第34話 派閥戦争、最終戦
会場はいつもの学園の訓練場ではなく、リンディウムから少し離れた巨大な闘技場。
参加する人数、なにより集まった観客が大物ばかりで、学園イベントから大きく乖離してしまったことが原因だろう。
「まあ、ソルト王が来てるしなぁ」
大国の王が来るという話が流れたからか、各国からも王族が集まってきた。
さすがの学園もこれには焦ったらしく、急遽この古い闘技場を整備したらしい。
他にも学園の客間やリンディウムの宿の調整などなど……うちの我が儘王女がすみません。
「あら、私を前に考えごと?」
「ええ、これが終わったあと、貴方をどうしてやろうかと思いまして」
お互いの派閥のリーダーということで、向かい合う。
軽口を叩くと、彼女は嬉しそうな顔。
俺がソルト王から貰った情報はまだ知らないはずだから、まだ自分が優位に立っているとでも思っているのだろう。
「ふふふ、やっぱり良いわね。せっかくの舞台……観客も良い感じに盛り上がってきてるし、楽しみましょう」
「……」
「カルラ姉さんは――」
「言うな。今は敵だ」
隣に立つ彼女は鋭い敵意を見せる。
まあ彼女はこういう人だ
あとは終わったあとに色々と語れば良い。
自分の陣地に戻ると、四天王の四人が力強い目をしていた。
大貴族やそれに準ずる人たちだけあって、大舞台に強いらしく緊張は見えない。
「いや、というかなんでお前いるの?」
「俺はリンテンス様の左腕ですから!」
「そっか」
怪我してるブロウもいるが、まああまり大怪我に繋がらないように頑張れ。
あと俺の両腕はそろそろいっぱいだから。
「さて……それじゃあ強くなった皆さんのお披露目と行きましょうか」
「「「おお!」」」
敵は俺のことを嫌いなやつらだから、好きにぶっ飛ばしてもらおう。
さて、そんな反リンテンス派閥の大群と四人がぶつかり合っている間、俺は集中して前に進む。
そこにはすでに剣を抜いて戦う気満々のカルラ姉さん……。
「気合い入れてやるかぁ」
俺とカルラ姉さんがガチで戦うと被害が甚大になりそうだが、そこはソルト王がきっちり結界を張ってくれている。
これなら観客に被害はないだろう。
「来い。今のお前の実力、見せてみろ」
先手を譲ってくれるということで、炎の矢をまずは百本を放ってみる。
一撃一撃がライゼンに使ったそれよりも遙かに魔力を籠めているのだが、すべて剣で叩き落とされた。
「この程度か?」
「まあ、こうなるよな……ってわけで、ここからが本番!」
接近されると負けるので、距離を取りながら魔法を放つ。
だがカルラ姉さんは問答無用で叩き落としながら凄いスピードで迫ってきた。
「シッ!」
「あぶな!」
俺も接近戦が出来ないわけじゃない。
というより魔法が得意なだけで、この学園の誰よりも強い自負がある。
この人を除いて!
「とはいえ、伊達にこっちも主人公やって来てないんだよ!」
両手に魔法で作った光の剣を生み出し、カルラ姉さんの剣に合わせる。
怒濤の剣撃。
一本の剣であれば追いつかないその速度に、俺は二本の剣で対抗する。
「ほう、やるじゃないか!」
「どういたしまして!」
激しい剣と剣のぶつかり合い。
端から見たら俺たちの手の動きは見えないレベルの打ち合いだ。
互角……と言いたいところだが徐々に俺が押し込まれていく。
「だが所詮は付け焼き刃な上、攻撃のためじゃないな?」
「直接戦闘じゃ、勝ち目がないからね!」
距離を取った瞬間、空から光のレーザーが落ちてカルラ姉さんを襲う。
結局のところ俺は魔法使い。
剣で戦う剣士とは違うのだから、相手の攻撃さえ防げるレベルにあればいい。
「ところで、なんで光魔法を直撃してノーダメージなんですかね?」
「鍛えているからな」
「そういうバグキャラみたいなの良くないと思うんだ俺」
この世界自体がゲームと同じなのだから、本当にバグってんじゃないかと思って怖くなる。
「しかし小細工が上手くなったが、この程度では私は倒せないぞ?」
「別に今カルラ姉さんを倒す気はないんだよなぁ」
「なに?」
チラッと見れば、すでに反リンテンス派閥はほとんどが倒れている。
魔改造したセリカたちの実力はかなり高く、たとえ三学年であってももう止められないはずだ。
対してこちらの被害はブロウ一人。
このまま行けば敵を全滅させ、レオナ王女を捕らえて勝利することも可能だろう。
「なるほど、私を倒すのではなくレオナ王女狙いか……」
「そういうこと。カルラ姉さんをガチで倒すなら、一日じゃ足りないしね」
「……ふ、果たしてそう上手く行くかな?」
俺の狙いを聞いてなお不敵に笑うのに、ちょっと嫌な予感がした。
だが作戦に穴はない。
この世界でレオナ王女との関わりはそんなに深くないが、それでも彼女が原作通り強者コレクターであること。
そして彼女自身の戦闘力はそこまで高くないということ……。
「……まさか」
「あのソルト王の娘だぞ」
俺がなにを想像してたのかわかったらしく、カルラ姉さんが呆れたような顔になる。
「弱いわけ、ないだろ」
そう言った瞬間、離れたところで凄まじい魔力が解き放たれた。
いやちょっと待て、なんだこれ?
まさかずっと力を隠してたとか、そんなノリか⁉
「元々天才だったのは知っていたが、どうも自分が戦うより強者を集める方が好きなようで鍛錬を怠っていた。だがなぜか学園に入学してすぐ、私に鍛えろと言うのでしっかり強くさせてもらった」
「……」
ってことは、約一年、か……。
まあ天才ならそれでも十分強くなるよな……。
「あいつら四人では、荷が重いのではないかな?」
「なんてことしてくれてたぁぁぁ!」
縦横無尽に魔力を操り四天王の四人と戦うレオナ王女は、まるでソルト王のようだ。
もちろん実力は異なるが、それでも今の彼らでは厳しいのは間違いない。
「つまり、お前が私を倒せなければ勝ち目はないということだ」
剣を再び構え、これ以上の問答は無用だと再び襲いかかってくる。
それを捌きながら、どうやってこの人を倒すか、頭を巡らせた。
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