい熱狂だ。
誰もライゼンの心配をしていないのは、それだけの悪行を為してきたからだろう。
ま、自業自得というやつだな。
倒れて運ばれていくライゼンのことはもう忘れて、俺は観客席からずっと心配そうに見ていたシンシアに向かって手を上げる。
すると彼女は嬉しそうに観客席から飛び降りて――。
「クロード様、ありがとうございます!」
俺に向かって飛び込んできたので、俺はそれを受け止める。
衆人観衆の中、しばらく俺たちは抱き合い続けるのであった。
本来なら学園を卒業後、ライゼンによってかなり酷い目に合わされるはずだったシンシア・ミストラルだったが……。
まあ原作の嫌な部分なんて、ちゃちゃっと解決しておくに越したことはないよな。
とりあえずこれでもう、彼女を脅かす悪いやつはいなくなったので、めでたしめでたし。
――羨ましいな……。
近くから聞こえた呟き。
幼い頃から何度も聞いてきた声だが、とりあえず今は聞かなかったことにしておこうと思う。
今はとにかく、この銀色の美少女の感触を全力で楽しみたかったから。
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