第22話 四天王相手に力の差を見せつける

 魔法学園に貴族が集まるということからもわかる通り、この世界では昔から魔法が重要視されている。


 そして強い力を持つ者は貴族に囲われ、魔法の血を濃くしながら家の地位を盤石にしてきた。


 一部例外を除けば、貴族としての地位が高ければ高いほど、魔法使いとしての才能があるということだ。




「さあ、遊んでやろう!」

「ふざけやがって! 俺を舐めんじゃねぇぞぉぉぉ」


 俺に馬鹿にされたと思ったのか、魔法で作った大剣を持ったまま力強く地面を蹴る。


 ロイド・マックールは傭兵国家グロウリーの傭兵団長の息子で、ガタイも良く実に戦士らしい男だ。


 あの国には貴族という制度が無い代わりに、役職がそのまま地位に当たる。


 傭兵団長はオルガン王国で言えばおおよそ伯爵相当になり、国の要職と言ってもいいレベルだ。

 世襲制ではないが、それでもやはり地位の高い家は各国の貴族と結ばれたりもするので、魔法の血が濃く結果的に才能のある子どもが生まれる。


 さらに学園に来る前から鍛錬を重ねているのだから、その強さは一般生徒では太刀打ちも出来ないだろう。

 実際、原作においてもそのパワーは他を寄せ付けないものがあった。


「死ねやぁぁぁ!」


 大剣を軽々と振り回してきて、その風圧で廊下の窓ガラスが揺れる。


 並の生徒であれば近づくことも出来ない嵐のような攻撃だが……。


「大振り過ぎて当たる気がしないな」

「なんだとぉ⁉」


 躱す、躱す、躱す。

 軽くバックステップで横薙ぎの剣を紙一重で避けて、そろそろ終いかな、と思っていると――。


「おっ?」


 不意に、ロイドの背後から素早い動きで小さな影が飛び出してくる。

 それは迷いなく暴剣の前に出て、俺の懐に入ってきた。


「はぁぁぁ!」

「おっと」

「っ――⁉」


 着地と同時を狙われたので、躱すことは出来ない。

 仕方が無いので、突き出してきた拳を平手で逸らすと、セリカは驚いた顔をした。


「嘘⁉ ライゼンと戦ったときは魔法だったろ⁉ 体術までいけるのかお前は⁉」

「なんでも出来ないと、未来が開けなかったんで」


 確実に決められる自信があったのだろうが、世の中広いんだよ。


 とはいえ、まあセリカが驚くのもわからないではない。

 基本的に魔法というのは前衛か後衛、どちらかに特化して鍛えられる。

 

 体内の魔力を上手く扱うのと、外界の魔力を扱うのは脳の機能を逆に動かすようなもので、大抵の人間は片方を不得手としているからだ。


「く! はぁ! この!」

「うんうん。良い感じですね」


 セリカの攻撃を逸らしながら、俺は内心で感動していた。


 彼女は拳や蹴りなど肉弾戦を武器にして、原作でも屈指の速度を持つ接近戦のエキスパート。


 強さも極まっており、セリカにお世話にならなかった者はいないんじゃないか、というくらいの優遇っぷりだった。

 初心者向けのキャラって後半で使えなくなることもあるのだが、セリカにはそれが当てはまらない。


 ゲームでもアタッカー役としての前衛で、敵にコンボを決める瞬間は凄まじい爽快感があったのを覚えている。

 難しいコンボは玄人向けで、それを決められれば文句なしで最強キャラの一人として数えられていた。


 そして今、目の前の小さな少女は俺に勝つため、不完全なコンボを叩き込もうと必死に身体を動かしている。


「食らえ!」

「ふっ!」


 セリカが小さな身体を利用して、極力近い位置から離れず細かい連打を放ってくる。

 フェイントも織り交ぜながら、反撃をさせまいと必死だ。


「ここ!」

「お?」


 突如腕を掴まれたかと思うと、彼女はまるでサーカスの一員のように腕を起点に俺の頭上をクルリと回る。

 そして背後に立つと、正面からは俺を攻撃するために力を溜めていたロイドの姿。


「行くぜぇぇぇぇぇ!」

「二人がかりは卑怯だが貴様相手なら仕方ない! 悪く思うな!」


 ロイドは全身と大剣に魔力を乗せ、凄まじい勢いでこちらに迫ってくる。

 これまでの連撃とは異なる、一撃の重さに賭けたそれは、彼の髪の毛を連想させる紅い魔力を放っている。


 背後のセリカも黄金の魔力を全身に巡らせながら俺に迫る。


「死ねぇぇぇぇ!」

「食らえぇ!」


 前後からの挟み撃ち。

 それも一撃に賭けた一点集中の攻撃は、まさしく敵を倒す上で最善策だ。


 少なくとも、実力上位の二人からの同時攻撃を受けきれる生徒は、この学園にもいないだろう。


 ――俺を除いては。


「まだ甘いな」


 ロイドは大剣を上段に構え、力強く振り下ろしてくる。

 魔法使いは全員、魔力で肉体を強化していたので、もしこれが直撃すれば普通の人間など潰れてしまうが。


「まあ、今だとこんなもんか」

「「なっ――⁉」」


 大剣を指二本で受け止め、セリカの一撃は反対の手の指二本で止める


 ロイドとセリカは驚愕した顔を見せるが、これが全力を出したこいつらと俺の力の差だった。


「ありえ、ねぇ! その細腕でなんでビクともしないんだよ⁉」

「魔力の練りの差だな」

「んなもん、元の肉体ありきの話だろうがぁぁぁ!」


 そんなこと言ったら、ソルト王とは巨大な龍を投げ飛ばしたりしてくるんだぞ。

 まあ今の俺なら同じこと出来るけど……。


 常識的な範囲で言うならロイドの言う通り身体強化の魔法は肉体の筋肉量などに比例するので、鍛えるのは無駄にはならない。

 見た目通り身体が大きいと、パワーも大きくなるものだ。


「そんな、アタシの全力が、指で止められるなんて⁉」

「まあ全力が出る位置にはしてあげられないからさ」


 セリカの戦いのキモは呼吸だ。

 武術は弱者が強者を倒すための技術。

 ジャイアントキリングの為の技は数多くあり、彼女の攻撃は下手に直撃すれば俺でもダメージを負ってしまう。


 もっとも、今みたいに呼吸を合わせてやると無力化も可能なので、今回は実力差を見せる意味でもやらせてもらった。


「というわけで……はいっと」

「おわぁ⁉」

「うぐ⁉」


 押し返してやりながら指を離すと、勢い余って二人が尻餅をついた。


「は?」

「おら」

「うげえぇぇぇぇ⁉」


 一歩、ロイドからしたら俺がワープでもしたかのようは速度で近づくと、そのままデコピンで吹き飛ばす。

 まるでトラックにでも轢かれたかのようにグルングルン縦回転しながら廊下の端まで飛んでいき、脳が揺れて気絶していることだろう。


「さて」

「っ――!」


 なんとか動こうとするセリカだが、それよりも俺が近づくと指をおでこに触れさせて。


「はい、俺の勝ち」

「あうっ」


 軽くデコピン一発。

 小さくて可愛いおでこがちょっと紅くなり、セリカは涙目になるが、これはこれでなんか可愛いな。


「まあ今回は不意打ちだったので、特に約束とか言う気はありませんけどね。次回から派閥戦争が始まったら乱入します。そんで勝ったら、ルール通り言うこと聞いて貰いますから覚悟してください」

「な、なんなんだよぉ……なにがしたいんだよお前はぁ」


 まだおでこが痛いからか手で押さえ、涙目のまま見上げてくる。

 

「リカちゃ……レオニダス様が欲しいんですよ。もちろん、恋人として」

「にゃ⁉」


 そう言った瞬間、おでこだけじゃなくて顔全部を真っ赤にして猫みたいな声を上げる。

 この子、そういう話に弱いからなぁ。


 おでこをさすってあげて、ついでに回復魔法をかけてあげる。


「お、おま……なに言って……!」


 動揺するセリカだが、力が入っていない。

 なので指を顎下に持っていき、まるでキスを誘うような体勢にすると、顔を近づけた。


「ぁ、ぁ、ぁ……」


 そして唇同士が触れるか触れないかのところで止まると、ニヤリと笑う。


「俺は噂通りの男なんですよ」


 そうして腰が抜けたように座り込んだセリカから距離を取るように立ち上がる。


「というわけで、これから覚悟してくださいね。もう俺、我慢しないって決めてますから」


 欲しいものは全部手に入れる。

 それがこの人生を生き続ける上で、俺が誓い続けていることだ。


「う、うん……」


 力の抜けたように、呆然と頷いたことに満足した俺は、背を向けた。


「くくく。さあ、楽しい原作の始まりだ」


 こうなったらとことんやってやる。

 もちろん原作通りの展開なんて許さず、俺にとって都合の良い形になるようにな!


「あ、悪魔め……」


 歩いていると、マックール派の男子からそんな声が聞こえてきたが、俺は無視する。


 今の俺は機嫌が良いからな!


 ああ、明日からが楽しみだ。なにせ派閥戦争に勝てば、一つ言うことを聞かせられる。

 もちろん無茶すぎることは教師から却下されるだろうが、ギリギリの条件を突きつければいい。

 

「はーはっはっは!」


 可愛いセリカやオウカの姿が見れる。

 そんな期待に胸を膨らませながら、俺は死屍累々となっている二学年の廊下をを高笑いしながら歩くのであった。


―――――――――――――

【後書き】

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