第47話 キョートで観光中……
離れを用意して貰えてて良かった。
そうじゃなかったら夜に獣たちの声で他の人たちの眠りを妨げてしまっていたところだ。
「布団、乱れてるなぁ」
オウカの計らいで着物のまま色々としたあと、休めるようにみんなで浴衣に着替えた。
それはそれで身体のラインが着物よりはっきりわかって良かったのだが、さすがにそれ以上はせずに就寝。
そしてまだ日が昇りきっていないうちに起きた俺は、まだ眠りについているみんなを起こさないように部屋の外に出た。
屋敷の中庭にある岩に乗り、空を見上げた。
丸い月は別世界と繋がっていると言われているが……。
「日本、か……」
俺があっちの世界で生きていたのは、もう十五年も前の話だ。
この世界で生きていくと決めたとき、前世の事はゲーム知識以外は思い出さないようにしていた。
生き延びることに必死だった、とも言える。
だがこうして似た雰囲気の場所に来ると、否応なしに思い出してしまう。
「前世の家族はみんな元気でやってるかねぇ」
別に両親と死別した状態だったわけでもなく、仲も普通に良好だった。
いやまあ、俺が死んだから死別したのか。
きっと悲しませた俺は、親不孝者だ。
もしあの月を通って異世界に行けるなら、まずそのことを謝りたい。
ただ、今の世界を捨てて日本に戻りたいかと言われると、また違っていた。
そう思うには、この世界で大切な者が増えすぎて……。
「ああ、駄目だな。なんかセンチな気分になっちまった」
もしかしたらまだ、食事の酒が残っていたのかも知れない。
もっと馬鹿みたいにエロいことを考えている方が俺らしいのに、なに急に真面目な雰囲気出してるんだか。
ふと、背後から足音が聞こえた。
「旦那様、眠れないのですか?」
「ああ。ここは星がよく見えるから、眺めてた」
「隣に行ってよろしいです?」
「俺の恋人……いやもう婚約者なんだから遠慮なんてしないでいいぞ」
とはいえ、岩は二人が並ぶと少し狭い。
だからか隣に来たオウカは俺の肩に頭をもたれかからせてきた。
俺はその肩に手を回して支えると、甘えるように頭を揺らす。
なんだこの生き物、可愛すぎるんだが。
「ふふふ、みんなの旦那様を独り占めしてしまいました」
「嬉しいのか?」
「はい。我が儘を言う気はありませんが、それでも自分だけのときは格別に嬉しいです」
やっぱり、もっと一人一人との時間を大切にするべきだよなぁ。
俺が逆の立場だったら、そりゃあもう嫉妬しまくると思うし……そこは頑張ろう。
「某は、旦那様と出会えて良かった」
「こんなエロいことばかりしてるのに?」
「愛されている実感を常に感じておりますから」
「それは間違いない」
「ですが……」
オウカの声色が穏やかなものから、少し強ばる。
「時々見せる、はるか未来を見ているような旦那様を見ていると不安になります。某たちは、それについて行けているのか、と」
「……」
「みんなわかっていて、ですが言いません。某も、旦那様がなにを考えているのか聞きませぬ。ただ、置いていかないで欲しい」
「置いていかないさ。ここが俺の目指していた場所だからな」
そう、この世界に転生して、世界を救う重圧に苛まされて、我武者羅に生きていた。
分かっている悪い未来はすべて潰したし、子どもではあり得ない知恵と力を持った。
その功績によってラスボスであるソルト王を懐柔し、世界の命運を変えたのだ。
あとは勝手に、運命を変えてしまったヒロインたちを助けないと、なんて気持ちが少しあって、彼女たちを自分が守ると決めて……。
「まあ、それも傲慢か」
「旦那様?」
「お前達は俺が幸せにするって決意しただけだ」
ただ、これから先のヒロインたちのことまで俺が背負う必要はないのかもしれない。
まあよほど厄介な出来事以外は、自分たちで頑張って貰おう。
だって俺の両手は、今の恋人たちを守ることでいっぱいなんだから。
「さて、それじゃあ寝るか」
「……旦那様が格好良いこと言うから、少し胸が熱くなってしまいました」
ちらっと、自分の浴衣をはだけさせる。
オウカの屋敷は広く、離れの部屋と本館はかなり遠い。
そして丁度この岩は、人の身体くらいは隠せる程度には大きく――。
「オウカ、降りたら岩に手を手を付けて腰を上げろ」
「はい……」
俺たちの行いを、お月様だけが見ていた。
翌日、しばらくキョートに滞在することになった俺たちは、着物を着て観光をすることになった。
異国の美人集団が着物を着て歩いていると、それだけで人目を引く。
シンシアたちも異国の雰囲気に少しテンションが上がっているのか、楽しそうにあちことを見渡していた。
時折悪意のある視線を感じるが、まあ俺に対する嫉妬だろう。
相手にする必要も無い。
などと思っていると、十人ほどの団体がこちらに向かってくる。
俺たちの進行方向で止まると、先頭にいた着物に刀を差した男が、一瞬俺を睨んだ後オウカを見る。
「おいオウカ! そいつはどういうことだ!」
「ああ、リンドウか。こちらは某の旦那様になる男だが、なにか?」
「なにか、だと! お前は俺の物になる予定だっただろうが!」
……聞き捨てならない台詞を聞いてしまった。
「オウカ、それ本当か?」
「いえ、まさか。某が学園に行く前に何度も決闘を仕掛けてきて、勝ったら嫁になれと言ってきたので毎回ボコボコにしてやっただけの間柄です」
「なるほど……ストーカーか」
「誰がストーカーだ! ちゃんとした約束をした結果だろうが!」
そうは言うが、振られ続けてなお付き纏うのは立派なストー……まあ本人同士の関係次第か。
とはいえ、自分の物になる予定とは、ずいぶんと自分勝手な言葉を吐くやつだ。
「俺は修行し続けて強くなった! 学園で遊んでいた今のお前なら勝てるほどにな!」
「ほう……」
オウカの目が鋭くなる。
元々戦闘狂なところがあるから、強くなったという部分に反応したのだろう。
「なら試して――」
「オウカ、相手にする必要は無い」
「旦那様がそう言うのであれば……」
「なっ⁉」
恐らくこいつがこんなに素直に言うことを聞いていることに驚いているのだろう。
「オウカはもう俺の女だ。たとえお前にどんな過去があろうと、それが覆ることはない」
「そ、そんなことない! そもそも、お前みたいに剣もまともに使えなさそうな男がオウカに勝てるはずがないだろうが! なにか卑怯な手を使って無理矢理従わせているだけだろう!」
「リンドウ……貴様っ――⁉」
俺を馬鹿にされて怒ったのか、斬りかかろうとしたを止める為にキスをする。
ついでに身体を抱き寄せ、少し服の中に手を入れた。
「ん、は、ぁ……だ、だんなさま……こんな往来でぇ」
「あ、あ、あ……お、おうか……?」
目の前で好意を持った相手を女にされたことに、リンドウ君が動揺している。
そのまま再びキスをしたり、イチャイチャを繰り返すと周囲を歩く通行人たちも色っぽくなっていくオウカに目が離せなくなっていた。
「き、貴様ぁぁぁぁ! 許さん、絶対に許さんぞ! 決闘だぁぁぁ!」
「いいぞ、やろう。こういうのは久しぶりだ」
「勝ったらオウカを解放してもらうからな! 付いてこい」
リンドウ君の取り巻きに囲まれて、彼の向かう先に付いて行く。
「……クロード、お前なんか楽しんでないか?」
「こういうの久しぶりだからねリカちゃん。それよりオウカを支えてあげて」
「リカちゃんっていうなよぉ……あとで私にもさっきみたいにしてくれる?」
「もちろん」
俺らを取り巻く男達の視線がまた強くなったが、気のせいだな。
しかし学園だと俺に立ち向かってくるようなやつはもう居なかったから、こういうのは本当に久しぶりだ。
オウカの為にも負けられないから頑張ろうっと。
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