第21話 派閥戦争ボス討伐戦
ミリーやリンディス王妃の件でもわかるとおり、この『はでとる』の世界はまるで18禁ゲームのように酷い展開が多い。
特に酷いのが仲間にならないキャラたちだ。
たとえば俺の師匠であるカルラ姉さんなんかも、どういうルートを辿っても死んでしまう。
もちろん今後そんなことは起きないし、俺が起こさせないが……。
だが実はモブだけではなく原作ヒロインでも同じで、学園のシナリオで酷い目に遭うキャラが複数人いる。
たとえばシンシア。
彼女は選択肢によってはライゼンによって酷い目に合わされて瞳の光が消えたり、鬼畜英雄ルートだとくっころ騎士になっていたところだ。
ゲームならともかく現実になら嫌いだから俺はもちろんやらないが、ここはそういう世界であることは間違いない。
そして学園時代、ヒロインで酷い目に合う筆頭が四天王の一人、セリカ・レオニダス伯爵令嬢で、それはこの派閥戦争編で起きる。
彼女は権力の低い令嬢たちを守るために立ち上がったわけだが、その半数以上が敵対派閥の謀略により婚約。
その結果、信じていた者たちから幾度となく裏切りに合い、それでも信じ続け、最後は数人を残して孤立していく。
――私は大丈夫だから。あの子たちにだって立場があるんだ。だからこれは、仕方が無いんだ。
そう言いながら裏切られても周囲を諫め、裏切り者を責めずに、むしろ守ろうとする。
しかし悪意というのは、隙を見せた者に襲いかかるもので……。
登場したときは『強い令嬢』の象徴であった彼女が、どんどんと擦り切れていく姿は、正直見ていて心が痛くなった。
小さなライオンと称されていたが、それも群れを守るために小さな身体で頑張る姿から応援される呼び名だ。
「まあそれも、この派閥戦争の終盤に起きることだ」
四天王自体は全員が本質的に良いキャラたちだが、ついていく者たちはそうじゃない。
ただそれだけの話。
そういう姑息な奴らは表に出てきたら大したことがないのが定番だし、俺の敵になどなるはずがなかった。
「はっはっは-! 次はお前だぁ!」
「な、なんなんだよお前は! 俺たちマックール派とレオニダス派の戦いだぞ! なんで関係ないやつが――⁉」
「死ねぇぇぇ!」
「ぎゃぁぁぁ⁉」
二学年の教室が並ぶ校舎内。
そこでは二派閥が魔法を使って戦争を行っていた。
今日は休日で元々校舎には人が少なく、また関係ない生徒たちの避難はとっくに終わっているようで、残っているのはこの二派閥の生徒と、万が一が起きないように監視している教師陣だけだ。
「なんだ⁉ なんでリンテンスがここにいる⁉」
「おいふざけるなよ! ここはお前がいていい場所じゃねぇぞ!」
まあ彼らが怒っている通り、普通ならあり得ない状況だが、元がゲームらしく派閥戦争にもちゃんとルールがある。
派閥同士が戦うことを了承し、教師が監督して初めて行うことが出来るのだ。
そしてルールだが、決められた時間内に派閥が全滅、またはリーダーが倒されると相手の派閥に一つ言うことを聞かせられるというもの。
やり過ぎなことは約束させられないが、それでも相手の動きを制限させることは出来、少しずつ勢力を削っていくことで、自陣を有利にしていく。
もちろん口約束なので破ることは出来るが、ここは大陸中の国から貴族が集まる学園。
誓いを破れば一瞬で大陸中に広まってしまい、実家からは勘当されてしまう。
すでにセリカとロイドはお互いの派閥が戦うことを了承しあって、やり合っているので、そこに乱入するのは本来ルール違反だが……。
「おいおいお前ら、まさか派閥全部を引っ張ってきながら、俺一人に対して卑怯なんて言う気じゃねぇよなぁ?」
「う、ぐぐぐ……」
「畜生……」
貴族は面子を大切にする生き物とはいえ、こんなに派手にやり合えば学園中に広がるし、隠し通せる物ではない。
だから俺は逆に考えた。
広まっても良いのだと。
「くそぉ、なんだよこいつの化け物っぷりは⁉」
「嘘だろ⁉ このままだとマジで全滅させられるぞ! たった一人の一学年に!」
マックール派もレオニダス派も関係ない。
「派閥戦争? いいぜやろう! 俺一人対敵対派閥全部の戦争だけどなぁ!」
二学年が集まる廊下を駆け巡り、片っ端から倒していく。
さすがに女子には手加減するが、残念ながらセリカの派閥の女子はなぜか昔のレディースみたいなのが多いので、結構怖いし強く手加減が難しかった。
とはいえ、実力差は明確。
俺一人に戦争は滅茶苦茶になっていき、戦場は悲惨な状態になっていった。
「はははははー! 俺を止められるものなら止めてみろ!」
派閥戦争が起きれば乱入し、俺の強さを知らしめ、敵対するのが馬鹿らしくなるほど徹底的に潰す。
そうすれば二年生の目は否応なしに俺に向けられ、セリカになにかをする余裕なんてなくなるからな!
あと単純に、俺のストレス解消になる!
「ストレスはお肌の天敵だからなぁ!」
「言ってる意味がわからうげぇぇぇぇ⁉」
最後の一人をぶっ飛ばしたところで、後ろを見る。
死屍累々とはこのことか、廊下には瀕死の生徒たちが倒れまくっていた。
「我ながら酷い光景だ……」
「そう思ってんならやめろやテメェ!」
「あ、ロイド先輩。こんにちは」
「よくもまあこの状況で挨拶出来るな! ぶっ殺してやろうか⁉」
返り討ちにしてやるぜ! と言いたいところだが、言うのは今じゃないのでいったん保留。
今回直接ロイドのところまで来たからあの子は遠いけど……
「あ、来た来た」
「はぁ、はぁ、はぁ……くそ! やっぱり報告は本当だったのか……」
慌てた様子で駆け寄ってくる小さな少女――セリカは俺を見ると、悲しそうな顔をした。
「なあリンテンス。お前、なんでこんなことしたんだよ? なにかあるなら話くらいは聞く……」
「リカちゃんもいらっしゃい」
「よしまず殺す。そんでその後色々と聞いてやる!」
悲しそうな顔から一変して、一気に怒り顔になる。
そして俺を挟むように立っていたロイドも、手をポキポキと鳴らしながら怒りの形相。
「ここまでやられて逃がしたら、傭兵国家の名折れだからな! 俺もやるぜ!」
というわけで、ここで二人と強制バトルの開始か。
良いだろう、やってやろうじゃないか。
「返り討ちにしてやる!」
そう不敵に笑い、俺対セリカ&ロイドのボス戦が始まった。
ちなみにボスは俺である。
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