第19話 最大派閥が生まれた日
こいつから良い報告を聞いた覚えがないし、もう次からブロウの報告聞くの止めようかな。
今の時期になにか面倒事が起きるとしたら二年生同士の派閥争い関係だと思ったら、どうやら問題は三年生で起きたらしい。
「三年生を中心に、反リンテンス派閥が生まれました!」
「は?」
意味がわからない。
なに勝手に変なもの産んでんじゃないよ三年生。
そもそも俺、お前らになにか悪いことしてないだろうが。
「集まっている有力貴族は多く、一、二学年も合流! このままだと学園最大派閥になりかねません!」
「なんでだよ!」
え、俺そんなに嫌われてるのか?
それはさすがにショック過ぎるんだが……。
「すでにこのクラスからも離反者が! あいつとかあいつとか!」
「「「っ――⁉」」」
ブロウがチクるように指さすと、さっと視線を背けるクラスメイトの男子たち。
おいお前ら……。
「現時点で先導者は不明ですが、凄い勢いです! どうしましょう⁉」
「その前に一ついいか?」
「はい! なんなりと!」
「それを特ネタとか言うんじゃねぇよ!」
逃げだそうとする三人の男子生徒を捕らえながらそうツッコミを入れた。
とりあえず反リンテンス派閥に入ったとかいうクラスメイトたちを机に縛り、魔女裁判を始めることに。
「で、お前らなんで変な派閥に入ってんの?」
「う、うぅぅ……」
「俺なんもしてないよな? な?」
「ひ。ひぃぃぃ……」
怯えた顔しやがって。
別に取って食ったりはしないって。
というか立ち位置が完全に悪役なんだが、俺って主人公のはずなのになんでこんな感じになってんだろう?
誰だよ原作の修正力があるかもとか言ったやつ。
欠片も原作にない嫌がらせみたいなイベント発生してんじゃねぇか。
「あ、アリス様に近づくからだ!」
「え? 私」
捕まえた三人のうち、一番家の権力が高い男が俺を睨みながら叫ぶ。
覚えがないのかアリスは自分を指さして首を傾げた。
「リンテンスはこの学園の美少女を全部自分の物にするつもりだって! お、俺たちだってお近づきになりたいのに!」
「そうだそうだ! 俺たちのアリス様を返せ!」
「シンシア様を返せ!」
最初の一人を皮切りに、そう息巻く男子たち。
そしてそれを軽蔑の眼差しで見るクラスの女子たち。
「なあブロウ、一個聞いていいか?」
「はい! なんなりと!」
「もしかして反リンテンス派って……男ばっかり?」
「大多数が男で構成されてます! どうやらシンシア様ファンクラブやアリス様を愛する会と言った面々が合併して出来たらしいので」
思わず天井を仰ぐ。
なんだよその漫画やゲームみたいな組織……あ、ここって元々ゲームだったか。
というか、なんでそんな噂が流れてるんだ?
それを言ったのはミリーだけのはずなんだが、まさか……。
「わ、私じゃありません! 信じてくださいご主人様!」
「うーん……」
必死に否定する姿に嘘はなさそうに見える。
以前俺とヤッたあと、武勇伝を語るとか言ってたからそのことかと思ったが、どうやらそれは悪役たちを倒して女子生徒を救ったという正義の話だった。
しかし、だとしたらいったいこの状況はなんなんだ?
「あの御方が言ったんだ! 俺たちが力を合わせればリンテンスを倒せるって!」
「美少女はみんなで共有して愛でる! 手を出すなんて以ての外!」
「お前の悪行もここまでだ!」
「いやだから、俺別にそこまで悪行らしいことしてないって」
むしろやってきたことは主人公らしく正義の味方だろうが。
ただちょっとやり過ぎたかもしれないけど、なんか変な風に派閥が出来たけど!
しかしちょっとムカついてきた……。
「おいアリス、ちょっといいか」
「えーと、なにかな?」
アリスは自分が原因の一つになっていることが気まずいのか、微妙な顔をしている。
近づいて来た彼女に顔を近づけて、小さく耳打ち。
「ちょっと俺の女になってくれ」
「うぇ⁉ ちょ、いきなりなに言ってるの⁉」
「振りでいい。あとでミリーの胸揉ませてやるから」
「乗った!」
軽いなこいつ。変な男に捕まらないと良いけど。
まあ今の俺にとっては都合が良いので、そのままアリスの腰を抱き寄せ、縛っている男たちに近づく。
こいつも良い匂いするな……。
「ちょっと、近いかも……」
「恋人の振りなんだからいいだろ……おいお前ら、見ての通りだ」
「「っ――⁉」」
目の前でアリスの顎を撫でたり、抱きついたりして身動きが取れない男たちに見せつける。
「こいつももう俺の物だからな。お前らには指一本触れさせねぇよ」
「く、クロード君の物?」
「振りだって言ってんだろ」
「ん、そっか……そうだよね……」
先ほどと違って男たちとの距離が近いから、聞こえないように耳元で囁くように言うと、熱にうなされているように瞳をトロンとさせる。
おいおい、そんな女の顔をしたら俺も本気になっちゃうだろうが。
「振りだから、色々触って良いよ……」
「……」
そう言われて、腰に回した手を下に持っていく。
この学園の制服はスカートが短いので、すぐに手が太股に触れた。
「ん……」
指をそっと上に沿わせると、アリスの口から艶めかしい吐息が零れる。
顔が近いのでそれが顔に当たり、くすぐったい。
恥ずかしさで紅潮した頬に潤んだ瞳は、もっとしてくれとねだっているようにも思えた。
ちょっとだけ、腰に回している手を上に持っていき、偶然を装って彼女の胸を掴む形にする。
……抵抗はない。
反対の手、太股に這わせた指をスカートにかけて、少し上に。
下着が見えるギリギリまで持ち上げると――。
「や、止めろ、止めてくれぇ!」
「俺たちのアリス様は、触れちゃ駄目な神聖な存在なんだ!」
どうやらここにいる三人の内、アリス様を愛でる会の人間は二人らしい。
瞬きなどしてたまるかと言わんばかりに目を見開いて、鼻息荒く興奮している。
「言ってることと行動が全然違うなこいつら」
だがまあ、助かった。
場に流されて俺も本気でアリスを手に入れようとしてしまっていたが、こいつらが馬鹿みたいに騒いでくれたおかげで教室だったことを思い出す。
「あ……もう、いいの?」
「もういい。というかお前ももっと抵抗を……」
アリスを見ると、もっと強請るような態度。
これ、本当に振りか?
というか教室にはクラスメイトたちがいるんだから、女子たちも止めろよな。
なんでちょっと期待した顔で見てんだよ。
男たちも内股にするな。
「はぁ……それで、結局お前たちを唆したのは誰だ?」
さっきあの御方とか言ったのを、聞き逃してないぞ。
アリス様を愛でる会とかいうやつの正面に立ち、俺は優しく微笑む。
「言わなきゃ、アリスを部屋に連れ込む」
「う、うぅぅ……この、悪魔めっ! あの御方というのはなぁ――!」
「おい、絶対に言うなよ! あの御方がきっとこいつを倒してくれる!」
「でも! このままだとアリス様がこいつの手に……!」
抵抗しているのはシンシア様ファンクラブのやつか。
俺はそっとそいつに耳打ちするように一言。
「俺は昨日、シンシアとキスしたぞ」
「あばばばばばっ――⁉」
まるで脳がおかしくなったかのように変な奇声を上げ始めた。
いや、怖いわ。どんだけだよ。
まあこれで邪魔者は消えた。
あとはアリス様を愛でる会のやつだけだし、簡単だ。
俺は再びアリスファンの男の肩に手を置くと、笑顔を見せる
「さ、言って貰おうか」
「く、くそぉぉぉぉぉ!」
俺が来ることがわかっていたのか、二年の教室にはあの御方と呼ばれる女子生徒だけが残っていて、他に誰もいない。
彼女は楽しげに微笑むと、俺に近づいて来た。
「目的を明確にした上で共通の仮想敵を作る。組織の基本でしょ?」
「……」
「それに貴方が四天王の子たちに言ったように、無理矢理勧誘なんてしてないわよ。彼らはみんな、自発的に集まってきたの。私の思想に共感してね」
あの御方――レオナ王女は、心底楽しそうに俺を見つめる。
そう、その通り。
レオナはあくまでも派閥の目的を提示しただけ。
恐らく情報操作なども十分行った結果だろうが、それでも無理矢理の勧誘ではない。
「ふふ、貴方にこれを止める資格はないわ」
「そうで……いや、反リンテンス派とか名乗ってるんだから、ありません?」
「ないわ」
ないのか。
うちの国の王女が言うんじゃ仕方ない。
だって侯爵なんて所詮管理職みたいなものだからな。
お上には逆らえんのです。
「さあ、これから楽しくなるわね。他の派閥の子たちも、新興から一気に最大派閥に成長した私たちをに焦りを感じてもっと過激に動き出す。かつてない学園戦国時代の始まりよ!」
瞳を見れば、彼女がここでどれだけの犠牲が出ようと関係なく、自分の快楽のためだけに動こうとしているのがよくわかった。
あの親にしてこの子あり。
本当に征服王の資質をもってやがる。
瞳もキラキラ輝いていて、なんか人生超楽しそう。
「三年生だからもう卒業まで大人しくする? 学園でのんびり過ごす? そんなことさせないわ。ここは魔法学園よ。才能は磨かないと駄目に決まってるもの」
「せめて俺の関係ないところでやってくれません?」
「い・や・よ」
滅茶苦茶可愛い笑顔で言いやがって。顔が良いって得過ぎる。
本気で力ずくで言いなりにしてやろうか。
でも王になるのは勘弁な。
「一個だけ言って良いですか?」
「ええ、どうぞ」
「反リンテンス派閥が最大派閥になるこの学園、頭大丈夫?」
「面白いわよね、この学園」
クスクス笑う彼女が魅力的だから、早く誰か貰ってやってくれと思わずにはいられなかった。
そして翌日。
レオナの言う通り学園の派閥戦争は一気に動きを見せ始めるのであった。
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