第25話 鬼神を調伏し、そしてその後……

 元の原作がゲームであり、四天王などという役職があることからわかるとおり、各キャラクターには特色がある。


 その中でこのオウカ・イガラシという少女は刀を使うサムライであり、近接戦闘のエキスパートだった。


「あははははは! 斬れない! 斬れない! 斬れない! 己は剣が触れられないとはこれ如何に⁉」


 刀を振り回しながら俺を斬ろうと前後左右凄まじい勢いで迫ってくる。


 その技量は先日倒したロイドとは比べものにならず、俺が指で掴もうとするとどういう理屈が剣を止めて鞘に戻し、再び居合いからの抜刀。


 現実なら居合い術なんて相手との間合いなどを錯覚させるためにあり、剣速が跳ね上がるようなことはないのだが……。


 魔力を通された鞘から解き放たれた剣は、ただ振るう数倍は早く俺の身体を狙ってきた。


「これも躱すか⁉ 素晴らしい!」

「楽しそうだなぁ……」

「某は今とても楽しいぞ!」


 俺はこんな風に殺伐としたことよりも、一緒に街を歩いてデートしたり、ベッドでイチャイチャしたりする方が楽しいんだけど。


 まあそれは後でのお楽しみとして、今は真剣に迎え撃とう。


 再び間合いを詰めてきて刀を振るうが、明らかに先日倒したロイドやセリカよりも強い。


 実力は他の四天王と比べても頭一つ上で、彼女の派閥が同列に扱われているのは単純に権力に興味がないからだ。

 もし彼女が本気で力を振るっていれば、学園の勢力図は一瞬で塗り替えられていたことだろう。


 そして本気を出したオウカの実力は、この学園を支配していた三学年のライゼンよりも遙かに上だった。


「あぁ……良い。まるで当たる気がしない……己なら、某のすべてが見せられます」


 ――まあ、当然か……。


 彼女は修羅の国ジパングの侍大将の娘。

 幼い頃から厳しい修練を積んできた、本物の剣鬼だ。


 ゲームだとシステム的な話でライゼンが主人公パーティーに対して一人で戦うこともあり、強さも上に思われるが、現実ではそこまでの強さはなかった。


 物語としては最終的にはシンシアが己の過去を乗り越えて一人で倒したことになるし、戦った限りライゼンの実力は学園生の域を超えなかった。


 だが、オウカは違う。

 彼女の実力はすでに学園生を余裕で超えており、彼女と対抗出来る生徒はシンシアくらいか。


 しかしそれも、普通の状態のオウカが相手の場合。

 そして今の彼女が相手だと敵わないだろう。


「うは……うはは! うはははは! 思った通りだ! 己なら某のすべてを出せる! 我が心の内に眠る鬼すら調伏出来るかもしれない!」

 

 オウカの身体から漏れ出ている紅い魔力に鬼のような瞳。

 これはジパングのサムライの中でもごく一部の者だけに訪れる、先祖返りの力。


「あぁぁ! あぁぁぁぁぁ!」


 段々と意識すら持っていかれているのか、声が人の物から本物の鬼神のように。

 持っている剣に魔力が宿り、血を垂れ流しているようにも見える。


 剣をだらんと構えたオウカはもう正気を保っておらず、凄まじい勢いで迫ってきた。


「これが鬼神化か」


 俺はゲームでも知っていた彼女に宿る力を冷静に見る。


「ガァァァァァ!」

「ふっ!」


 刀を一振りされるだけで凄まじい魔力が飛び、衝撃が辺り一帯を震わせる。

 さすがになんの対策もなく受け止めることも出来ず、俺は受け流しながらオウカの目を見つめていた。


「オウカ様! それ以上はいけませぬ!」

「侍大将からも止められている禁忌の力!」


 他のイガラシ派の面々はさすがにここまでするとは思っていなかったのか、かなり驚いた様子。

 

 まあそれもそうだろう。

 先祖返り自体は良くある現象だが、オウカはその中でも最強の一角であり、鬼神の力を宿して生まれた存在。


 その力はまさに神のごとく、並の人間では力に溺れてしまうのが関の山だ。


 原作でこの力はオウカの物語終盤に出てきて、それを抑え込むことで己の力とすることでカルラ姉さんとの一騎打ちに挑む。


 最終的に彼女が勝利することでカルラ姉さんは主人公たちの強さを認め、そしてソルト王との戦いを決めた。


 つまりこれは、本来の歴史であればあのブルーローズを相手取る力でもある。


「まあもっとも、力に振り回されてる内は絶対に勝てないけどな」

「ッ――⁉」


 刀を持つ手首を押さえて上に跳ね上げると、そのまま彼女のお腹に掌底を放つ。

 それで息を吐きながら吹き飛び、しかしまた獣のように襲いかかってきて……。


 しかしもう、彼女の動きは完全に見切っている。


「これで終わりだ」

「ガッ⁉」


 今度は顎を打つ。

 脳が揺れた今、たとえ神のような力を持っていても肉体は動かないだろう。


 ゆっくりとふらつき、少ししてそのまま倒れそうになり、俺が抱きかかえた。


「さて、まだやるか?」


 俺がイガラシ派のやつらを睨むと、彼らは首を横に振る。

 

「元々、オウカ様が満足出来る戦いが出来れば良かったので、これ以上の敵対はしません」

「もちろん貴方が望むのであれば、我らイガラシ派は腹を切る所存!」

「いや、そこまで望んでねぇよ」


 これだから修羅の国のやつらは覚悟が決まってやがる。

 四天王の中でもイガラシ派は他国の人間はいれず、最初からジパングの人間だけで構成されている。


 それも全部このオウカを支えるためで、彼女が死ねと言えば死ぬ狂信者たちだ。

 だからこそ、少数でありながらも他の派閥に比べて圧倒的に強い戦力が集まっていた。


「ほら。ゆっくり休まさせてやれ」

「いえ、オウカ様から言付けされておりますので、それは出来ませぬ」

「あ?」


 満足するくらい戦わせてやったのに、まだなにかあるのか?


 こっちとしては身内が叩きのめされたから……まあこいつらには良いお灸になったけど、それでも反撃する理由はあるんだけど。


「もしオウカ様が負けたら、その身を捕虜として好きにして欲しい、とのこと」

「……好きに?」

「好きに、です」


 思わず腕の中のオウカを見る。

 先ほどの狂気は消え去り、ただただ美人な少女がいるだけで……。


 思わず俺の喉がゴクリとなる。


「本当に好きにするぞ俺は」

「以前ライゼンとの戦いでリンテンス殿を見て、さらに先日の他派閥たちを倒したことで決意が出来たようで」

「もし自らが負けるようなら、すべてを捧げると言っておりました」


 まじか……まじか。


 何度本気で好きにすると伝えても、彼らも問題無いの返答だけ。

 本当に覚悟が決まっているからか、誰も俺からオウカを取り返そうとする者はいなかった。


「どうぞそのまま」

「……せめて、目を覚ましてからな」


 そう言うとイガラシ派のやつらは微笑み、そして去って行く。

 残された俺が腕の中で気絶しているオウカを見ると、やはりとても美しい顔立ちをしていて……。


「柄にもなく、緊張してきたな」


 お姫様抱っこの体勢にし、死屍累々となったブロウたちに背を向けて自分の部屋に持ち帰った。


 その後……。


「剣しか知らぬ無骨ものですが、この身はすべて捧げさせて頂きます。どうか何卒、よろしくお願い致します」


 ――旦那様。


 目を覚ましたオウカが身一つない生まれたままの姿で三つ指をついて、頭を下げながらそう言う。


 ベッドの上に座り、それを見下していた俺は凄まじい支配欲がわいてきて、再び彼女を抱き寄せる。

 そして夜の間、艶声が部屋中に鳴り響き……俺は彼女の望み通り鬼を調伏した。


 そして朝――。


「最高だった……」

「だんなさま……お慕い、しております」


 腕の中で眠る美女の寝言を聞きながら、その身体を抱き寄せる。

 一つだけ言えることはまあ、彼女は尽くすタイプだったということだ。

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