第35話 決着、そして……
なんで俺が原作ブレイクして各キャラを魔改造するより先に、原作の敵キャラ魔改造してるんだよ!
自分のことを棚上げしている自覚はあるが、これくらいの文句は言わせて欲しい。
チラっと見た限り、四人がかりで戦ってようやく均衡を保てているレベルで、レオナ王女は強くなっていた。
下手を打って誰か一人でも欠けたら、その瞬間敗北してしまうだろう。
さすがはあのソルト王の一人娘だ、と感心すると同時に、もし原作であの子が本気で鍛えていたら主人公たちは早い段階で全滅してゲームオーバーになっていたかもしれない。
「一応言っておくが、あの方が本気で強くなろうとしたのはお前が原因だからな」
「ぐっ⁉」
考え事をしている間に距離を詰められた。
双剣で防ぐが、根本的な近接能力に劣るのにこの距離は不味い。
「これで、どうだ!」
思い切り足を踏み、二人の間に地面を盛り上げる。
「甘い」
足場が崩れればさすがに距離が取れる、と思ったが、カルラ姉さんはさらに踏み込んできた。
そのせいで手を伸ばせば触れられる距離をずっと詰められ続け、俺は押されている。
「あのレオナ王女が私に頭まで下げてきた理由が分かるか?」
「俺が欲しかったからでしょ! 強いやつを集めるのが趣味だから!」
「違う」
俺が防ぐと分かっているからか、容赦なく首を狙ってきやがる。
「唯一ソルト王に認められたお前の隣に立ちたいからだ」
「……は? っ――⁉」
予想外の言葉に一瞬判断が遅れてしまい、危うくやられてしまうところだった。
しかし隣に立ちたい?
あの王女は自分の立場をよく理解しているし、同年代で彼女以上の立ち位置の人間がいないことも知っているはずだ。
なのに何故、俺の隣に立ちたいがために努力するという意味がよくわからない。
「まさか俺のこと好きだから、とでも言う気ですか⁉ あの人にそんな感情ないでしょ」
「それはお前、さすがに酷いぞ」
「だってレオナ王女、何回ソルト王に戦いを挑んでると思ってるんですか⁉ さすがの王様も呆れてましたよ!」
レオナ王女が欲しいのは最強クラスのコマであり、ソルト王に対抗する手段でしかない。
父親を手に入れるため、何度も何度も挑んで、「娘が貪欲すぎる」と本気で困った顔をしていたのはよく覚えていた。
「自分で言うのもなんですけど、俺ってなんだかんだ最強戦力の一角ですからね! どうしても欲しいんでしょ⁉」
「それは否定しない!」
しないのかよ。
いやわかりきってる部分なので良いけど……。
「だがあれで純粋な部分もあるのだ。本当にレオナ王女はお前の隣に立ちたいと、そう思って自ら強くなった」
「……」
本気を伝えるためか、妙に真剣な声色。
ただそう言うなら、もう少し手加減して欲しい。
正直防ぐので必死すぎて、言葉がこっちに響いてこないから。
「女心は複雑なんだ。分かれ」
「分かれって言っても……」
ここまで言われて、嘘だとは今更思わない。
本当にレオナ王女は俺のことを好いているのだということも理解出来た。
だったら……。
「むっ⁉」
カルラ姉さんの剣を弾き、ここに来て初めて攻勢に出る。
「お前……これは!」
「これでも俺、神童で通ってるんで」
カルラ姉さんと修行をしなくなってから二年以上あったため、以前よりも強くなった彼女の剣を理解するのに時間がかかったが……ようやく修正出来た。
「ここからは俺の番だ!」
「くっ――⁉ 先ほどよりずっと早い!」
自分の身体強化の魔力を全開にする。
カルラ姉さんはたとえどれほどの威力、速度であっても遠距離からの攻撃はすべて剣で防いでしまう。
「あの我儘王女め! 俺が欲しいなんて言われてもな、俺は誰のモノにもならねぇよ!」
もし魔法での戦いで勝とうと思ったら、体力が無くなるまで粘るのが必須で、故に三日以上の時を要する。
だがそんなことをしていたら四天王の面々が先に敗れてしまい、そしてやってきたレオナ王女が加勢されて負けてしまうだろう。
だからこそ、ここで一気に決める。
「逆に俺のモノにしてやるよ! だからカルラ姉さん、そこをどけぇぇぇ!」
「む、おおお!」
今は先ほどまでの緩急差によってカルラ姉さんが俺に追いついていないだけ。
また時間をかければ対応されてしまうので、魔力を全開のまま純粋なパワーで押し切り、彼女の剣を無理矢理叩き折った。
「くっ――⁉」
「これで、終わりだ!」
身体強化も魔法であり、使い手によって効果は変わってくる。
そして純粋な魔力勝負になれば、今の俺のパワーに対抗出来るのはこの世界でもソルト王くらい。
いくらカルラ姉さんでも剣なく防ぐことは不可能。
「あ、ぁぁぁぁ⁉」
蹴り飛ばして壁までぶつけ、かなりのダメージが入った。
あのオルガン王国の剣であるブルーローズが敗れた、と観客からは大歓声が響く。
このまま追撃すれば勝てるだろうが、この戦いの目的はそこじゃない。
「さぁて、我儘王女にお仕置きの時間だ。散々俺に色々と仕掛けてくれた礼はしっかりしてやらないとな」
と言っても、別にこの場で辱めるわけじゃないけどな!
それは勝ったあとの話だ!
一気に彼女たちの戦いの中に入る。
四天王の面々は驚いた顔をしているが、敵であるレオナ王女はなぜか微笑んだ。
「まさかブルーローズが負けるとは……さすがはクロードね」
「そう言う割には、笑ってますね?」
「ええ。本気で愛している男が最強の剣よりも強かった。これほど嬉しいことはないのだから当然よ」
先ほどのカルラ姉さんの言葉を聞いていたせいか、その告白に驚くことはなかった。
ただ、もっと早く気付くべきだったかもしれないと、少し後悔する。
彼女は風の魔法を放ってくるが、俺はそれを打ち消した。
いくら強くなろうと、才能があろうと、今の俺に勝てる通りはないし、それは彼女も分かっていたことだろう。
俺はレオナ王女の腕を掴むと、そのまま押し倒して馬乗りになる。
「私のモノに出来ないのは残念だけど……仕方ないわね……」
「心配いりませんよ。貴方のモノにはなりませんが、俺のモノにはしますので」
「え?」
戸惑ったような顔をしたレオナ王女に手に魔力を集めて見せつける。
「俺の勝ちでいいですね?」
「……ええ。私の負けよ」
その瞬間、先ほどカルラ姉さんを倒したとき以上の多くの声が闘技場に響いた。
野太い声は嫉妬の声。
黄色い声は、俺のファンのものだろう。
他国の貴族達はどういう目で見ているかはわからないが、ここにソルト王がいる限り、まあ変なことにはならないはずだ。
「じゃあ、これからは俺のモノってことでいいですね?」
「いいの? だって私を手に入れるってことは、お父様から王位を譲られるということ――ん」
ここに来て色々と言おうとする口を無理矢理塞ぐ。
先ほどとは種類の違う歓声が上がるが、知ったことか。
「このあとは、もっと凄いことしてやるから覚悟しろよ」
「……はい」
顔を紅くして、これまでの強気な姿勢とは一転してずいぶんと大人しくなった。
こうなると、やっぱり最高レベルに可愛いなこの王女。
そして審判をしていた教師から決着の合図が下され、俺の勝利は確定された。
同時に、学園における派閥戦争はすべて決着がつき、明日からはこんな馬鹿騒ぎもお終いになる。
「そう思うと少し寂しいけど……」
レオナ王女から離れて立ち上がらせ、もう一度彼女にキスをする。
ちなみに会場のVIP席にいる御方の方は見ない。
どういう顔をしているか予想がつかないからだ。
「今日の夜、俺の部屋に来い」
「わ、わかったわ……」
これから寂しいなんて思わないくらい、色々としよう。
レオナとも、シンシアとも、オウカやセリカ、それにミリーも可愛がってやらないとな。
「それに、まだちゃんと恋人になっていない子も、しっかり交流を深めていかないとな」
そう考えると時間などいくらあっても足りない足りない。
寂しいどころか、よく考えたら派閥戦争なんてしてる場合じゃなかったわ。
「さぁて、ヒロインハーレムを楽しもう」
俺は男共の嫉妬の声を聞きながら、頑張ってくれた四天王の面々と、ついでにブロウを労いに行った。
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